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8.告白の行方***

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 結城家での卵焼きレッスンから二週間。ひそかに練習を重ねてきた私は、今朝とうとう彼にお弁当を渡した。
 彼は一瞬驚いた顔をした後、いつもの爽やかな笑みを浮かべて『ありがとう』と言って受け取り、出勤して行った。

 いよいよだ。今夜、彼に告白する。

『圭君のことがすき』と真っすぐに告げたら、彼はなんと答えるだろう。考えただけで心臓が口から飛び出しそうなほどドキドキする。
 今から緊張していてどうするのだと自分に言い聞かせ、本省へと出勤した。
 
 職場では仕事に集中するよう心掛けていたけれど、定時が近づくにつれそわそわし始め、結局早めに切り上げて家に帰ることにする。
 緊張しながら帰宅したが、圭君はまだ帰っていなかった。ここのところ私より早い日もあったが、どうやら今日は違うらしい。が、それも想定済みだ。

 彼が帰ってくるまでに心を落ち着けよう。
 洗面台で手を洗いながら自分に言い聞かせてみるが、やはりそわそわと落ち着かない。

 朝お弁当を作ったおかずの残りが冷蔵庫にあるから、夕飯はそれとパスタで簡単に済ませて。とりあえず先に入浴しておく? でもそれだとなんだか妙な期待をしているみたいだ。いや、お風呂なんていつも気にせず入っているじゃない。

 無駄な自問自答を繰り返しながら、着替えすらせずに家の中をうろついていたら、テーブルの上の郵便が目に入った。ついさっき、エントランスの集合郵便受けから持って上がったものだ。これでも片づけてすこし落ち着こう。

 チラシをよけ、自分と圭君のものを分けていると茶封筒が目に入った。三つ折りにしたA4用紙が入る縦長のものに『朝比奈様』と印刷した文字が貼り付けてある。

「あれ?」

 裏に返してみたが差出人の名前が見当たらない。開け口部分がしっかりと糊付けされてあるため中身は見えないが、手に持った感じから硬い紙が入っているようだ。私宛なのか圭君宛かわからない。

 ひとまずこのままにしておいて、彼が帰って来たら聞いてみよう。
 封筒をテーブルに戻したところで、玄関ドアが音を立てた。心臓が大きく跳ね上がる。彼が帰ってきたのだ。

 いよいよだわ。落ち着くのよ、香子。

 ドクドクと心臓が大きく脈打ち口から飛び出そうになりながら、そう自分に言い聞かせていていると、廊下に繋がるドアが開いた。

「おっ、お帰りなさい!」

 彼は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になる。「ただいま」と言って私のところまでやってきた。

「お弁当、ありがとう。おいしかったよ」
「本当?」

 差し出された弁当箱を受け取りながら、ついそう聞き返してしまう。

「ああ、本当だ。前回にも増してうまくなっていて、いつの間にこんなに上達したのかと驚いたな」
「よかった!」

 内心飛び上がりそうなほどうれしかった。彼の帰宅が遅い日を狙ってコソコソと練習を重ねた甲斐があったというものだ。
 それもこれもさやかさんのおかげだ。今度なにかお礼をしなければと思うが、ひとまずそれは後だ。決心が鈍る前にやらればならないことがある。

 私――と言いかけたところで彼が「それは?」と言った。目線をたどるとテーブルの上の封筒に行きつく。

「あ、それ。さっき郵便受けから持って帰ってきた中に入ってたの。宛名が名字だけだから、どっち宛かわからなくて」

 首をかしげる私に、彼はあっさりと「開けてみよう」と封筒を手に取る。チェストからペーパーナイフを取り出し、糊口にスッと通した。中身を見た途端、彼の眉根がグッと寄った。

「これ……香ちゃん、だよな」
「え?」

 彼の手元をのぞき込んで、大きく息をのんだ。
 映っていたのは間違いなく私――と結城首席だ。私服姿の私達が、マンションのエントランスで微笑み合っている。他にも何枚か同じような写真が出てきた。
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