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4.あの夜の続き***
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しおりを挟む「さあ、あの夜の続きを始めようか」
彼が濡れた髪をかき上げながら二重まぶたを細める。匂い立つほどの色香に息が止まりそうだ。
『おまえの夢、俺が叶えてやるよ』
シンガポールでの再会の夜にそう言った彼は、帰国後、宣言通り驚くべきスピードで結婚話を進めた。
再会からふた月足らずで婚礼を挙げられたのは、幼なじみという関係性と彼の行動力のたまものだった。
旧知の仲である双方の両親がよく知った子ども達の結婚に諸手を上げて喜び、あれよあれよという間にすべてが決まっていった。
そうして今日、身内のみの婚礼と食事会を無事に終え、夫婦となった私達は都心から少し離れた温泉宿へとやって来た。彼が離れタイプの豪華なスイートルームを用意してくれたのだ。
彼の手が頬に差し込まれる。指の先が耳朶に当たり反射的にビクッと肩をすくめる。ぎゅっと目を閉じたら額に柔らかな感触が当たり、小さなリップ音を立ててすぐに離れた。
「大丈夫。香ちゃんの嫌がるようなことはしない、絶対に」
目を見開くと彼と目が合った。さっきまでの妖艶さはどこへ、というくらい真剣な顔つきだ。
「たとえ夫婦間であっても、同意のない性行為は『強制性交等罪』に当たる。立場上そんなことは絶対にできないし、やりたくもない。嫌がる相手に自分勝手な欲望を押し付けるなんて、男としても人としても最低なことだ。結婚生活は互いを尊重し合えないと成り立たない。そのことは職業柄よくわかっているつもりだよ」
この状態でそんなことを説明されるとは。
だけど言われてみれば確かにその通りだ。ただの幼なじみだった私達は、お互いの都合のために手を組んだ。言うなれば“ご都合婚”なのだ。
恋や愛で結びついた夫婦ではないからこそ、お互いを思いやる気持ちは忘れてはいけない。
こんなときまで優しくて真面目なところは変わらない。どんな関係であっても、彼は私の知っている〝圭吾お兄ちゃん〟なのだ。そう思ったら妙な安心感が湧き上がった。
彼の目を見つめ返しながら大きく頭を縦に振る。
「本当に嫌なことはがまんせずに言うんだぞ」
もう一度うなずくと、彼の表情が和らいだ。
「いい子だ」
彼は一瞬で唇を重ねチュッと音を立てて離れた。あまりの早業に目をしばたたかせていると、彼はクスリと笑って再び口づけてきた。二度三度と音を立てながら啄まれ、じゃれ合うような仕草につられてふふっと小さく笑う。ドキドキと胸の音はうるさいけれど、全然嫌な感じがしない。彼はきっと私の緊張をほぐすためにあえてこんなふうにしているのだ。
初めてのことに不安がないわけじゃない。二十八にもなればそれなりに知識だけはある。そのせいで必要以上に身構えていた。
彼になら身をゆだねられる。
そっとまぶたを下ろすと、待っていたかのように口づけが本格化した。
しっかりと押しつけるように重ね合わせた後、上唇をやわやわと食まれる。くすぐったいようなむずむずとした感覚に我知らず吐息を漏らすと、狙ったかのように上下唇を割ってぬるりとしたものが侵入してきた。
「んふっ」
彼の舌が歯列をゆっくりとなぞる。頬の裏や口蓋も同じように。
もどかしいほど丁寧な動きはかえって咥内の感度を上げ、甘い愉悦がじわじわと湧き上がる。ときどきクチュリと耳の奥に響く淫らな音が、あの夜を一気によみがえらせた。それだけで体が熱くなっていく。
けれど彼はあの夜とは違って、舌を絡ませることはせずときどきそっと撫でるだけで、すぐにまた別の場所へと行ってしまう。
何度か続くうちに、もどかしくてたまらない気持ちが込み上げてきた。絡め合ったときの気持ちよさを知ってしまったせいだろうか。
もっと彼が欲しい。彼に求められたい。
衝動に突き動かされるように追いかけて舌を絡めると、待ってましたとばかりに彼の動きが激しくなった。
自分から捕らえたはずの舌にあっという間に捕獲され、きつく吸われて引き出された舌を、根元まで強く舐られる。
あまりに奥まで強く擦られて苦しいはずなのに、体の芯がじんじんと痺れてたまらない。頭の後ろと腰をがっちりと手で押さえられ、逃げ場を失った私は彼の浴衣をぎゅっと握りしめた。
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