83 / 106
Chapter15*ラスボスは、地下(ダンジョン)ではなく最上階にいる。
ラスボスは、地下(ダンジョン)ではなく最上階にいる。[1]ー⑥
しおりを挟む
「所属しているコミュニケーションズには中途採用で入社しましたが、それはわたし自身がトーマビールが大好きで、その魅力を多くの方に知って頂きたい、親しんでもらいたいと思ったからです。特に造りたてのトーマラガーは、芳醇な香りと程よい苦み、喉ごしの良さ、すべてのバランスが良くて、何度飲んでも飽きることはありません。わたしにとってトーマラガーは世界一のビールです!」
鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をするCEOに構わず続けた。
「こんな素晴らしいビールを造ってくださって、ありがとうございますっ!!」
言い終わったあと、わたしは勢いよく頭を下げた。
シーンと静まり返った部屋。
(あれ、わたし何かまずいこと言っちゃった…!?)
不安が過った時、「ぷっ」と小さく吹き出す音が。
(アキったら……、なにも笑わなくていいじゃないっ!)
そう思いながら隣をキッと睨んだら、彼は笑ってなどいない。それどころか、なにやら“苦いものを噛んだような”顔になっていて。
えっ、と思ったら今度は「くくくくっ」と笑う声が聞こえてきた。顔を上げると、そこには口元を覆って肩を震わせているCEOの姿が。
「あの、」とわたしが口を開いたところで、噛み殺していた笑いが本格化した。
「あははははっ」とお腹を抱えて笑うCEO。
それとは逆に、苦虫を噛み潰したような顔のアキ。
やばっ……もしかしてやらかした!?
焦ってなにかもっとましなことを言わなければと言葉を探す。
「あの……わたしには特別な力も才能もありません……でも、もっと多くの人にトーマビールを愛してもらえるよう、これからはアキと一緒に鋭意努力いたします……だから、」
「静川ん」
「―――はい」
静かに名前を呼ばれ、自然と背筋が伸びた。
わたしを真っ直ぐにみつめるのは、目尻に向かって下がるくっきりとした二重まぶた。
ふたつのそれらが柔らかな弧を描くのを見つめながら、(アキの笑顔と同じだ)――そう思った時、CEOが口を開いた。
「ありがとう」
「とりあえず座りなさい」と促されたわたしがソファーに腰を下ろしたあと、CEOが口を開いた。
「こんな盛大な愛の告白を貰ったのは、妻が亡くなって以来だな」
両目を見開いて固まるわたしに、CEOは相好を崩して上機嫌。
反対にアキは不機嫌タラタラな模様。
「父さんへの愛じゃないだろ」
「妬いているのか? 狭量な男は嫌われるぞ」
「うるさいな」
不貞腐れた息子に、父親の方は「ふんっ」と鼻で笑う。
「同じことだ。我が社のビールをこんなにも愛してくれるのならば、もちろんTohmaのことも大事に想ってくれている。そうでしょう、静川さん」
「はいっ!」
「ということは、Tohmaを担う私のことも大事に想ってくれている、ということだ」
「こじつけがひどすぎますよ、父さん」
「くくっ……おまえも好きな女のことに関しちゃただの男だな。まあ、いい。最後まで黙って聞きなさい、聡臣」
「………」
「Tohmaを愛するということは、Tohmaの未来をも愛するということだ。それすなわち、未来のTohmaを背負うおまえを愛するということ。そうだろう?静川さん」
CEOに訊ねられたことに、わたしはすぐに頷けなかった。
だって、それは――。
「お言葉ですが、それは違います」
キッパリと言い切ったわたしに、目の前のCEOだけでなく隣からもピクリと固まる気配。だけど構わず続ける。
「わたしがアキを…聡臣さんを愛しているのは、彼がTohmaの後継者だからでも御曹司だからでもありません。真面目で優しくて家族思いで……でも変なところで不器用で一生懸命。そんな彼だから好きになったんです。もし彼が、Tohmaを辞めて他の仕事に就きたいと言ったとしても全然構いません。わたしは変わらず彼とトーマビールを愛するだけ。そのふたつに関連性は一切ありません」
ひと息に言い切ってから、「ふぅ~」と息をつく。その音が思ったより大きく聞こえて、わたしは部屋が静まり返っていることに気が付いた。
や、やばい……またやらかしたかもっ!
静寂に耐えきれず「えっと……」と口にしたところで、隣から伸びてきた腕にきつく抱きしめられた。
「のわっ、な、なにア、」
「やっぱり静さんは最高だ!」
言うなりアキは、わたしを抱き上げた。
「ちょっ、アキっ……!」
CEOの前でなにすんのよっ…!
いきなり高くなった視界に体が強張って、彼の首にぎゅっとしがみ付く。脳内では大いに暴れているわたしだけれど、実際は固まっていることしか出来ない。
するとアキは、その場でクルクルと回り始めた。
「僕の伴侶は最高の女性だ!」
「ちょっ、アキ、ストップストップ!!」
アキにしがみ付きながら叫ぶ。もう、目が回っちゃうから…!
目をギュッとつぶって叫ぶと、アキが回転を止めた。
鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をするCEOに構わず続けた。
「こんな素晴らしいビールを造ってくださって、ありがとうございますっ!!」
言い終わったあと、わたしは勢いよく頭を下げた。
シーンと静まり返った部屋。
(あれ、わたし何かまずいこと言っちゃった…!?)
