19 / 21
かりそめ嫁になりまして。
かりそめ嫁になりまして。3
しおりを挟む
「璃世……ごめんなさい……」
見るからにシュンとうなだれたアリス。大粒のルビーかと見まごうような瞳は潤み、桜色の小さな唇が震えている。
見事なストロベリーブロンドの髪に結われた白いレースのリボンが、なんとなくうなだれた耳に見えてしまう。
本人だって悪気があってわざとやったわけじゃないのだ。置いて行ったことを謝ってくれればそれで十分。そう告げようと口を開きかけたとき。
「どうか彼女を許してやってください」
優しげな男性の声が聞こえ、そちらに顔を向けた。
(お、王子⁉)
戸口ところに立っていたのは、物語に出てくる王子様とはかくや――というほど高貴なオーラを放つ男性。千里より少し下くらいの年頃で、プラチナブロンドがまばゆいほどにキラキラと光っている。
「彼女が大変失礼をいたしました。夫の僕からも謝罪いたします」
歩み寄ってきた男性はアリスの隣に並ぶと、そう言って璃世に頭を下げた。
「お、夫⁉」
目の前の男性を凝視する。
(ちょっと待って! 今のアリスは西洋美少女だけど、本当はウサギなのよ⁉ ってことはまさか、このひとも……)
信じられないという目を向けると、彼はにっこりと絵に描いたような微笑みをくれる。そして手に持っていた袋を「よかったらどうぞ」と璃世に差し出した。
受け取るのを躊躇していたら、アリスが袋を璃世の手に握らせる。そのまま両手をぎゅっと包んで口を開いた。
「危険な目にあわせてしまって本当にごめんなさい。これはほんのお詫びの気持ち、受け取ってくださいまし」
心底申し訳なさそうに言われ、璃世もうなずく。わざとではないのだし、こうして無事だったのだ。謝ってもらえばそれでいい。
「ありがとうございます、璃世」
そう言って抱きついてきたアリスが、璃世にだけに聞こえる声でささやいた。
「やっぱり夫婦っていいものですわよ。結婚が決まりましたら是非ご報告に来てくださいましね」
「けっ!」
アリスは「ふふふ」と意味ありげな笑みをくれた。
「用は済んだしアタクシたちはお暇いたしますわ」
「そうだね。では僕たちはこれで」
ふたりはそう言うと、つむじ風のようにあっという間にいなくなってしまった。
「お騒がせなやつらだな」
ふたりが出て行った戸口を見ながら千里がつぶやく。
「まあこれで徳々ポイントダブルだから結果オーライってやつだな」
「は?」
なにが『結果オーライ』だというのだろう。スーパーのお得セールのようなネーミングも手伝って、いったいどこからつっこんでいいのか迷ってしまう。
すると千里は、今回は一気にふたつの徳を積めたのだと言った。
ひとつは家出の白ウサギを泊めてあげたこと。
そしてもうひとつは、夫ウサギに頼まれてアリスのところまで連れて行ってやったことだそう。
璃世とアリスが出かけた後しばらくして、夫ウサギが千里のもとを訪ねて来た。まねき亭の店主に、妻の居場所を探してもらおうと。
その頼みを聞いて夫ウサギを無事妻のもとへ届けた千里は、そこで璃世が迷子になっていることを知った。アリスが通って来た道のことを聞きこれはまずいと探しに向かい、今に至る。
「ところでなにを貰ったんだ?」
言いながら千里が璃世の手元をのぞきこんできた。すぐに「お!」と嬉しそうな声を上げる。
「出町柳の豆大福じゃないか」
璃世が首をかしげると、いつも行列ができる人気店のものだと言う。
わざわざ並んで買ってきてくれるなんていいところあるじゃないか、あのウサギ夫婦。
そんなふうに思いながら袋の中身を眺めていたら、パックの下になにかあることに気がついた。小さな紙の袋だ。
「なにこれ……」
中身を取り出した瞬間、絶句した璃世。反対に千里は「ふはっ」と吹き出した。
「気が利くじゃねぇか、あの白ウサ」
千里がおかしそうに言う。璃世の手の中にあるのは、『縁結守』と書かれた桃色お守りだ。二羽の白ウサギも描かれている。
見るからにシュンとうなだれたアリス。大粒のルビーかと見まごうような瞳は潤み、桜色の小さな唇が震えている。
見事なストロベリーブロンドの髪に結われた白いレースのリボンが、なんとなくうなだれた耳に見えてしまう。
本人だって悪気があってわざとやったわけじゃないのだ。置いて行ったことを謝ってくれればそれで十分。そう告げようと口を開きかけたとき。
「どうか彼女を許してやってください」
優しげな男性の声が聞こえ、そちらに顔を向けた。
(お、王子⁉)
戸口ところに立っていたのは、物語に出てくる王子様とはかくや――というほど高貴なオーラを放つ男性。千里より少し下くらいの年頃で、プラチナブロンドがまばゆいほどにキラキラと光っている。
「彼女が大変失礼をいたしました。夫の僕からも謝罪いたします」
歩み寄ってきた男性はアリスの隣に並ぶと、そう言って璃世に頭を下げた。
「お、夫⁉」
目の前の男性を凝視する。
(ちょっと待って! 今のアリスは西洋美少女だけど、本当はウサギなのよ⁉ ってことはまさか、このひとも……)
信じられないという目を向けると、彼はにっこりと絵に描いたような微笑みをくれる。そして手に持っていた袋を「よかったらどうぞ」と璃世に差し出した。
受け取るのを躊躇していたら、アリスが袋を璃世の手に握らせる。そのまま両手をぎゅっと包んで口を開いた。
「危険な目にあわせてしまって本当にごめんなさい。これはほんのお詫びの気持ち、受け取ってくださいまし」
心底申し訳なさそうに言われ、璃世もうなずく。わざとではないのだし、こうして無事だったのだ。謝ってもらえばそれでいい。
「ありがとうございます、璃世」
そう言って抱きついてきたアリスが、璃世にだけに聞こえる声でささやいた。
