【完結】本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~

汐埼ゆたか

文字の大きさ
上 下
11 / 68
3.あの頃と同じこと、違うこと。***

[1]ー1

しおりを挟む

「お邪魔しまーす」

 ドアを開けて恐る恐る部屋の中に入ると、後ろからクツクツと笑う声がする。

「お邪魔しますって、自分の部屋だろ」
「それはそうなんだけど……」

 豪華すぎるこの部屋を自分の場所だと思うには、まだまだ時間が足りなさそうだ。

 再びお兄ちゃんと一緒に客室へと戻って来た。ホテル側の好意でグレードアップされた部屋は、眺望抜群のスイートルームだ。
 ここなら周りを気にすることなくゆっくりおしゃべりできる。大きなソファセットやテレビが置いてあるリビングにいると、まるで昔に戻ったような気持ちになれそうだ。

 お腹に入れるものはカジノを出た後ショッピングモール内にあるスーパーマーケットで購入して来た。滞在中に足りないものがあれば買いに行こうと思って、あらかじめチェックしておいたのだ。

「本当にいいのか?」

 中身の詰まった袋をテーブルに置きながらお兄ちゃんが言う。もう何度目かになるその質問に思わず眉根が寄った。

「もちろんよ。さっきから何度も言ってるでしょ? 逆になにがだめなの?」

 食事はレストランでしないといけないという決まりはない。

「いや、でも」
「ソファーに並んでテレビを見ながら飲むなんて、仲の良い〝兄妹〟なら普通にやることでしょ?」
「そう……だよな」

 なんとも煮え切らない態度のくせに同意されて、胸に針を刺されたような痛みが走る。

 なんだろうこの痛みは。
 彼以外の人に恋もしたし、付き合った経験もある。こうして傷心旅行をするほど手痛い失恋だってした。初恋なんてもうとっくの昔に卒業したはずだ。

「私、お皿とグラス出してくる。適当に座っててね、お・にい・ちゃん」

 最後のところを強調してから、くるりと背を向けた。

 もしかして失恋のせいで過敏になっているのだろうか。だから彼に妹扱いされるたび、女性としての魅力に欠けることを実感してもやもやするのかもしれない。だとしたら、彼に腹を立てるのは完全なる八つ当たりだ。

 我ながらなんて子どもっぽいのだろう。つい先日も、勝手な思い込みで他人を傷つけるような発言をしてしまったばかりなのに。
 成長しなければ。

 はあ、とため息をつきながら、ミニバーコーナーの前に立つ。
 グラスを取ろうと吊戸棚に手を伸ばすが、思ったより高いところにあった。
 うん、と背伸びをしたら横からぬっと太い腕が伸びてきた。反射的に振り返る。男らしい喉仏が目に飛び込んできた。

 ハッと息をのんだせいで、ほんのりと甘く爽やかなフレグランスが一気に肺に押し寄せてくる。

「これか?」
「う、うん。ありがとう」

 昔とは違う大人の香りをまとった彼に、ぎくしゃくと返事をした。

 一緒にソファーまで戻り、彼が三人掛けのソファーに腰を下ろしたので、私は九十度になるようひとり掛けの方に座る。
 張りのある座面とふかふかのクッションの座り心地のおかげで、ざわざわした胸の中が徐々に凪いでいく。カジノのイスとは大違いだ。

 買ってきたサンドイッチやローストビーフ、チーズやサラミをお皿に盛り付け、スナック菓子やナッツも出したら、昔、子どもだけでお菓子パーティをしたときのことを思い出し、気分が高揚してくる。目を輝かせた彼も同じことを思ったようだ。

「なんだか子どものときを思い出すな」
「飲み物は大人向けだけどね」
「確かに」

 クスリと笑う彼のグラスにビールをつぐ。

「なにに乾杯する?」
「そうだな……十年ぶりの再会とカジノでの勝利に」

 お互い顔を見合わせてクスクスと笑う。

「乾杯」

 グラスを持ち上げた後、口をつける。ゴクゴクと喉を鳴らした直後、ハッとした。

「あぁっ!」
「どうした、突然大きな声を出して」
「あ、ごめん――じゃなくてっ、賭けがまだだったわ」
「ああ」

『なんだそんなことか』とでもいうような相づちにハッとする。

「もしかして、最初からそのつもりだったんじゃ……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

契約結婚のはずが、幼馴染の御曹司は溺愛婚をお望みです

紬 祥子(まつやちかこ)
恋愛
旧題:幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。 夢破れて帰ってきた故郷で、再会した彼との契約婚の日々。 ★第17回恋愛小説大賞(2024年)にて、奨励賞を受賞いたしました!★ ☆改題&加筆修正ののち、単行本として刊行されることになりました!☆ ※作品のレンタル開始に伴い、旧題で掲載していた本文は2025年2月13日に非公開となりました。  お楽しみくださっていた方々には申し訳ありませんが、何卒ご了承くださいませ。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

駆け引きから始まる、溺れるほどの甘い愛

玖羽 望月
恋愛
 雪代 恵舞(ゆきしろ えま)28歳は、ある日祖父から婚約者候補を紹介される。  アメリカの企業で部長職に就いているという彼は、竹篠 依澄(たけしの いずみ)32歳だった。  恵舞は依澄の顔を見て驚く。10年以上前に別れたきりの、初恋の人にそっくりだったからだ。けれど名前すら違う別人。  戸惑いながらも、祖父の顔を立てるためお試し交際からスタートという条件で受け入れる恵舞。結婚願望などなく、そのうち断るつもりだった。  一方依澄は、早く婚約者として受け入れてもらいたいと、まずお互いを知るために簡単なゲームをしようと言い出す。 「俺が勝ったら唇をもらおうか」  ――この駆け引きの勝者はどちら? *付きはR描写ありです。 エブリスタにも投稿しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...