不安が過った時、「ぷっ」と小さく吹き出す音が。
(アキったら……、なにも笑わなくていいじゃないっ!)
そう思いながら隣をキッと睨んだら、彼は笑ってなどいない。それどころか、なにやら“苦いものを噛んだような”顔になっていて。
えっ、と思ったら今度は「くくくくっ」と笑う声が聞こえてきた。顔を上げると、そこには口元を覆って肩を震わせているCEOの姿が。
「あの、」とわたしが口を開いたところで、噛み殺していた笑いが本格化した。
「あははははっ」とお腹を抱えて笑うCEO。
それとは逆に、苦虫を噛み潰したような顔のアキ。
やばっ……もしかしてやらかした!?
焦ってなにかもっとましなことを言わなければと言葉を探す。
「あの……わたしには特別な力も才能もありません……でも、もっと多くの人にトーマビールを愛してもらえるよう、これからはアキと一緒に鋭意努力いたします……だから、」
「静川ん」
「―――はい」
静かに名前を呼ばれ、自然と背筋が伸びた。
わたしを真っ直ぐにみつめるのは、目尻に向かって下がるくっきりとした二重まぶた。
ふたつのそれらが柔らかな弧を描くのを見つめながら、(アキの笑顔と同じだ)――そう思った時、CEOが口を開いた。
「ありがとう」
「とりあえず座りなさい」と促されたわたしがソファーに腰を下ろしたあと、CEOが口を開いた。
「こんな盛大な愛の告白を貰ったのは、妻が亡くなって以来だな」
両目を見開いて固まるわたしに、CEOは相好を崩して上機嫌。
反対にアキは不機嫌タラタラな模様。
「父さんへの愛じゃないだろ」
「妬いているのか? 狭量な男は嫌われるぞ」
「うるさいな」
不貞腐れた息子に、父親の方は「ふんっ」と鼻で笑う。
「同じことだ。我が社のビールをこんなにも愛してくれるのならば、もちろんTohmaのことも大事に想ってくれている。そうでしょう、静川さん」
「はいっ!」
「ということは、Tohmaを担う私のことも大事に想ってくれている、ということだ」
「こじつけがひどすぎますよ、父さん」
「くくっ……おまえも好きな女のことに関しちゃただの男だな。まあ、いい。最後まで黙って聞きなさい、聡臣」
「………」
「Tohmaを愛するということは、Tohmaの未来をも愛するということだ。それすなわち、未来のTohmaを背負うおまえを愛するということ。そうだろう?静川さん」
CEOに訊ねられたことに、わたしはすぐに頷けなかった。
だって、それは――。
「お言葉ですが、それは違います」
キッパリと言い切ったわたしに、目の前のCEOだけでなく隣からもピクリと固まる気配。だけど構わず続ける。
「わたしがアキを…聡臣さんを愛しているのは、彼がTohmaの後継者だからでも御曹司だからでもありません。真面目で優しくて家族思いで……でも変なところで不器用で一生懸命。そんな彼だから好きになったんです。もし彼が、Tohmaを辞めて他の仕事に就きたいと言ったとしても全然構いません。わたしは変わらず彼とトーマビールを愛するだけ。そのふたつに関連性は一切ありません」
ひと息に言い切ってから、「ふぅ~」と息をつく。その音が思ったより大きく聞こえて、わたしは部屋が静まり返っていることに気が付いた。
や、やばい……またやらかしたかもっ!
静寂に耐えきれず「えっと……」と口にしたところで、隣から伸びてきた腕にきつく抱きしめられた。
「のわっ、な、なにア、」
「やっぱり静さんは最高だ!」
言うなりアキは、わたしを抱き上げた。
「ちょっ、アキっ……!」
CEOの前でなにすんのよっ…!
いきなり高くなった視界に体が強張って、彼の首にぎゅっとしがみ付く。脳内では大いに暴れているわたしだけれど、実際は固まっていることしか出来ない。
するとアキは、その場でクルクルと回り始めた。
「僕の伴侶は最高の女性だ!」
「ちょっ、アキ、ストップストップ!!」
アキにしがみ付きながら叫ぶ。もう、目が回っちゃうから…!
目をギュッとつぶって叫ぶと、アキが回転を止めた。
0
お気に入りに追加
224
あなたにおすすめの小説
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
冷徹上司の、甘い秘密。
青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。
「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」
「別に誰も気にしませんよ?」
「いや俺が気にする」
ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。
※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ
慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。
その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは
仕事上でしか接点のない上司だった。
思っていることを口にするのが苦手
地味で大人しい司書
木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)
×
真面目で優しい千紗子の上司
知的で容姿端麗な課長
雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29)
胸を締め付ける切ない想いを
抱えているのはいったいどちらなのか———
「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」
「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」
「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」
真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。
**********
►Attention
※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです)
※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
森でオッサンに拾って貰いました。
来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
アパートの火事から逃げ出そうとして気がついたらパジャマで森にいた26歳のOLと、拾ってくれた40近く見える髭面のマッチョなオッサン(実は31歳)がラブラブするお話。ちと長めですが前後編で終わります。
ムーンライト、エブリスタにも掲載しております。
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。