【完結】本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~

汐埼ゆたか

文字の大きさ
上 下
3 / 68
2.再会は異国の地で

[1]ー2

しおりを挟む
「So annoying(うっとうしいわね)……」

 我慢しきれず心の声を漏らしてしまうと、ふたりが顔を見合わせた。

「あれ、外国人?」

 バカなの? ここじゃあんた達の方が外国人でしょ。
 しかも東洋人を見てすぐに日本人だと決めつけるなんて浅はかにもほどがある。そもそもシンガポールはアジアの中にある。たくさんいる東洋人の出身国を見わけるのは難易度が高い。

 この手の人間には関わらないのが一番。無視を決め込んでプールサイドを目指す。

「ちょ、待っ……えぇっと、ウェイト! プリーズ!」

 しつこいな。
 さっさと振り切ってしまいたいのに、水の中のため思うように進まない。
 両手で水をかくようにして歩いていると、後ろから肩を引かれた。

「なっ」

 ぞわり、と肌が泡立つ。

「離して!」

 思い切りめ付けながら腕を振り払ったら、モヒカン男は眉を上げて目を見張った。

「なんだ、やっぱ日本人じゃん」

 しまった! 言葉が通じないふりをしていればすぐに諦めるだろうと思っていたのに。

 顔を見合わせたふたりは、いやらしい笑みを浮かべた。

「ひとりじゃ寂しいだろ? 言葉がわかる者同士、楽しくやろうぜ」
「余計なお世話よ」

 ひとりが寂しいなんて勝手に決めつけないでもらいたい。私はおひとりさまを満喫しに来たのだ。

「強がんなくていいって。さ、あっちで飲もうぜ」
「そうそう。飲んでやなこと全部忘れちまおうぜ」

 なにを返しても無駄なようだ。やっぱり相手にするべきじゃなかった。
 つい言い返してしまったことを悔やみながら、今度こそ無視を決め込んでプールサイドを目指そうとしたとき、マンバン男が前に回り込んできた。反射的に後ずさろうとするが、真後ろに茶髪モヒカンがいる。

 自分より背の高い男ふたりに挟まれ身動きが取れず、焦りを感じ始めた。自分ひとりで切り抜けるのは難しいかもしれない。大声で助けを求めようか。プールには他の客もいるし、プールサイドにはダイニングのスタッフもいる。

 意を決して息を吸い込んだ。けれど声を上げる直前、背中から引っ張られる感覚がした。え? と思うと同時にビキニの結び目がほどかれた。

「きゃあっ!」

 慌てて両手で胸を押さえる。一瞬の隙を狙ったかのように、後ろから抱き着かれた。

 全身がぶわりと総毛立ち、喉の奥から悲鳴がせり上がる。が、それが口から飛び出す直前、前から伸びてきた手に口を塞がれた。

「おっと、叫ぶなよ」

 顔を近づけてにやりと笑いながら言う。

「叫んだらこっちもほどいちまうぞ、いいな」

 首の後ろにあるもうひとつの結び目を、モヒカン男が口で引っ張ろうとするので慌てて首を振った。

「よし。そうだ、酒がだめなら景色を楽しもうぜ」

 後ろから抱き着かれたまま方向転換される。押されるようにして再びプールの縁まで戻って来た。

 男の胸が密着している背中が気持ち悪くてたまらない。吐きそうだ。足はがくがくと震え、全身鳥肌が立っている。

 どうしたらいいの……!
 ビキニを腕で押さえながら手を握りしめた。

 どんな局面でも思考を止めたらだめだ。冷静にならなければ。今にも固まりそうな思考回路を必死に動かす。
 男たちは夜景を見ながら昼間に行った場所の話をし始めた。

「マーライオンってどのへんだっけ?」
「あのへんじゃなかったか?」

 モヒカン男が前方を指さした。片腕が外れた今がチャンスと思ったが、先回りしたようにもう片方の腕が強く締まる。その拍子に腰から下が密着し、お尻に硬いものが当たった。なに? と思った次の瞬間、ぐいっと強く押し付けられる。その正体に思い至って「ひゅっ」と喉が鳴った。そのまま何度も強くこすり付けられる。恐怖と吐き気で眩暈がした。

 誰か……!
 心の叫びは誰にも届かない。
 水中でどんなことが行われているかなんてただでさえわからないのに、プールの中にいる人たちは、夜景ばかりを見てこちらには見向きもしない。プールサイドからは日が落ちて薄暗くなったせいで見えていないのかもしれない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

日向はび
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない

若松だんご
恋愛
 ――俺には、将来を誓った相手がいるんです。  お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。  ――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。  ほげええっ!?  ちょっ、ちょっと待ってください、課長!  あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?  課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。  ――俺のところに来い。  オオカミ課長に、強引に同居させられた。  ――この方が、恋人らしいだろ。  うん。そうなんだけど。そうなんですけど。  気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。  イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。  (仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???  すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

処理中です...