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2.再会は異国の地で
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突然マンバン男がモヒカン男の肩をつかんだ。
「おい、お前。なにやってんだよ」
止めてもらえたことにほっとしたのもつかの間。「ずるいぞ」と口にしたその男は、私の太ももに手を這わせだした。内側をさわさわと撫でながら上がって来る。
「いっ、いや……!」
あと少しできわどい場所に触れようとした手を、とっさにつかんで阻止した。
「聞いたか? おまえのことは『いやっ』だってさ」
後ろで下卑た笑い声が聞こえたと思ったら、シュルリと首の後ろのリボンをほどかれる。ビキニから手を離したらきっと一瞬で外れてしまう。両手で押さえたいけれど、太ももにある男の手を離すことはできない。私が動きを止めているのをいいことに、太ももに置いたのと反対側の手で外れかかったビキニの横から膨らみを目指して侵入して来る。
「やめて……」
強く叫んだはずが、驚くほど弱々しい声しか出なかった。まぶたに溜まった涙で視界がにじむ。
もうだめ。誰か……たすけて……。
つぶやきは声にはならず、頬を伝う涙が水面にぽたりと落ちた。
そのとき。
「なにをやってる、おまえら」
突然聞こえてきた男性の低い声に、男たちが弾かれたように振り向く。その隙を見て男の体を片手でめいっぱい突き離した。
「助けて!」
伸ばした腕をサッとつかんで引き寄せられ、背中に庇われる。
「もう大丈夫」
優しく落ち着いた声を聞いた途端、涙が込み上げた。
「なんだよおまえ」
ドスの効いた声ですごまれ、ビクっと肩が跳ねた。相手はふたりだ。助けてくれた男性は大丈夫なのだろうか。
「同意なく女性に触るのは犯罪だ」
「その女が誘って来たんだ」
「ちがっ」
焦って首を振る。あんなに怖い思いをしたのに、そんな風に言われるなんて。
男性は前を向いたまま「わかっている」というようにうなずいた。
「嘘をついても無駄だ。ちゃんと証拠もある」
彼は首からぶら下げているスマートフォンケースを手で持ち上げる。
「この防水ケースは秀逸でね。水中での撮影も問題ない」
言葉を詰まらせた男たちに、彼は畳みかけるように言う。
「これを証拠として提出すれば、強制わいせつ罪確定だ」
「ま、待て。金を払う! それでいいだろう!」
真っ青な顔で言ったモヒカン男に、男性は「ふっ」と鼻で笑った。
「知らないのか? この国では悪質な強制わいせつ罪は示談禁止だぞ。金を払えばなんでも解決できると思うなよ」
彼はよく通る声ではっきりとそう言い切った。
途端、男たちが慌てたようにバシャバシャと水音を立てプールサイドに向かって走りだす。
逃げられる! そう思ったそのとき、警備員がやって来た。彼が『those guys!』と叫ぶと、あっという間に警備員が男たちを取り押さえた。
「ホテルに連絡しておいたんだ。このまま警察直行だろう。シンガポールの法律は日本より厳しい。簡単には帰国できないだろうが自業自得だな」
彼は連れて行かれる男たちを見ながらそう口にする。
「きみもいくらこの国は治安がいいと言っても、女性ひとりならもっと気をつけ――」
言いながら振り返った彼が言葉を止めた。気にはなったが顔を上げられない。ビキニを押さえながら震えのとまらない手を握りしめる。
なんとか助けてもらったお礼だけでも言おうと、うつむいたまま口を開いたとき。
「香……ちゃん?」
身内か親しい友人からしか聞くことのない呼び方に、勢いよく顔を上げた。
形のよい二重まぶたの双眸と目が合った。
すうっと通った高い鼻梁とほどよい厚みの唇。耳のラインできちんと切りそろえられた短い黒髪が、全体的に爽やかな印象を与える。
記憶の引き出しがカチリと音を立て開く。
「圭吾お兄ちゃん……?」
半信半疑で口にしたら、彼の目がさらに大きく見開かれた。
「おい、お前。なにやってんだよ」
止めてもらえたことにほっとしたのもつかの間。「ずるいぞ」と口にしたその男は、私の太ももに手を這わせだした。内側をさわさわと撫でながら上がって来る。
