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2.再会は異国の地で
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「So annoying(うっとうしいわね)……」
我慢しきれず心の声を漏らしてしまうと、ふたりが顔を見合わせた。
「あれ、外国人?」
バカなの? ここじゃあんた達の方が外国人でしょ。
しかも東洋人を見てすぐに日本人だと決めつけるなんて浅はかにもほどがある。そもそもシンガポールはアジアの中にある。たくさんいる東洋人の出身国を見わけるのは難易度が高い。
この手の人間には関わらないのが一番。無視を決め込んでプールサイドを目指す。
「ちょ、待っ……えぇっと、ウェイト! プリーズ!」
しつこいな。
さっさと振り切ってしまいたいのに、水の中のため思うように進まない。
両手で水をかくようにして歩いていると、後ろから肩を引かれた。
「なっ」
ぞわり、と肌が泡立つ。
「離して!」
思い切り睨め付けながら腕を振り払ったら、モヒカン男は眉を上げて目を見張った。
「なんだ、やっぱ日本人じゃん」
しまった! 言葉が通じないふりをしていればすぐに諦めるだろうと思っていたのに。
顔を見合わせたふたりは、いやらしい笑みを浮かべた。
「ひとりじゃ寂しいだろ? 言葉がわかる者同士、楽しくやろうぜ」
「余計なお世話よ」
ひとりが寂しいなんて勝手に決めつけないでもらいたい。私はおひとりさまを満喫しに来たのだ。
「強がんなくていいって。さ、あっちで飲もうぜ」
「そうそう。飲んでやなこと全部忘れちまおうぜ」
なにを返しても無駄なようだ。やっぱり相手にするべきじゃなかった。
つい言い返してしまったことを悔やみながら、今度こそ無視を決め込んでプールサイドを目指そうとしたとき、マンバン男が前に回り込んできた。反射的に後ずさろうとするが、真後ろに茶髪モヒカンがいる。
自分より背の高い男ふたりに挟まれ身動きが取れず、焦りを感じ始めた。自分ひとりで切り抜けるのは難しいかもしれない。大声で助けを求めようか。プールには他の客もいるし、プールサイドにはダイニングのスタッフもいる。
意を決して息を吸い込んだ。けれど声を上げる直前、背中から引っ張られる感覚がした。え? と思うと同時にビキニの結び目がほどかれた。
「きゃあっ!」
慌てて両手で胸を押さえる。一瞬の隙を狙ったかのように、後ろから抱き着かれた。
全身がぶわりと総毛立ち、喉の奥から悲鳴がせり上がる。が、それが口から飛び出す直前、前から伸びてきた手に口を塞がれた。
「おっと、叫ぶなよ」
顔を近づけてにやりと笑いながら言う。
「叫んだらこっちもほどいちまうぞ、いいな」
首の後ろにあるもうひとつの結び目を、モヒカン男が口で引っ張ろうとするので慌てて首を振った。
「よし。そうだ、酒がだめなら景色を楽しもうぜ」
後ろから抱き着かれたまま方向転換される。押されるようにして再びプールの縁まで戻って来た。
男の胸が密着している背中が気持ち悪くてたまらない。吐きそうだ。足はがくがくと震え、全身鳥肌が立っている。
どうしたらいいの……!
ビキニを腕で押さえながら手を握りしめた。
どんな局面でも思考を止めたらだめだ。冷静にならなければ。今にも固まりそうな思考回路を必死に動かす。
男たちは夜景を見ながら昼間に行った場所の話をし始めた。
「マーライオンってどのへんだっけ?」
「あのへんじゃなかったか?」
モヒカン男が前方を指さした。片腕が外れた今がチャンスと思ったが、先回りしたようにもう片方の腕が強く締まる。その拍子に腰から下が密着し、お尻に硬いものが当たった。なに? と思った次の瞬間、ぐいっと強く押し付けられる。その正体に思い至って「ひゅっ」と喉が鳴った。そのまま何度も強くこすり付けられる。恐怖と吐き気で眩暈がした。
誰か……!
