【完結】本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~

汐埼ゆたか

文字の大きさ
上 下
19 / 68
4.あの夜の続き***

[1]ー1

しおりを挟む


「さあ、あの夜の続きを始めようか」

 彼が濡れた髪をかき上げながら二重まぶたを細める。匂い立つほどの色香に息が止まりそうだ。

『おまえの夢、俺が叶えてやるよ』

 シンガポールでの再会の夜にそう言った彼は、帰国後、宣言通り驚くべきスピードで結婚話を進めた。
 再会からふた月足らずで婚礼を挙げられたのは、幼なじみという関係性と彼の行動力のたまものだった。
 旧知の仲である双方の両親がよく知った子ども達の結婚に諸手を上げて喜び、あれよあれよという間にすべてが決まっていった。 

 そうして今日、身内のみの婚礼と食事会を無事に終え、夫婦となった私達は都心から少し離れた温泉宿へとやって来た。彼が離れタイプの豪華なスイートルームを用意してくれたのだ。

 彼の手が頬に差し込まれる。指の先が耳朶に当たり反射的にビクッと肩をすくめる。ぎゅっと目を閉じたら額に柔らかな感触が当たり、小さなリップ音を立ててすぐに離れた。

「大丈夫。きょうちゃんの嫌がるようなことはしない、絶対に」

 目を見開くと彼と目が合った。さっきまでの妖艶さはどこへ、というくらい真剣な顔つきだ。

「たとえ夫婦間であっても、同意のない性行為は『強制性交等罪』に当たる。立場上そんなことは絶対にできないし、やりたくもない。嫌がる相手に自分勝手な欲望を押し付けるなんて、男としても人としても最低なことだ。結婚生活は互いを尊重し合えないと成り立たない。そのことは職業柄よくわかっているつもりだよ」

 この状態でそんなことを説明されるとは。

 だけど言われてみれば確かにその通りだ。ただの幼なじみだった私達は、お互いの都合のために手を組んだ。言うなれば“ご都合婚”なのだ。
 恋や愛で結びついた夫婦ではないからこそ、お互いを思いやる気持ちは忘れてはいけない。

 こんなときまで優しくて真面目なところは変わらない。どんな関係であっても、彼は私の知っている〝圭吾お兄ちゃん〟なのだ。そう思ったら妙な安心感が湧き上がった。

 彼の目を見つめ返しながら大きく頭を縦に振る。

「本当に嫌なことはがまんせずに言うんだぞ」

 もう一度うなずくと、彼の表情が和らいだ。

「いい子だ」

 彼は一瞬で唇を重ねチュッと音を立てて離れた。あまりの早業に目をしばたたかせていると、彼はクスリと笑って再び口づけてきた。二度三度と音を立てながら啄まれ、じゃれ合うような仕草につられてふふっと小さく笑う。ドキドキと胸の音はうるさいけれど、全然嫌な感じがしない。彼はきっと私の緊張をほぐすためにあえてこんなふうにしているのだ。

 初めてのことに不安がないわけじゃない。二十八にもなればそれなりに知識だけはある。そのせいで必要以上に身構えていた。

 彼になら身をゆだねられる。
 そっとまぶたを下ろすと、待っていたかのように口づけが本格化した。

 しっかりと押しつけるように重ね合わせた後、上唇をやわやわと食まれる。くすぐったいようなむずむずとした感覚に我知らず吐息を漏らすと、狙ったかのように上下唇を割ってぬるりとしたものが侵入してきた。

「んふっ」

 彼の舌が歯列をゆっくりとなぞる。頬の裏や口蓋も同じように。

 もどかしいほど丁寧な動きはかえって咥内の感度を上げ、甘い愉悦がじわじわと湧き上がる。ときどきクチュリと耳の奥に響く淫らな音が、あの夜を一気によみがえらせた。それだけで体が熱くなっていく。
 けれど彼はあの夜とは違って、舌を絡ませることはせずときどきそっと撫でるだけで、すぐにまた別の場所へと行ってしまう。

