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番外編1 Holy Night Healing
一彰からのクリスマスは
しおりを挟む何度か唇を持てあそぶように啄ばまれ、うっとりと瞳を閉じていると、おもむろに舌が唇を割って入り、口内を熱い舌で深く掻き回される。
抵抗する隙など一切与えない激しい口づけに翻弄されているうちに、いつのまにか千紗子は一彰の膝の上に横抱きにされていた。
「んんっ、はぁっ、」
熱い口づけに酸素を求めて口を開くが、すぐに唇を塞がれる。
息が上がり、体が熱い。
(まって…ここは…)
朦朧としかけた頭の片隅で、警鐘が鳴る。
いつもこうして、一彰の激しい口づけに流されては、彼の為すがままになってしまう。
それが嫌だというわけではない。問題は、ここが一彰のマンションでも千紗子の部屋でもない、ということだ。
「か、かず…」
息継ぎの合間に彼を止めようとするが、すぐに唇を塞がれてしまう。彼の胸を手で押してみるが、力が抜けかけているせいか、ビクともせず気にも留めて貰えない。
「んんん~~っ、」
千紗子の口を塞いだまま、一彰は背中に回した手で、彼女のワンピースのファスナーを下げようとする。
その音が耳に聞こえた千紗子は、ハッと我に返った。力いっぱい彼の体を両腕で押し返し、一彰から身を離すと、大きく口を開いた。
「一彰っ、ここじゃダメっ!!」
背中の手がピタリと止まる。
長い口づけで息が上がっていたうえに、いきなり大きな声を出したせいで、千紗子の目が酸欠でクラリと回る。
「千紗子っ!」
一彰の胸に額を付けてくったりとなった千紗子に、一彰は慌てた。
「大丈夫か?」
肩を支えられ、心配そうに顔を覗き込まれて、千紗子はまだ整わない息をつきながら、一彰の顔をキッと睨んだ。
「こ、ここは、うちじゃないからっ、これ以上はダメ、なのっ!」
「す…すまない」
千紗子の剣幕にすっかり萎れた一彰のことを、内心では(ちょっと可愛かも…)などと思いつつも、なんとなくすぐに許してはいけないような気がして、千紗子は息が整うまでの間、黙っていることにした。
「本当にすまない…千紗子が可愛くて、プレゼントが嬉しすぎて、つい調子に乗ってしまったんだ…次からは我慢するから、機嫌を直して、千紗子」
心底すまなそうな声に、千紗子は逸らしていた瞳を一彰に向ける。
そこには眉を下げて、うなだれた彼の姿があった。
「本当に?本当に反省してる?」
「本当だ。これからはちゃんと場所をわきまえる。千紗子の誘惑に勝つ、鋼の精神を持てるように努力する」
(私の誘惑って……そんなことした覚えはないのだけど……)
なんだか腑に落ちない千紗子だったが、目の前の彼が、耳を下げてうなだれる大型犬のように見えてきて、もう怒っているふりをするのもばかばかしくなってきた。
「じゃあ、鋭意努力してね?一彰さん。………ふふふっ」
なんだか可笑しくなって、笑ってしまうと、一彰は目を丸くしたけれど、すぐに安心したようにホッと息をついて肩を下げた。
「ありがとう、千紗子。じゃあ今度は俺からのクリスマスプレゼント、受け取ってくれるか?」
「えっ!」
驚いた千紗子に、一彰は綺麗にラッピングされた細長い箱を差し出した。
千紗子の視線が箱と一彰とを往復する。
「だって、クリスマスプレゼントはこのワンピースだって……」
「“クリスマス”プレゼントだとは言ってないだろ?それは初デートのプレゼントで、俺が千紗子に着せたかっただけ」
「なっ!!」
短い言葉を口から出した後、その口を閉めることも出来ずに千紗子は目を丸くしていた。
(「クリスマスに着て欲しい」って言って買ってくれたから、すっかりクリスマスプレゼントだとばかり……)
「それで?俺からの“クリスマスプレゼント”は受け取ってくれないのか?」
「………ありがとう」
一瞬の沈黙の後、千紗子はその箱を一彰の手から受け取った。
シャンパンゴールドのリボンを解き、赤い包みを開いくと、ベルベットの細長いケースが出てきた。
ゆっくりと、それを開く。
「きれい……」
雫の形の青い宝石が、細い銀色のチェーンの先に下がっている。その深い青は、吸い込まれそうなほど澄んでいた。
「ロンドンブルートパーズっていうらしい」
ネックレスに魅入っていた千紗子に、低く柔らかな声が囁く。
「千紗子の誕生石だろ?」
千紗子は言葉を発することも出来ず、ただ息を呑んでその青い雫を見つめている。
「着けてもいいか?」
耳元で囁く低音の声に、千紗子はただコクンと頭を動かした。
髪をよける指先が、千紗子の首筋を優しくくすぐる。
一彰は、千紗子の手の中の箱からをネックレスを持ち上げると、それをそっと千紗子の首に回して掛けた。
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