心の叫びは誰にも届かない。
水中でどんなことが行われているかなんてただでさえわからないのに、プールの中にいる人たちは、夜景ばかりを見てこちらには見向きもしない。プールサイドからは日が落ちて薄暗くなったせいで見えていないのかもしれない。
我慢しきれず心の声を漏らしてしまうと、ふたりが顔を見合わせた。
「あれ、外国人?」
バカなの? ここじゃあんた達の方が外国人でしょ。
しかも東洋人を見てすぐに日本人だと決めつけるなんて浅はかにもほどがある。そもそもシンガポールはアジアの中にある。たくさんいる東洋人の出身国を見わけるのは難易度が高い。
この手の人間には関わらないのが一番。無視を決め込んでプールサイドを目指す。
「ちょ、待っ……えぇっと、ウェイト! プリーズ!」
しつこいな。
さっさと振り切ってしまいたいのに、水の中のため思うように進まない。
両手で水をかくようにして歩いていると、後ろから肩を引かれた。
「なっ」
ぞわり、と肌が泡立つ。
「離して!」
思い切り睨め付けながら腕を振り払ったら、モヒカン男は眉を上げて目を見張った。
「なんだ、やっぱ日本人じゃん」
しまった! 言葉が通じないふりをしていればすぐに諦めるだろうと思っていたのに。
顔を見合わせたふたりは、いやらしい笑みを浮かべた。
「ひとりじゃ寂しいだろ? 言葉がわかる者同士、楽しくやろうぜ」
「余計なお世話よ」
ひとりが寂しいなんて勝手に決めつけないでもらいたい。私はおひとりさまを満喫しに来たのだ。
「強がんなくていいって。さ、あっちで飲もうぜ」
「そうそう。飲んでやなこと全部忘れちまおうぜ」
なにを返しても無駄なようだ。やっぱり相手にするべきじゃなかった。
つい言い返してしまったことを悔やみながら、今度こそ無視を決め込んでプールサイドを目指そうとしたとき、マンバン男が前に回り込んできた。反射的に後ずさろうとするが、真後ろに茶髪モヒカンがいる。
自分より背の高い男ふたりに挟まれ身動きが取れず、焦りを感じ始めた。自分ひとりで切り抜けるのは難しいかもしれない。大声で助けを求めようか。プールには他の客もいるし、プールサイドにはダイニングのスタッフもいる。
意を決して息を吸い込んだ。けれど声を上げる直前、背中から引っ張られる感覚がした。え? と思うと同時にビキニの結び目がほどかれた。
「きゃあっ!」
慌てて両手で胸を押さえる。一瞬の隙を狙ったかのように、後ろから抱き着かれた。
全身がぶわりと総毛立ち、喉の奥から悲鳴がせり上がる。が、それが口から飛び出す直前、前から伸びてきた手に口を塞がれた。
「おっと、叫ぶなよ」
顔を近づけてにやりと笑いながら言う。
「叫んだらこっちもほどいちまうぞ、いいな」
首の後ろにあるもうひとつの結び目を、モヒカン男が口で引っ張ろうとするので慌てて首を振った。
「よし。そうだ、酒がだめなら景色を楽しもうぜ」
後ろから抱き着かれたまま方向転換される。押されるようにして再びプールの縁まで戻って来た。
男の胸が密着している背中が気持ち悪くてたまらない。吐きそうだ。足はがくがくと震え、全身鳥肌が立っている。
どうしたらいいの……!
ビキニを腕で押さえながら手を握りしめた。
どんな局面でも思考を止めたらだめだ。冷静にならなければ。今にも固まりそうな思考回路を必死に動かす。
男たちは夜景を見ながら昼間に行った場所の話をし始めた。
「マーライオンってどのへんだっけ?」
「あのへんじゃなかったか?」
モヒカン男が前方を指さした。片腕が外れた今がチャンスと思ったが、先回りしたようにもう片方の腕が強く締まる。その拍子に腰から下が密着し、お尻に硬いものが当たった。なに? と思った次の瞬間、ぐいっと強く押し付けられる。その正体に思い至って「ひゅっ」と喉が鳴った。そのまま何度も強くこすり付けられる。恐怖と吐き気で眩暈がした。
誰か……!
心の叫びは誰にも届かない。
水中でどんなことが行われているかなんてただでさえわからないのに、プールの中にいる人たちは、夜景ばかりを見てこちらには見向きもしない。プールサイドからは日が落ちて薄暗くなったせいで見えていないのかもしれない。
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