「やっぱり夫婦っていいものですわよ。結婚が決まりましたら是非ご報告に来てくださいましね」
「けっ!」
アリスは「ふふふ」と意味ありげな笑みをくれた。
「用は済んだしアタクシたちはお暇いたしますわ」
「そうだね。では僕たちはこれで」
ふたりはそう言うと、つむじ風のようにあっという間にいなくなってしまった。
「お騒がせなやつらだな」
ふたりが出て行った戸口を見ながら千里がつぶやく。
「まあこれで徳々ポイントダブルだから結果オーライってやつだな」
「は?」
なにが『結果オーライ』だというのだろう。スーパーのお得セールのようなネーミングも手伝って、いったいどこからつっこんでいいのか迷ってしまう。
すると千里は、今回は一気にふたつの徳を積めたのだと言った。
ひとつは家出の白ウサギを泊めてあげたこと。
そしてもうひとつは、夫ウサギに頼まれてアリスのところまで連れて行ってやったことだそう。
璃世とアリスが出かけた後しばらくして、夫ウサギが千里のもとを訪ねて来た。まねき亭の店主に、妻の居場所を探してもらおうと。
その頼みを聞いて夫ウサギを無事妻のもとへ届けた千里は、そこで璃世が迷子になっていることを知った。アリスが通って来た道のことを聞きこれはまずいと探しに向かい、今に至る。
「ところでなにを貰ったんだ?」
言いながら千里が璃世の手元をのぞきこんできた。すぐに「お!」と嬉しそうな声を上げる。
「出町柳の豆大福じゃないか」
璃世が首をかしげると、いつも行列ができる人気店のものだと言う。
わざわざ並んで買ってきてくれるなんていいところあるじゃないか、あのウサギ夫婦。
そんなふうに思いながら袋の中身を眺めていたら、パックの下になにかあることに気がついた。小さな紙の袋だ。
「なにこれ……」
中身を取り出した瞬間、絶句した璃世。反対に千里は「ふはっ」と吹き出した。
「気が利くじゃねぇか、あの白ウサ」
千里がおかしそうに言う。璃世の手の中にあるのは、『縁結守』と書かれた桃色お守りだ。二羽の白ウサギも描かれている。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
あやかし狐の京都裏町案内人
狭間夕
キャラ文芸
「今日からわたくし玉藻薫は、人間をやめて、キツネに戻らせていただくことになりました!」京都でOLとして働いていた玉藻薫は、恋人との別れをきっかけに人間世界に別れを告げ、アヤカシ世界に舞い戻ることに。実家に戻ったものの、仕事をせずにゴロゴロ出来るわけでもなく……。薫は『アヤカシらしい仕事』を探しに、祖母が住む裏京都を訪ねることに。早速、裏町への入り口「土御門屋」を訪れた薫だが、案内人である安倍晴彦から「祖母の家は封鎖されている」と告げられて――?
冷たい舌
菱沼あゆ
キャラ文芸
青龍神社の娘、透子は、生まれ落ちたその瞬間から、『龍神の巫女』と定められた娘。
だが、龍神など信じない母、潤子の陰謀で見合いをする羽目になる。
潤子が、働きもせず、愛車のランボルギーニ カウンタックを乗り回す娘に不安を覚えていたからだ。
その見合いを、透子の幼なじみの龍造寺の双子、和尚と忠尚が妨害しようとするが。
透子には見合いよりも気にかかっていることがあった。
それは、何処までも自分を追いかけてくる、あの紅い月――。
大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。
だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。
蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。
実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち
鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。
心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。
悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。
辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。
それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。
社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ!
食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて……
神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~
悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。
強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。
お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。
表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。
第6回キャラ文芸大賞応募作品です。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる