Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

汐埼ゆたか

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番外編1 Holy Night Healing

聖夜の誓い

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 「ありがとう…一彰さん」

 声を震わせながらお礼を口にした千紗子を、柔らかな温もりが包み込んだ。

 「おそろい、だな」

 千紗子を抱きしめながら嬉しげに言う一彰の言葉に、千紗子は首を傾げる。

 「首に着ける、青いもの」

 「あっ!」

 奇しくも、千紗子と一彰が贈り合ったものが、物は違えど同じ深い青色だった。

 「気が合うな、ちぃ」

 すぐ目の前にある自分の贈ったネクタイの青が目に映って、千紗子ははにかみながらも微笑んだ。

 「本当はもっと分かりやすいものを贈ろうかとも思ったんだけど、これはこれで良かったな」

 またしても、一彰の口にした言葉の意味がすぐには理解できずに、小首を傾げた千紗子に、彼は抱きしめている腕を少しほどき、すっと彼女の左手をすっと掬い上げる。
 そしてその手を千紗子の顔の上まで持ち上げると、薬指にそっと唇を寄せた。

 「あっ、」

 千紗子は、短い声を上げた。

 ようやくその意図を理解した千紗子に、一彰の口の端が少し持ち上がるのが見えたが、彼は千紗子の指から唇を離すどころか、更に吸い付くような口づけを落とした。

 薬指の根元に熱と少しの痛みを感じ、千紗子は背中がカーッと熱くなる。 

 「でもそれだと、今の千紗子は色々と気にして着けたままにしてくれなさそうだしな。どうせなら、いつも着けていてほしいから」 

 千紗子の鎖骨の間でキラキラと輝くそれは、小ぶりなので毎日着けていても邪魔にならず、仕事の時でも違和感なく着けたままに出来そうだ。

 確かに一彰の言う通り、『いかにも』な指輪を付けて毎日職場に居る勇気は今の千紗子にはない。
 『誰から貰った』だの、『誰と結婚するのか』などという追及を上手にかわせるか、そんな自信は無い。そうなると結局職場へは外して行くことになるだろう。

 「それは、また別の時にきちんと、な」

 案に『プロポーズ』を匂わせてくる彼に、千紗子の胸がドクンと音を立て跳ねる。
 
 常日頃から、隙あらば『ずっと一緒に』と囁いてくる一彰に、千紗子は頷いているけれど、正式なプロポーズとは別のものだ、と自分に言い聞かせていた。

 かと言って、一彰が真剣に千紗子と付き合っていることは疑ったことはなく、いつかそうなればいいな、という想いは千紗子の中に常にある。

 大きく見開いた目で一彰を見つめると、星を刷くようにきらめく甘い瞳に見つめ返される。
 ゆっくりとまばたきをすると、気付かないうちに潤んでいた瞳からポロリと涙が一滴、こぼれ落ちた。

 千紗子の瞳から落ちた滴を、そっと唇で吸い取った一彰は、そのまま彼女の鎖骨の間で輝く雫に唇を寄せた。

 「このブルートパーズが、俺には千紗子の涙の結晶に見えたんだ」

 一彰は膝に抱えた千紗子を優しく抱き直すと、彼女を見上げて微笑む。

 「千紗子の涙はいつだって綺麗で、宝石みたいだと思ってた。もちろん笑顔の方が何倍も綺麗だけどな」

 「一彰さん……」

 「これは俺の誓い。千紗子の涙を拭うのはいつだって俺だってこと、忘れないで」

 「……はい」

 千紗子の両目から次々と溢れ出る涙を、愛おしそうに指で拭うと、優しく目を細めた一彰は、千紗子の唇に自分のものをそっと重ねた。


 ***


 「あっ、ゆきっ!雪ですよ、一彰さんっ!」

 静寂の中、突然千紗子が声を上げ、立ち上がって窓に駆け寄るのを、一彰は目を丸くして見送る。
 ついさっきまで大人しく自分の膝の上で身を委ねていた千紗子が、窓辺ではしゃいだ声を上げているのを見て、一彰はクスクスと笑い出した。

 「一彰さん?」

 軽く握った片手を口元に当て、もう片手でお腹を押さえた彼が、心底楽しそうに笑っている。

 千紗子は自分が取った行動が彼をそうさせていることに気付き、途端に恥ずかしくなってしまった。

 「……ごめんなさい、こどもっぽかったですよね……」

 顔を赤らめる千紗子に、席を立った一彰がゆっくりと歩み寄ってきた。

 「そんな意外な一面も、可愛いよ、ちぃ」
 
 窓ガラスに片手を着き、反対の手をそっと千紗子の頬に当てると、一彰はにっこりと笑う。

 甘い瞳と甘い言葉に、千紗子の顔はみるみる赤く染まっていく。
 
 「それよりも、四回目」

 「え?」

 「敬語、もう四回目だぞ。ペナルティ、覚えてるよな?」

 口の端を少し持ち上げて笑う一彰の目に、少しだけ意地悪そうな光が宿る。

 「えっと……あれって、本気だった、の??」

 「もちろんだ」

 一彰は、自分の体と窓ガラスの間に閉じ込めた千紗子に、腰を屈ませ顔を近付けると、「さあどうぞ」と言わんばかりに、瞳を閉じる。

 千紗子はドキドキと早まる鼓動に、手を胸の前で握った。

 千紗子の目の前で閉じられている瞳は、眼鏡があってもよく分かるほど睫毛が長い。
 色白のきめ細やかな肌、筋の通った高い鼻、形の良い唇。そしてそれらはすべてがバランス良く並んでいた。

 間近に見るその整いすぎた容姿に、付き合い始めた今もまだ、慣れないでいる。

 脈打つ鼓動に飲みこまれてしまわないように、千紗子は胸の前で握るこぶしに力を込めた。

 (私も、一彰さんに誓いたい)

 両手をほどくと、恐る恐る一彰の両肩にその手を乗せる。
 つま先を上げ伸びあがり、顔をゆっくりと近付ける。吐息が掛かるほどの距離まで近づいた時、千紗子はその口を開いた。

 「ずっとあなたの側で笑っています…大好き、一彰さん」

 そんな言葉が聞けると思っていなかった一彰は、閉じていた瞳を思わず開いた。と同時に千紗子の唇が一彰のものに重なる。
 
 頬を紅潮させた千紗子が、瞳を閉じて自分に口づけている。

 一彰の心に、言いようもない幸福感が押し寄せてきた。

 (いつだって、俺はこの唇に癒されているな……)

 温かくなる胸と熱くなる感情を、抑えることなど到底出来るはずもなく、一彰は千紗子をきつく抱きしめると、今度は自分から彼女の唇を奪うように口づけた。
 


    


 【了】


お読みいただきありがとうございましたm(__)m
引き続き、雨宮sideな番外編2もお楽しみ頂ければ幸いです♡汐埼ゆたか
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