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9.エピローグ
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しおりを挟む想いが通じ合った夜。圭吾は宣言通り朝まで私を抱き尽くした。
明け方、まどろむ私の耳もとで、彼がポツリと言う。
『二度と黙っていなくならないでくれ』
その言葉に、私は自分がしたことの愚かさを思い知った。彼にどんなに心配をかけたのだろう。厳しく叱責されるより、よほど胸に刺さる。
そのせいもあって、夜が明けても私を離そうとしない彼にどうしても強く出られなかった。
疲れ果てて意識を手離し、目が覚めたらまた抱かれる。
『もう動けない』
『動かなくていいから、ただ俺を感じていて』
いったい彼はいつ眠っていたのだろう。喉の渇きに目を覚ますと、飲み物が用意されていて、全身がだるくて空腹を感じない私に軽食を運んで食べさせてくれる。
シャワーを浴びたいと言えばバスルームまで抱いて運ばれ、あの巧みな手さばきでくまなく洗われたが、もう抗う体力は皆無すぎて、されるがままだ。甘い悲鳴を散々上げたあとで湯舟につけられれば、寝落ちするのも仕方ない。気づいたときにはバスローブ姿でベッドに横たえられていた。
おそるべき体力だ。いったいどこから湧いてくるのだろう。
さすがに太陽が再びビルの谷間に消えて行こうかという頃になると、一歩もベッドから出足を下ろしていないという事実に焦りを感じ始めた。
このまま夜になって、万が一振出しに戻るようなことがあれば、月曜日に仕事に行ける気がしない。それはなんとしてでも阻止しなければ。『セックスのしすぎで体が動かないので休ませてほしい』だなんて、たとえ本当のことを言わなかったとしても恥ずかしすぎる。
布団をかぶって『今日はもう無理!』と訴えたら、さすがの彼も反省したようだ。おとなしく引き下がってその晩は平和に眠ることができた。
とは言いながらも、翌朝一番から甘えてくる彼についほだされてしまった。前日に比べればかわいいものだったからよしとする。
その後はブランチがてら街へ繰り出し、デートも楽しんだ。
両想いになりたての男女らしい濃密な週末を過ごしたが、ひとたび平日が始まれば、すべきことに追われる日常が戻ってくる。
互いに仕事が忙しく、平日はたっぷり一緒にいられるわけではない。だからこそ、私はお弁当を作ったり、彼が仕事上がりに迎えに来てくれたりと、できることをしながら自分たちのペースで結婚生活を楽しんでいる。
あの後、菊池さんは事務所を自ら辞めたそうだ。
落ち込んでいるのではと思いきや、『もっと素敵な人を捕まえて幸せになります。私若いんで!』と威勢のよいセリフを残して去って行ったらしい。
いっそすがすがしいほどの貪欲さだ。
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