「いっ、いや……!」
あと少しできわどい場所に触れようとした手を、とっさにつかんで阻止した。
「聞いたか? おまえのことは『いやっ』だってさ」
後ろで下卑た笑い声が聞こえたと思ったら、シュルリと首の後ろのリボンをほどかれる。ビキニから手を離したらきっと一瞬で外れてしまう。両手で押さえたいけれど、太ももにある男の手を離すことはできない。私が動きを止めているのをいいことに、太ももに置いたのと反対側の手で外れかかったビキニの横から膨らみを目指して侵入して来る。
「やめて……」
強く叫んだはずが、驚くほど弱々しい声しか出なかった。まぶたに溜まった涙で視界がにじむ。
もうだめ。誰か……たすけて……。
つぶやきは声にはならず、頬を伝う涙が水面にぽたりと落ちた。
そのとき。
「なにをやってる、おまえら」
突然聞こえてきた男性の低い声に、男たちが弾かれたように振り向く。その隙を見て男の体を片手でめいっぱい突き離した。
「助けて!」
伸ばした腕をサッとつかんで引き寄せられ、背中に庇われる。
「もう大丈夫」
優しく落ち着いた声を聞いた途端、涙が込み上げた。
「なんだよおまえ」
ドスの効いた声ですごまれ、ビクっと肩が跳ねた。相手はふたりだ。助けてくれた男性は大丈夫なのだろうか。
「同意なく女性に触るのは犯罪だ」
「その女が誘って来たんだ」
「ちがっ」
焦って首を振る。あんなに怖い思いをしたのに、そんな風に言われるなんて。
男性は前を向いたまま「わかっている」というようにうなずいた。
「嘘をついても無駄だ。ちゃんと証拠もある」
彼は首からぶら下げているスマートフォンケースを手で持ち上げる。
「この防水ケースは秀逸でね。水中での撮影も問題ない」
言葉を詰まらせた男たちに、彼は畳みかけるように言う。
「これを証拠として提出すれば、強制わいせつ罪確定だ」
「ま、待て。金を払う! それでいいだろう!」
真っ青な顔で言ったモヒカン男に、男性は「ふっ」と鼻で笑った。
「知らないのか? この国では悪質な強制わいせつ罪は示談禁止だぞ。金を払えばなんでも解決できると思うなよ」
彼はよく通る声ではっきりとそう言い切った。
途端、男たちが慌てたようにバシャバシャと水音を立てプールサイドに向かって走りだす。
逃げられる! そう思ったそのとき、警備員がやって来た。彼が『those guys!』と叫ぶと、あっという間に警備員が男たちを取り押さえた。
「ホテルに連絡しておいたんだ。このまま警察直行だろう。シンガポールの法律は日本より厳しい。簡単には帰国できないだろうが自業自得だな」
彼は連れて行かれる男たちを見ながらそう口にする。
「きみもいくらこの国は治安がいいと言っても、女性ひとりならもっと気をつけ――」
言いながら振り返った彼が言葉を止めた。気にはなったが顔を上げられない。ビキニを押さえながら震えのとまらない手を握りしめる。
なんとか助けてもらったお礼だけでも言おうと、うつむいたまま口を開いたとき。
「香……ちゃん?」
身内か親しい友人からしか聞くことのない呼び方に、勢いよく顔を上げた。
形のよい二重まぶたの双眸と目が合った。
すうっと通った高い鼻梁とほどよい厚みの唇。耳のラインできちんと切りそろえられた短い黒髪が、全体的に爽やかな印象を与える。
記憶の引き出しがカチリと音を立て開く。
「圭吾お兄ちゃん……?」
半信半疑で口にしたら、彼の目がさらに大きく見開かれた。
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○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
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○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
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