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かりそめ嫁になりまして。

かりそめ嫁になりまして。3

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「璃世……ごめんなさい……」

 見るからにシュンとうなだれたアリス。大粒のルビーかと見まごうような瞳は潤み、桜色の小さな唇が震えている。
 見事なストロベリーブロンドの髪に結われた白いレースのリボンが、なんとなくうなだれた耳に見えてしまう。

 本人だって悪気があってわざとやったわけじゃないのだ。置いて行ったことを謝ってくれればそれで十分。そう告げようと口を開きかけたとき。

「どうか彼女を許してやってください」

 優しげな男性の声が聞こえ、そちらに顔を向けた。

(お、王子⁉)

 戸口ところに立っていたのは、物語に出てくる王子様とはかくや――というほど高貴なオーラを放つ男性。千里より少し下くらいの年頃で、プラチナブロンドがまばゆいほどにキラキラと光っている。

「彼女が大変失礼をいたしました。夫の僕からも謝罪いたします」

 歩み寄ってきた男性はアリスの隣に並ぶと、そう言って璃世に頭を下げた。

「お、夫⁉」

 目の前の男性を凝視する。

(ちょっと待って! 今のアリスは西洋美少女だけど、本当はウサギなのよ⁉ ってことはまさか、このひとも……)

 信じられないという目を向けると、彼はにっこりと絵に描いたような微笑みをくれる。そして手に持っていた袋を「よかったらどうぞ」と璃世に差し出した。

 受け取るのを躊躇していたら、アリスが袋を璃世の手に握らせる。そのまま両手をぎゅっと包んで口を開いた。

「危険な目にあわせてしまって本当にごめんなさい。これはほんのお詫びの気持ち、受け取ってくださいまし」

 心底申し訳なさそうに言われ、璃世もうなずく。わざとではないのだし、こうして無事だったのだ。謝ってもらえばそれでいい。

「ありがとうございます、璃世」

 そう言って抱きついてきたアリスが、璃世にだけに聞こえる声でささやいた。

「やっぱり夫婦っていいものですわよ。結婚が決まりましたら是非ご報告に来てくださいましね」
「けっ!」

 アリスは「ふふふ」と意味ありげな笑みをくれた。

「用は済んだしアタクシたちはおいとまいたしますわ」
「そうだね。では僕たちはこれで」

 ふたりはそう言うと、つむじ風のようにあっという間にいなくなってしまった。

「お騒がせなやつらだな」

 ふたりが出て行った戸口を見ながら千里がつぶやく。

「まあこれで徳々ポイントダブルだから結果オーライってやつだな」
「は?」

 なにが『結果オーライ』だというのだろう。スーパーのお得セールのようなネーミングも手伝って、いったいどこからつっこんでいいのか迷ってしまう。

 すると千里は、今回は一気にふたつの徳を積めたのだと言った。

 ひとつは家出の白ウサギを泊めてあげたこと。
 そしてもうひとつは、夫ウサギに頼まれてアリスのところまで連れて行ってやったことだそう。

 璃世とアリスが出かけた後しばらくして、夫ウサギが千里のもとを訪ねて来た。まねき亭の店主に、妻の居場所を探してもらおうと。

 その頼みを聞いて夫ウサギを無事妻のもとへ届けた千里は、そこで璃世が迷子になっていることを知った。アリスが通って来た道のことを聞きこれはまずいと探しに向かい、今に至る。

「ところでなにを貰ったんだ?」

 言いながら千里が璃世の手元をのぞきこんできた。すぐに「お!」と嬉しそうな声を上げる。

「出町柳の豆大福じゃないか」

 璃世が首をかしげると、いつも行列ができる人気店のものだと言う。

 わざわざ並んで買ってきてくれるなんていいところあるじゃないか、あのウサギ夫婦。
 そんなふうに思いながら袋の中身を眺めていたら、パックの下になにかあることに気がついた。小さな紙の袋だ。

「なにこれ……」

 中身を取り出した瞬間、絶句した璃世。反対に千里は「ふはっ」と吹き出した。

「気が利くじゃねぇか、あの白ウサ」

 千里がおかしそうに言う。璃世の手の中にあるのは、『縁結守』と書かれた桃色お守りだ。二羽の白ウサギも描かれている。
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