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6.大人の華金デート***

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 バスタブに横向きに寄りかかりながらシャンプーをしてもらった後は、トリートメントを丁寧に揉み込まれる。アメニティのヘアケアセットは、優しいハーブの香りとミントの清涼感のバランスがいい。リラックスとリフレッシュを同時に味わえ、思わずほうっと息をついた。

「どう? 気持ちよかっただろう?」

 トリートメントを流しながら圭君が言う。

「うん、ありがとう」

 素直にお礼を言ったら、彼が目を見張った。

「なに? 私がお礼を言ったらおかしいの?」

 バスタブの縁に頭を乗せたままじっとりとした視線を送ると、彼はにこりと微笑む。

「いや? 素直な香ちゃんもかわいいなと思っていただけだよ」
「……っ」

 そういうところだよ、圭君。
 私のことをなんのてらいもなく『かわいい』だなんて言う男性ひとはあなたくらいです。

「別にお世辞なんて要りません」
「確かにお世辞なんて必要ないな。香ちゃんは昔から本当にかわいかったけど、今ではさらに魅力的な大人の女性になったんだもんな」

 言いながら彼は指先で私の顔にかかった髪をそっとよける。ぞくっと甘い痺れが背中に走る。反射的に首をすぼませた私に、彼は蠱惑的な笑みを浮かべた。

 圭君ばかりずるい。

 こっちは、見えないとはいえほとんど裸同然の姿でいることに、ずっとそわそわと落ち着かずにいる。気を抜くと挙動不審になりそうだから、彼の洗髪に意識を集中させていた。

 それなのに彼の方はまったく変わらない。いつもと同じ。平然としていて、爽やかで、冷静。すべてがスマートなのは、彼がそれだけ経験豊富だからだ。

 金曜の夜の過ごし方も、おしゃれなバーラウンジも、急遽お泊りになったときの対処も。女性の髪を洗うのだって、きっと一度や二度ではない。

 最初からわかっていたはずなのに、実際に経験値の高さを目の当たりにするとお腹のあたりがモヤモヤしてしまう。
 すこしくらい慌ててみせたらいいのに。
 気づいたら体が勝手に動いていた。

「うわっ!」

 突然顔面にお湯を掛けられた圭君が、驚いた声を上げる。顔についた泡を手で拭い、眉を寄せて戸惑った顔をした。

「急になにをするんだ」
「懐かしいでしょう? 子どもの頃はこの時期、よくみんなで水のかけ合いっこしたわよね」

 座ったまま、もう一度両手で浴槽のお湯をすくって投げつける。
 さすがに二度目は彼も両腕を盾にして泡湯攻撃を防ぐ。それから一度目で濡れた前髪をかき上げながら大きなため息をついた。

 さすがに呆れられたらしい。
 自分でもいったいなにがしたいのかよくわからないのだから、彼の方はもっとそうだろう。呆れてバスルームを出て行くだろうと思っていたら、突然シャワーヘッドを手に取りこちらに向けた。

「こういうのもよくやったよな」
「え、わっ、ちょっと」

 待ってと言う前に、勢いよくシャワーが噴き出した。慌てて上半身ごと顔を背けた途端、浴槽の床がぬるりとして足が滑る。湯舟の中に顔から転がった。

「香ちゃん!」

 慌てた声がしてすぐ引き上げられたが、鼻にお湯が入ってゴホゴホとむせる。

「大丈夫か。ごめんな、ちょっと調子に乗りすぎた」

 私を抱きとめた彼が、背中をさすりながら心配そうに言う。咳込みながら首を振った。もとはと言えば私が始めたことだ。
 しばらくして呼吸が落ち着き、やっと口を開く。

「圭君こそ、あきれたでしょう? 二十八にもなってこんな子どもっぽいことするなんて」
「いや、そんなことは」
「いいの、自分でもあきれてるもの」

 うつむくとぐっしょりと濡れたバスローブが目に入った。彼は浴槽の中に膝立ちになり、私を支えてくれている。よほど慌てたのか、腰ひもが緩んで胸もとがはだけていた。
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