 何度か続くうちに、もどかしくてたまらない気持ちが込み上げてきた。絡め合ったときの気持ちよさを知ってしまったせいだろうか。

 もっと彼が欲しい。彼に求められたい。
 衝動に突き動かされるように追いかけて舌を絡めると、待ってましたとばかりに彼の動きが激しくなった。

 自分から捕らえたはずの舌にあっという間に捕獲され、きつく吸われて引き出された舌を、根元まで強くねぶられる。

 あまりに奥まで強く擦られて苦しいはずなのに、体の芯がじんじんと痺れてたまらない。頭の後ろと腰をがっちりと手で押さえられ、逃げ場を失った私は彼の浴衣をぎゅっと握りしめた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

契約結婚のはずが、幼馴染の御曹司は溺愛婚をお望みです

紬 祥子(まつやちかこ)
恋愛
旧題:幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。 夢破れて帰ってきた故郷で、再会した彼との契約婚の日々。 ★第17回恋愛小説大賞(2024年)にて、奨励賞を受賞いたしました!★ ☆改題&加筆修正ののち、単行本として刊行されることになりました!☆ ※作品のレンタル開始に伴い、旧題で掲載していた本文は2025年2月13日に非公開となりました。  お楽しみくださっていた方々には申し訳ありませんが、何卒ご了承くださいませ。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

【R18・完結】甘溺愛婚 ~性悪お嬢様は契約婚で俺様御曹司に溺愛される~

花室 芽苳
恋愛
【本編完結/番外編完結】 この人なら愛せそうだと思ったお見合い相手は、私の妹を愛してしまった。 2人の間を邪魔して壊そうとしたけど、逆に2人の想いを見せつけられて…… そんな時叔父が用意した新しいお見合い相手は大企業の御曹司。 両親と叔父の勧めで、あっという間に俺様御曹司との新婚初夜!? 「夜のお相手は、他の女性に任せます!」 「は!?お前が妻なんだから、諦めて抱かれろよ!」 絶対にお断りよ!どうして毎夜毎夜そんな事で喧嘩をしなきゃならないの? 大きな会社の社長だからって「あれするな、これするな」って、偉そうに命令してこないでよ! 私は私の好きにさせてもらうわ! 狭山 聖壱  《さやま せいいち》 34歳 185㎝ 江藤 香津美 《えとう かつみ》  25歳 165㎝ ※ 花吹は経営や経済についてはよくわかっていないため、作中におかしな点があるかと思います。申し訳ありません。m(__)m

お酒の席でナンパした相手がまさかの婚約者でした 〜政略結婚のはずだけど、めちゃくちゃ溺愛されてます〜

Adria
恋愛
イタリアに留学し、そのまま就職して楽しい生活を送っていた私は、父からの婚約者を紹介するから帰国しろという言葉を無視し、友人と楽しくお酒を飲んでいた。けれど、そのお酒の場で出会った人はその婚約者で――しかも私を初恋だと言う。 結婚する気のない私と、私を好きすぎて追いかけてきたストーカー気味な彼。 ひょんなことから一緒にイタリアの各地を巡りながら、彼は私が幼少期から抱えていたものを解決してくれた。 気がついた時にはかけがえのない人になっていて―― 表紙絵/灰田様 《エブリスタとムーンにも投稿しています》

野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない

若松だんご
恋愛
 ――俺には、将来を誓った相手がいるんです。  お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。  ――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。  ほげええっ!?  ちょっ、ちょっと待ってください、課長!  あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?  課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。  ――俺のところに来い。  オオカミ課長に、強引に同居させられた。  ――この方が、恋人らしいだろ。  うん。そうなんだけど。そうなんですけど。  気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。  イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。  (仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???  すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

初色に囲われた秘書は、蜜色の秘処を暴かれる

ささゆき細雪
恋愛
樹理にはかつてひとまわり年上の婚約者がいた。けれど樹理は彼ではなく彼についてくる母親違いの弟の方に恋をしていた。 だが、高校一年生のときにとつぜん幼い頃からの婚約を破棄され、兄弟と逢うこともなくなってしまう。 あれから十年、中小企業の社長をしている父親の秘書として結婚から逃げるように働いていた樹理のもとにあらわれたのは…… 幼馴染で初恋の彼が新社長になって、専属秘書にご指名ですか!? これは、両片想いでゆるふわオフィスラブなひしょひしょばなし。 ※ムーンライトノベルズで開催された「昼と夜の勝負服企画」参加作品です。他サイトにも掲載中。 「Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―」で当て馬だった紡の弟が今回のヒーローです(未読でもぜんぜん問題ないです)。

処理中です...