Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

汐埼ゆたか

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番外編1 Holy Night Healing

千紗子からのクリスマスプレゼント

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 ブッシュドノエルを味わったあと、温かい紅茶を飲みながら、千紗子は窓の外の景色を眺めていた。

 厨房からは人の気配が消え、この家には一彰と千紗子の二人きりだ。

 静寂の中に、時折ストーブの中で薪の爆ぜる音が聞こえる。
 窓の外ではクリスマスツリーが、変わらずキラキラと輝いている。

 部屋に満ちる静寂が心地良い。

 クリスマスミュージックなど無いけれど、今、この空間が、一番聖夜らしいのではないか、と千紗子は感じていた。

 一彰も同じように感じているのか、食事の時とは違って、黙ったまま外を眺めながらコーヒーを飲んでいる。

 うっとりとクリスマスツリーを見ていた千紗子は、カップの中身が既に空になっていることに気付き、ソーサーの上に戻した。
 
 (そうだ、渡すなら今だわ)

 「一彰さん」

 「ん?」

 千紗子に呼ばれた一彰が振り向くと、鞄を膝の上に乗せた千紗子が、その中から何かを取り出そうとしていた。

 「あの…これ」

 千紗子が差し出した手には、細長い箱が乗っている。

 深い緑色の包装紙で包まれ、金色のリボンが掛けられたそれを一彰に差し出す千紗子は、頬を赤く染め、一旦伏せた瞳を持ち上げて一彰を見つめると、口を開いた。

 「クリスマスプレゼント、受け取ってもらえますか?」

 狙ったわけではない上目使いの瞳に見上げられた一彰は、大きく目を見開き、千紗子を見つめ返した。

 「俺に?」

 目を丸くしながら一彰がそう問うと、千紗子はコクリと頭を縦に振る。
 一彰は彼女の手から深緑の箱を受け取る。

 「ありがとう、千紗子。開けてもいい?」
 
 千紗子がもう一度頭を縦に振ると、一彰は、包みを解いて中を開いた。

 中に入っていたのはソリッドネクタイ。
 それは海の青よりも深く群青よりは明るい、絶妙な青。

 「きれいな青だな」
 
 「ミッドナイトブルーというらしいの」

 「なるほど。今夜にピッタリのネクタイだな」

 そう言うと、一彰は今着けているネクタイをスルリと解いて、千紗子から贈られた新しいネクタイを首に掛ける。

 「締めてくれる?ちぃ」

 「えっ!?」

 「ちぃが贈ってくれたものだから、最初はちぃに締めて欲しい」
 
 男性にネクタイを締めてあげたことなどない千紗子は、一彰の要望に戸惑ったが、黙ってじっと待っている一彰に根負けして、椅子から立ち上がった。

 「えっと……」

 座っている一彰の首元に、身を屈ませて手を伸ばした千紗子は、その首からぶら下がっているネクタイを何とか結ぼうとする。

 一見ただの無地に見えるそれは、よく見ると混合色の糸で編まれていて、ストライプになるように織り方を交互に変えてある。
 シンプルな中にある捻りの効いた大人のお洒落感が、一彰の雰囲気と共通しているような気がして、千紗子はそれを選んだのだった。 

 まごまごとネクタイを持て余す千紗子の手に、一彰の手が重なる。

 「ここを、こう通して…そう。ほら、出来た」
 
 一彰の手に誘導されながら、何とかそのネクタイを締め終えた千紗子が、ホッと息をつく。

 (やっぱり、良く似合ってる)

 一彰の胸元に治まるミッドナイトブルーに、千紗子が密かに満足していると、額に柔らかな感触が押し当てられた。

 驚いて瞳を持ち上げると、嬉しげに微笑む一彰と目が合う。

 「素敵な贈り物をありがとう。千紗子はセンスがいいな。これからはこのネクタイで仕事に行くことにするよ」

 一彰は甘く瞳を細めると、今度は千紗子の唇に柔らかな口づけを落とした。

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