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Chapter15*ラスボスは、地下(ダンジョン)ではなく最上階にいる。

ラスボスは、地下(ダンジョン)ではなく最上階にいる。[1]ー⑥

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「所属しているコミュニケーションズには中途採用で入社しましたが、それはわたし自身がトーマビールが大好きで、その魅力を多くの方に知って頂きたい、親しんでもらいたいと思ったからです。特に造りたてのトーマラガーは、芳醇な香りと程よい苦み、喉ごしの良さ、すべてのバランスが良くて、何度飲んでも飽きることはありません。わたしにとってトーマラガーは世界一のビールです!」

鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をするCEOに構わず続けた。

「こんな素晴らしいビールを造ってくださって、ありがとうございますっ!!」

言い終わったあと、わたしは勢いよく頭を下げた。

シーンと静まり返った部屋。

(あれ、わたし何かまずいこと言っちゃった…!?)

不安が過った時、「ぷっ」と小さく吹き出す音が。

(アキったら……、なにも笑わなくていいじゃないっ!)

そう思いながら隣をキッと睨んだら、彼は笑ってなどいない。それどころか、なにやら“苦いものを噛んだような”顔になっていて。

えっ、と思ったら今度は「くくくくっ」と笑う声が聞こえてきた。顔を上げると、そこには口元を覆って肩を震わせているCEOの姿が。

「あの、」とわたしが口を開いたところで、噛み殺していた笑いが本格化した。

「あははははっ」とお腹を抱えて笑うCEO。
それとは逆に、苦虫を噛み潰したような顔のアキ。

やばっ……もしかしてやらかした!?

焦ってなにかもっとましなことを言わなければと言葉を探す。

「あの……わたしには特別な力も才能もありません……でも、もっと多くの人にトーマビールを愛してもらえるよう、これからはアキと一緒に鋭意努力いたします……だから、」
「静川ん」
「―――はい」

静かに名前を呼ばれ、自然と背筋が伸びた。

わたしを真っ直ぐにみつめるのは、目尻に向かって下がるくっきりとした二重まぶた。
ふたつのそれらが柔らかな弧を描くのを見つめながら、(アキの笑顔と同じだ)――そう思った時、CEOが口を開いた。

「ありがとう」


「とりあえず座りなさい」と促されたわたしがソファーに腰を下ろしたあと、CEOが口を開いた。

「こんな盛大な愛の告白を貰ったのは、妻が亡くなって以来だな」

両目を見開いて固まるわたしに、CEOは相好を崩して上機嫌。
反対にアキは不機嫌タラタラな模様。

「父さんへの愛じゃないだろ」
「妬いているのか? 狭量な男は嫌われるぞ」
「うるさいな」

不貞腐れた息子に、父親の方は「ふんっ」と鼻で笑う。

「同じことだ。我が社のビールをこんなにも愛してくれるのならば、もちろんTohmaのことも大事に想ってくれている。そうでしょう、静川さん」
「はいっ!」
「ということは、Tohmaを担う私のことも大事に想ってくれている、ということだ」
「こじつけがひどすぎますよ、父さん」
「くくっ……おまえも好きな女のことに関しちゃただの男だな。まあ、いい。最後まで黙って聞きなさい、聡臣」
「………」
「Tohmaを愛するということは、Tohmaの未来をも愛するということだ。それすなわち、未来のTohmaを背負うおまえを愛するということ。そうだろう?静川さん」

CEOに訊ねられたことに、わたしはすぐに頷けなかった。

だって、それは――。

「お言葉ですが、それは違います」

キッパリと言い切ったわたしに、目の前のCEOだけでなく隣からもピクリと固まる気配。だけど構わず続ける。

「わたしがアキを…聡臣さんを愛しているのは、彼がTohmaの後継者だからでも御曹司だからでもありません。真面目で優しくて家族思いで……でも変なところで不器用で一生懸命。そんな彼だから好きになったんです。もし彼が、Tohmaを辞めて他の仕事に就きたいと言ったとしても全然構いません。わたしは変わらず彼とトーマビールを愛するだけ。そのふたつに関連性は一切ありません」
ひと息に言い切ってから、「ふぅ~」と息をつく。その音が思ったより大きく聞こえて、わたしは部屋が静まり返っていることに気が付いた。

や、やばい……またやらかしたかもっ!

静寂に耐えきれず「えっと……」と口にしたところで、隣から伸びてきた腕にきつく抱きしめられた。

「のわっ、な、なにア、」
「やっぱり静さんは最高だ!」

言うなりアキは、わたしを抱き上げた。

「ちょっ、アキっ……!」

CEOの前でなにすんのよっ…!

いきなり高くなった視界に体が強張って、彼の首にぎゅっとしがみ付く。脳内では大いに暴れているわたしだけれど、実際は固まっていることしか出来ない。
するとアキは、その場でクルクルと回り始めた。

「僕の伴侶パートナーは最高の女性だ!」
「ちょっ、アキ、ストップストップ!!」

アキにしがみ付きながら叫ぶ。もう、目が回っちゃうから…!

目をギュッとつぶって叫ぶと、アキが回転を止めた。
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