上 下
13 / 21
危険な近道

危険な近道3

しおりを挟む
 本当にいいもなにも、そっちが映えスイーツとやらを食べに行くと言って、半ば強引に璃世のことを引っ張り出したくせに。文句のひとつでも言ってやろうかと口を開きかけた矢先。

「お嫁入りのことですわ。あなたこのままあの化け猫店主に嫁ぐおつもり?」
「いや、それは」
「覚悟がないならおやめなさいな。面倒なだけですわよ」
「え?」

 まさかやめろと言われるとは思わなかった。同じあやかし同士、アリスは千里の味方をすると思っていたのだ。

 そもそも、はなから化け猫の嫁になる気などない璃世。あのときアリスが入ってきたおかげで、無理やり夫婦契約を結ばずに済んだのだ。そのお礼がまだだったことに気づく。
 
「ありがとう、アリス。あなたのおかげで、あの人となし崩しに夫婦にならずに済んだわ」

 ペコリと下げた頭を上げたら、アリスが大きな目をさらに大きく見開いていた。あれ? と思うと同時に璃世からサッと顔をそむける。

「ア、アタクシは別に……あなたのためにしたわけじゃ……。夫婦なんて愛があるのは最初のうちだけ。あとは惰性だったりいがみ合ったり。とにかく面倒なものだとよく知っているだけですわ」

 ツンと横を向いてそう言ったアリスの耳が心なしか赤い。高飛車なお嬢様かと思いきや、意外とかわいいところもある。ビスドールのごとく美しい横顔をじいっと見つめていたら、「ほら、早く行きますわよ」と足を速められた。

 橋を渡って大通りをしばらく行ったところで、背の高い樹木が生垣のようにつながっているのが見えてきた。アリスがそこを指さす。

「あちらに近道がありますのよ」

 樹木の壁が切れて門のようになっているところまで来たとき、アリスが中に向かって駆けだした。

「待って、アリス!」

 跳ぶようにして奥へと進んでいくアリスを必死に追いかける。中に入った当初は広かった道がだんだん狭くなり、クネクネと右に左にカーブしながら徐々に細くなっていく。両脇には葉を茂らせた樹木が迫っていた。

「アリスー!」

 声を張り上げて呼ぶけれど、アリスは振り向かない。走るのに夢中で聞こえていないのかもしれない。必死で追いかけるも、その差はどんどん開いていく。

「アリス……足速すぎだよ……」

 目的地の場所はなんとなくしか知らないのに、案内人に置いていかれたらどうしようもない。こちらはスマホどころか携帯電話すら使えない身なのだ。

 少し不安はあるけれど、アリスも璃世がついて来ていないことに気づいたらきっと戻ってきてくれる。そう考え、そのまま小路を進んだ。幸い一本道なので迷いようがない。

――と思ったのが大間違いだった。

「え……、どっち?」

 道がふたつに分かれていた。

 もしかしたらアリスが近くで待っていてくれているかもと思い声に出して呼ぶが、返事はない。念のため茂みの中なども探してみたが、人影どころかウサギの影すら見当たらない。

「もう~~! アリスったら!」

 人のことを強引に連れ出したくせに、置いてきぼりなんてあんまりだ。あとで文句のひとつくらい言ってやろうと思うが、とりあえずは“今”どうするかを考えねば。

 来た道を戻るか、分かれ道のどちらかを選んで進むか。ここでアリスが戻ってくるのを待つという選択肢もある。
 
 多分一番よいのはここで待つことだ。迷子の基本は動かないこと。まだ小さかった頃、家族とはぐれたあと、見つけてくれた父親が教えてくれたのだ。

 二度と会えない人の面影を思い出した瞬間、鼻の奥がツンとした。

(ダメ……)

 感傷に浸っている場合ではない。頭を思いきりブンブンと振ってから、改めて周囲を見る。

 無尽蔵に伸びた枝葉のせいであたりは鬱蒼としている。初冬だというのに落葉した木が見当たらない。そのせいだろうか、お昼前でお天気もいいはずなのに妙に薄暗い。

 嫌な感じがする。誰かに見られているような――。

 振り向いても、誰もいない。

 フルリと体が震えた。直感がここを抜け出すことが先決だと告げる。

(間違ったら間違ったときよ!)

 璃世は迷いながらも足を一歩踏み出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

失恋少女と狐の見廻り

紺乃未色(こんのみいろ)
キャラ文芸
失恋中の高校生、彩羽(いろは)の前にあらわれたのは、神の遣いである「千影之狐(ちかげのきつね)」だった。「協力すれば恋の願いを神へ届ける」という約束のもと、彩羽はとある旅館にスタッフとして潜り込み、「魂を盗る、人ならざる者」の調査を手伝うことに。 人生初のアルバイトにあたふたしながらも、奮闘する彩羽。そんな彼女に対して「面白い」と興味を抱く千影之狐。 一人と一匹は無事に奇妙な事件を解決できるのか? 不可思議でどこか妖しい「失恋からはじまる和風ファンタジー」

