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8.告白の行方***

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「俺はおまえのことをずっと妹のように〝思っていた〟。が、今は違う。シンガポールで再会してから、俺はおまえのことをひとりの女として見ている。そうじゃなければこんなふうになっていない」

 彼は私の手を取り、スラックスの上にあてがった。明らかに太ももと感触の違う、硬く張り詰めた感触に「あっ」と声が漏れる。

「おまえは俺が〝妹〟に対してこんなふうになる男だと思っているのか?」

 勢いよくかぶりを振った。彼の倫理観や正義感を私は嫌というほど知っている。

 その瞬間、唐突に悟った。
〝妹〟ということにこだわっていたのは、彼ではなく私の方だったんだ。

『幼なじみだから』
『妹みたいなものだから』
『だから彼のそばに居られるのだ』

 あのころ何度も自分に言い聞かせた言葉が、コンプレックスとなって頭の片隅にこびりついていた。

 突然降って来た答えは、胸の中心にストンとはまった。彼の『愛している』という言葉がじわじわと広がるように染み込んでいく。

「本当に……? 本当に圭君はわたしのこと」
「愛しているよ。昔の小さかった香ちゃんのことはもちろん、今の香子のことを、ひとりの女性として愛してる。誰よりも大切な存在だ」

 真摯な瞳と真っすぐな言葉に、胸がキュウーっと痛いくらいに縮んだ後、大きく高鳴った。

「私もっ……私も圭君のことを愛してるわ」

 衝動のまま彼の首に腕を回して、ぎゅっと抱き着く。

「初恋のときよりもっと。苦しいくらいすきで、どうしていいかわからないの」
「それって……俺が初恋?」
「あっ!」

 思わぬ暴露してしまったが、ここまで来たら隠しておく必要もない。おずおずとうなずいたら、力いっぱい抱き締められた。

「うれしいよ。俺は気づかないうちに、ほかにも香子の〝初めて〟をもらえていたんだな」

 ギュウギュウと抱き締め合う。
 広い胸に顔をうずめたら、甘みのある爽やかなフレグランスが鼻の奥いっぱいに広がった。
 いつの間に馴染んだのだろうか。ドキドキと胸が高鳴るのに不思議と安心感もある。

 再会した当初、この匂いを嗅いだときは知らない人のようで妙に緊張したのが懐かしい。
 とはいえまったくドキドキしないわけでもない。むしろ胸の高鳴りは今の方が大きいくらいだ。

 顔を上げると熱のこもった瞳とぶつかる。
 まぶたを下ろすと同時に唇が重なった。

 ぬるりと口腔へ押し入ってきた舌を迎えるようにして自分のものを絡める。一瞬にして貪るような激しい口づけになった。

 咥内を隅々まで撫で尽くされ、喉の手前まで舌を差し込まれて苦しいのに気持ちがいい。生理的な涙が目尻に溜まり、腰から下がジンジンと疼く。まだキスだけなのに体の芯が彼が欲っしている。

 息継ぎで唇が離れた一瞬の隙に、言葉が口を突いて出た。

「圭吾が欲しい」

 彼が目を見開く。

「煽るな。自制が利かなくなるだろ。こっちはずっと、理性を保つのに必死なんだ」
「理性なんていらないわ。私の前ではただの〝朝比奈圭吾〟でいて」 
「おまえ……」

 苦いものを噛んだような顔になった彼が、大きなため息をつく。

「そんなこと言ったらひどい目に遭うかもしれないぞ」

 彼が眉をキュッと中心に寄せて、怒ったような困ったような顔をする。キュンと胸が甘く鳴り、衝動的に自分から唇を押しつけていた。

「それでもいい。誰にも見せたことのない圭吾を見たいの」

 彼は大きく目を見開いた後、噛みつくように私の唇を塞いだ。
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