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6.大人の華金デート***

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 本当に、私はいったいなにがしたいんだろう。

 自分のことをずっと真面目で落ち着いたタイプだと思っていた。それなのに、圭君が相手だとなぜかいつも予想外なことをしてしまう。子どもっぽいにもほどがある。

「圭君が今まで付き合ってきた女性ひと達は、こんなことしなかったでしょうね」

 無意識に思考が口からこぼれ、ハッとする。

「いや、えっと今のは」
「それって焼きもち?」
「ち、違うわよ」
「残念。そうだったらいいと思ったのに」
「なっ……」

 じわじわと顔が熱くなっていく。

「もう大丈夫だからありがとう」

 この状況自体も恥ずかしくなり、いそいで彼から離れようとしたとき、背中に回された彼の腕がぎゅっと締まった。

「お、おにぃ」
「俺は妬いたよ」

 低い声に目を見開く。いったいなにに? まったく思い当たることがない。そもそも彼が私のことで嫉妬などするはずもない。
 聞き間違えかな。そう思ったとき、彼が「ふぅ」とため息をついた。

「香ちゃんの失恋の相手ってあの人だろう? 今日一緒に庁舎から出てきた」
「え! 見てたの」

「やっぱり」とつぶやいた声に、失恋相手を肯定したことに気づく。

「遠目だったけど、見るからに仕事のできるバリバリのエリート外交官だと伝わってきた。そうか、あれが香ちゃんの」
「圭君だって負けてないわ! バリバリのエリート国際弁護士じゃない。仕事ができてかっこよくて、エスコートもスマートなのに爽やかな大人で」

 圭君が続けようとした言葉を慌てて遮り、息つく間もなくまくし立てていると、彼が「ぷっ」と噴き出す。そこでやっと私は言わなくていいことまで言ってしまったことに気づいた。

「本当に? そう思ってくれているのか?」

 視線をさ迷わせた後思い切ってうなずくと、「ありがとう」とうれしそうな声がした。

 ゆっくりと顔を上げると思った通り、優しげに微笑む彼と目が合った。けれどいつもとどこか違う。濡れたように光る瞳の奥でなにかが揺らめいている。じっと見つめていると、まぶたに触れるだけの口づけが落とされた。

「キス、してもいいか?」

 許可を求められ、返事にためらう。ふたりとも布切れ一枚しか身に着けていない浴槽の中でキスをするのは、普通のときよりとても淫らな気がする。イエスともノーとも言えずにいると、彼が眉を下げた。

「嫌ならいいんだ」

 寂しげな微笑みにハッとした。バーラウンジでの〝仲直り〟で私はスッキリ終わったつもりでいたけど、彼は違っていたのかもしれない。それほど深く彼を傷つけてしまったのだと思ったら、胸が苦しくなる。

 彼の頬にそっと手を添えた。

「嫌じゃないわ」

 瞠目した彼の瞳をじっと見つめ、まぶたを下ろす。
 柔らかな感触が唇に降ってきた。

 最初はゆっくりと。様子をうかがうように薄く触れ合わせるだけ。
 離れていく気配にまぶたを上げたら、間近で目が合った。あえて逸らさずにじっと見つめ返すと、一瞬だけくっついてすぐに離れる。
 もう一度目を閉じた。

 静かに呼吸をしながらじっと待つ。心臓の音がドキドキとうるさい。

 三度目に息を吸ったとき、唇に温もりが重なった。

 首の後ろを手で支えられ、ピタリと隙間なく唇を押しつけられる。上下の唇をやわやわとまれ、体温が上昇した。

 思わず吐息を漏らすと、かすかに開いたあわいをぬるりと温かいものに撫でられた。

「ふっ」

 むず痒いようなチリチリとした痺れに体がピクリと跳ねる。その瞬間、首の後ろの手が外された。まるで『嫌なら逃げていい』とでも言うかのように。

 ここで逃げるわけにはいかない。
 もし逃げたら、彼は私が本心では嫌がっていると思うかもしれない。

 逆に言えば、これは絶好のチャンスなのだ。彼の罪悪感を払拭ふっしょくするなら今しかない。

 引き戻ろうとする舌を追いかけ自分のものを絡ませると。彼の背中がピクリと跳ねた。

 これまで彼と〝こういうこと〟をするときはいつも、私は受け身だった。主体的になにかを仕掛けたこともなければ、しようと思ったこともない。毎回そんな余裕などなく、与えられる快楽に翻弄ほんろうされ、なにも考えられなくなるのだ。
 だけど、いつまでもそれじゃだめだ。

 思い切って舌を動かす。頭から蒸気が立ち上がりそうなほど顔が熱くてたまらないけれど、ここでくじけるわけにはいかない。なにごとも中途半端が一番ダメ。やるなら最後までやり通す。それが昔からのモットーだ。
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