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

化想操術師の日常

茶野森かのこ
キャラ文芸
たった一つの線で、世界が変わる。 化想操術師という仕事がある。 一般的には知られていないが、化想は誰にでも起きる可能性のある現象で、悲しみや苦しみが心に抱えきれなくなった時、人は無意識の内に化想と呼ばれるものを体の外に生み出してしまう。それは、空間や物や生き物と、その人の心を占めるものである為、様々だ。 化想操術師とは、頭の中に思い描いたものを、その指先を通して、現実に生み出す事が出来る力を持つ人達の事。本来なら無意識でしか出せない化想を、意識的に操る事が出来た。 クズミ化想社は、そんな化想に苦しむ人々に寄り添い、救う仕事をしている。 社長である九頭見志乃歩は、自身も化想を扱いながら、化想患者限定でカウンセラーをしている。 社員は自身を含めて四名。 九頭見野雪という少年は、化想を生み出す能力に長けていた。志乃歩の養子に入っている。 常に無表情であるが、それは感情を失わせるような過去があったからだ。それでも、志乃歩との出会いによって、その心はいつも誰かに寄り添おうとしている、優しい少年だ。 他に、志乃歩の秘書でもある黒兎、口は悪いが料理の腕前はピカイチの姫子、野雪が生み出した巨大な犬の化想のシロ。彼らは、山の中にある洋館で、賑やかに共同生活を送っていた。 その洋館に、新たな住人が加わった。 記憶を失った少女、たま子。化想が扱える彼女は、記憶が戻るまでの間、野雪達と共に過ごす事となった。 だが、記憶を失くしたたま子には、ある目的があった。 たま子はクズミ化想社の一人として、志乃歩や野雪と共に、化想を出してしまった人々の様々な思いに触れていく。 壊れた友情で海に閉じこもる少年、自分への後悔に復讐に走る女性、絵を描く度に化想を出してしまう少年。 化想操術の古い歴史を持つ、阿木之亥という家の人々、重ねた野雪の過去、初めて出来た好きなもの、焦がれた自由、犠牲にしても守らなきゃいけないもの。 野雪とたま子、化想を取り巻く彼らのお話です。

年下男子に追いかけられて極甘求婚されています

あさの紅茶
恋愛
◆結婚破棄され憂さ晴らしのために京都一人旅へ出かけた大野なぎさ(25) 「どいつもこいつもイチャイチャしやがって!ムカつくわー!お前ら全員幸せになりやがれ!」 ◆年下幼なじみで今は京都の大学にいる富田潤(20) 「京都案内しようか?今どこ?」 再会した幼なじみである潤は実は子どもの頃からなぎさのことが好きで、このチャンスを逃すまいと猛アプローチをかける。 「俺はもう子供じゃない。俺についてきて、なぎ」 「そんなこと言って、後悔しても知らないよ?」

僕とお父さん

麻木香豆
キャラ文芸
剣道少年の小学一年生、ミモリ。お父さんに剣道を教えてもらおうと尋ねるが……。 お父さんはもう家族ではなかった。 来年の春には新しい父親と共に東京へ。 でも新しいお父さんが好きになれない。だからお母さんとお父さんによりを戻してもらいたいのだが……。 現代ドラマです。

京都式神様のおでん屋さん

西門 檀
キャラ文芸
旧題:京都式神様のおでん屋さん ~巡るご縁の物語~ ここは京都—— 空が留紺色に染まりきった頃、路地奥の店に暖簾がかけられて、ポッと提灯が灯る。 『おでん料理 結(むすび)』 イケメン2体(?)と看板猫がお出迎えします。 今夜の『予約席』にはどんなお客様が来られるのか。乞うご期待。 平安時代の陰陽師・安倍晴明が生前、未来を案じ2体の思業式神(木陰と日向)をこの世に残した。転生した白猫姿の安倍晴明が式神たちと令和にお送りする、心温まるストーリー。 ※2022年12月24日より連載スタート 毎日仕事と両立しながら更新中!

鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜
キャラ文芸
ほっこりじんわり大賞にて奨励賞を受賞しました!ありがとうございます♪ 高校を卒業してすぐ、急逝した祖母の喫茶店を継いだ萌香(もか)。 気合いだけは十分だったが現実はそう甘くない。 奮闘すれど客足は遠のくばかりで毎日が空回り。 そんなある日突然現れた閻魔大王の閻火(えんび)に結婚を迫られる。 嘘をつけない鬼のさだめを利用し、萌香はある提案を持ちかける。 「おいしいと言わせることができたらこの話はなかったことに」 激辛採点の閻火に揉まれ、幼なじみの藍之介(あいのすけ)に癒され、周囲を巻き込みつつおばあちゃんが言い残した「大切なこと」を探す。 果たして萌香は約束の期限までに閻火に「おいしい」と言わせ喫茶店を守ることができるのだろうか? ヒューマンドラマ要素強めのほっこりファンタジー風味なラブコメグルメ奮闘記。

大正警視庁正門前みたしや食堂

森原すみれ@薬膳おおかみ①②③刊行
キャラ文芸
時は大正。西洋文化が花開いた帝都。 警視庁中央部に赴任した若き警察官 龍彦は、正門前で食堂を営む女主人 満乃と出逢う。 満乃が作るのは、食に頓着しない龍彦をも惹きつける、ハイカラな西洋料理だった。 喧嘩っ早い龍彦と意思を曲げない満乃は、時にぶつかり、時に認めあいながら交流を深めていく。 そんな二人に、不穏な企みが襲い掛かり……。 「悪知恵働かせて搾取する野郎なんざ、荷車喰らって当然だろ」 「人の矜持を踏みつけにする無礼者に出すものはございません!」 ケンカップル(未満)なふたりの、じれじれ甘い恋物語です。 ※ノベマ!、魔法のiらんど、小説家になろうに同作掲載しております

処理中です...