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スローライフ満喫中?

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 持ってきた料理が残りわずかになったころ、デザートがあることを思い出した。マノンが取りに行ってくると言い、屋敷へ戻っていった。

「デザートまで入るかしら」
「俺は余裕だぜ!」

 ジャンは自信満々だが、ぽっこりしたお腹を見たら、あまり信用できない。余ったものは包んで持って帰らせてあげればいいかと思った。彼の妹が甘いものがお土産にあるととても喜ぶそうだ。

「そういえば、足はちゃんと治ったのか?」
「はい。お陰様で」
「そうか、それはよかった。それなら俺は明日にはここを立とうと思う」
「そう、なのですね」

 一抹の寂しさが胸をかすめる。滞在は五日間ほどだったが、彼はすぐに馴染み、一緒に食事をしたりささいな会話をしたりするのも楽しかった。
 だが最初に約束した通り、これ以上彼を引き留めてはいけない。
 ニワトリ小屋も完成したし、足も治った。新しい護衛はまだ見つかっていないが、伯爵家から誰か寄こしてもらうよう頼んである。

「わたくしのことならご心配ありませんわ。ほら、この通り」

 すっくと立ちあがって、カーテシーをして見せる。

「試しにダンスを踊って見せましょうか?」

 相手がいなくてもステップくらいは踏める。
 社交界は嫌いだったが、ダンスを踊るのは好きだった。そんなことを思い出していたら、アルがおもむろに立ち上がった。

「お手並み拝見だな」

 リリィの手を取り、広い場所へと連れ出した。

「アル……踊れるのですか?」
「どうだろうな」

 不敵に口の端を持ち上げたアルがリリィの背中に手を置く。無意識にすっと背筋が伸びた次の瞬間、アルが大きく足を踏み出した。

 アルのリードは驚くほど踊りやすかった。
 ステップはスムーズで安定感がある。今までで一番踊りやすいかもしれない。
 彼はこんなに優雅なダンスをいったいどこで覚えたのだろう。雇われ護衛にしては完璧すぎる。

「アルはいったい何者ですの?」
「何者だと思う?」

 質問を質問で返すなんてやっぱり意地悪だ。この足踏んでやろうかしら。
 姿勢を崩さず正しいステップを踏みながら上目遣いにじっとりと見上げると、彼がくすりと笑う。

「当てられたら願いをひとつ聞いてやるよ」
「どんな願いでも?」
「俺ができることならな」

 彼はもうすぐここを出て行くのだ。きっといつものからかいなのだろうと思い、にこりと微笑んで「考えておきます」と返事をした、そのとき。

「お嬢様ーー!」

 屋敷の方からマノンが小走りにやって来る。

「そんなに慌ててどうしたの、マノン」

 リリィのところまでやって来たマノンが、息を切らしながら一通の手紙を差し出した。スズランの意匠の封蝋が目に留まる。

「家からだわ」
「たった今、使いの者が来て渡されました。速やかにお返事をとのことです」

 手紙を受け取ったリリィは中を開く。書かれてある文字にさっと目を走らせながら、みるみる瞳を見開いた。

「宮廷からのお呼び出しですわ」



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