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2.再会は異国の地で

[3]ー2

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「私カジノには行ったことないし、ルールなんてさっぱり知らないわよ?」
「心配しなくても大丈夫。せっかく来たんだ、楽しむことだけ考えよう」

 お兄ちゃんは私の手を取り、二階フロアを進んでいく。並んでいるスロットマシンのうち一台に私を座らせた。

「え! いきなり私?」
「やったことなくてもこれならルールも知っているだろう?」

 さすがにスロットくらいは知っている。三つの目をそろえればいいのだ。
 うなずいたら、お兄ちゃんがマシンにお金を投入した。

「あ。私自分で払うから」
「最初だから掛け金は一倍でのままでいいか」

 ポーチから財布を出そうとしたが、彼が手際よくマシンの操作をしてこちらを見向きもしない。お金を取り出す前に「よし、できた」と言う声。

「ほら香ちゃん。さっそくやってみよう」

 思い切って「えい!」とボタンを押す。スロットがくるくると回り始め、ひとつずつゆっくりと止まっていく。

「あー、惜しい」

 横並びの目は数字がふたつそろったが最後が絵柄だ。 

 もう一度と促されて、再度ボタンを押す。今度は全部ばらばらだ。その後も何回か続けたが、ふたつまでしか目がそろわない。

「私にスロット運はないみたい……」

 こんなにそろわないものなのだろうか。高校生のときは勉強ばかりしていて、ゲームセンターで遊んだ記憶がないからわからない。
 一回十セントとはいえ、このままだと最初に入れたお金があっという間に飛んでいきそうだ。

「私はもういいわ」

 硬くて座り心地の悪いイスから腰を上げようとしたら、「ちょっと待って」と止められる。後ろからスッと腕が伸びてきた手が、スロットの画面に触れる。

「これ。見て」

 耳のすぐそばの空気を震わせた低音に背中にぞくりと痺れ、耳がじわっと熱くなる。甘みのある爽やかな香りが鼻をくすぐり、見知らぬ香りにドギマギする。

 彼はこちらの様子など気に留める気配もなく、私の背中を囲うようにして後ろから画面を指でトントントンとリズムよく叩く。

「斜めなら三つ全部そろってる」
「ほ、本当だ。ビンゴだったらよかったのにね」

 赤くなった顔をごまかすようにあははと笑う。

「よし、ベットしてみよう」
「ベット?」
「掛け金を増やすこと。そうすれば、横一列だけでなく斜めやジグザグ型など色々なラインを増やせる。当たり前だけど、チャンスが多い方が当たる可能性も上がるだろう」

 なるほど、とうなずいてすぐ、それなら外れたときの損失も大きいのではと思った。

「とりあえずこれでもう一回やってみよう」

 うながされるままボタンを押す。くるくると勢いよく回転するリールが、ひとつずつ止まっていく。絵柄と数字が交互に並んだ。

「やっぱり無理――」
「お、スキャッターが揃ったな」
「え?」

 よく見たら斜めにおなじ絵柄がそろっている。
「香ちゃん、ぼうっとしてないで。イベントが始まるぞ」
「え! なに、どうするの⁉」

 意味がわからずあたふたする私の代わりに、お兄ちゃんがすばやくボタンを押してくれた。

「やった! ミッションクリアだ」

 どうやらボーナスで賞金アップのようだ。

「初めてなのにすごいじゃないか」
「私はなにもしてないわ。圭吾お兄ちゃんのおかげよ」

 出てきたレシートを交換所に持って行って換金すると、最初に投入した金額の何倍にもなって返って来た。
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