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番外編1 Holy Night Healing
クリスマスイブ
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十二月二十四日―――キリスト教で言うところのクリスマスイブ。ここ日本では、祝日の振替休日になっている。どちらにしても図書館は変わらず開館中で、千紗子はこの日も変わらず仕事に勤しんでいた。
「今日は随分と冷えるわね」
「はい。すごく寒いですよね。十二月入ってからの一番の冷え込みらしいですよ」
「夜には雪になるかも、って天気予報で言ってたもんね」
図書館の窓から見えるどんよりとした冬空を美香と二人で見上げながら、千紗子は自分の気持ちが浮足立っているのを感じていた。
「千紗ちゃん、何かいいことでもあった?」
千紗子の口角が自然と上がるのを目聡く見つけた美香は、横から覗き込むように首をかしげる。丸くなった瞳は猫のようだ。
「え、いえ……土曜日の作家さんとの遣り取りを思い出して、嬉しくなっただけなんです」
はにかみながらそう言うと、美香はうんうんと頷いた。
「すごく素敵な方だったわよね。お話も面白くて聞きやすかったし、とっても気さくでこちらからも話しかけやすかったわね」
「はい」
「そして更にイケメンで、言うことなしだったわ!」
最後のところだけ異様にテンションの高くなった美香に、千紗子は苦笑を漏らす。
その絵本作家はプロフィールによると四十二らしいが、一見三十代半ばにしか見えないくらい若々しく、俳優かと思うほど容姿が整っていた。そしてふんわりとした彼の作品とは真逆の、ワイルドな風貌に溢れるような大人の色気を備えた男性だったのだ。
女性館員を筆頭に、子どもを連れて読み聞かせに訪れたお母さまたちの目が皆同様にキラキラしていたのを思い出すと、千紗子は可笑しくなってクスリと笑った。
一昨日の土曜日。三連休の初日になるその日は、以前から準備をしていた『地元絵本作家のトークイベント』が行われ、午前と午後に分けて行われたそのイベントは大盛況だった。
午前には絵本作家本人による子ども向けの読み聞かせがあり、先着制だった為、当日は三十分前には人が集まりだし、急遽整理券を配布することになった。開場後は、会場に入りきれないほどの親子や子ども達が訪れた。
午後からは事前申し込み制で、小学五年生以上の人を対象とした講演会が行われ、その絵本作家が、絵本を作る時のエピソードや本人の体験談、時には失敗話などを面白おかしく語り、ひと時も飽きることのない二時間となったのだった。
午前と午後の両方とも、来場された方に記念として、その作家の絵本の絵を使って作った栞(もちろん作家本人と版元には使用許可済み)を配布したところ、とても喜ばれた。千紗子が作家本人にも恐縮しながら渡したところ、とてもとても喜んでお礼を何度も言われて、千紗子は感動したのだった。
「あら、千紗ちゃんはそう思わなかったの?」
「えっ?私ですか??」
びっくりしながら美香を見ると、「あんなに素敵な男性だって知ってたら私もチームに入れて貰うんだったわ」とブツブツ言っている。
(確かに素敵な方だったけど、それは作家さんとして人として、っていうだけで、男性としてなら……)
「ああ、そっか。千紗ちゃんは四六時中雨宮さんと一緒だから、イケメン慣れしてるもんね」
耳元でそう囁いた美香の声に、ハッとしてそちらを振り向いた。
思いもよらぬ美香の発言に、千紗子の心臓が早鐘を打つ。
一彰と正式に付き合い始めた千紗子は、一週間以上経った今も、その関係を誰にも言うことが出来ないでいた。
もちろん目の前の美香にも、だ。
「今日は随分と冷えるわね」
「はい。すごく寒いですよね。十二月入ってからの一番の冷え込みらしいですよ」
「夜には雪になるかも、って天気予報で言ってたもんね」
図書館の窓から見えるどんよりとした冬空を美香と二人で見上げながら、千紗子は自分の気持ちが浮足立っているのを感じていた。
「千紗ちゃん、何かいいことでもあった?」
千紗子の口角が自然と上がるのを目聡く見つけた美香は、横から覗き込むように首をかしげる。丸くなった瞳は猫のようだ。
「え、いえ……土曜日の作家さんとの遣り取りを思い出して、嬉しくなっただけなんです」
はにかみながらそう言うと、美香はうんうんと頷いた。
「すごく素敵な方だったわよね。お話も面白くて聞きやすかったし、とっても気さくでこちらからも話しかけやすかったわね」
「はい」
「そして更にイケメンで、言うことなしだったわ!」
最後のところだけ異様にテンションの高くなった美香に、千紗子は苦笑を漏らす。
その絵本作家はプロフィールによると四十二らしいが、一見三十代半ばにしか見えないくらい若々しく、俳優かと思うほど容姿が整っていた。そしてふんわりとした彼の作品とは真逆の、ワイルドな風貌に溢れるような大人の色気を備えた男性だったのだ。
女性館員を筆頭に、子どもを連れて読み聞かせに訪れたお母さまたちの目が皆同様にキラキラしていたのを思い出すと、千紗子は可笑しくなってクスリと笑った。
一昨日の土曜日。三連休の初日になるその日は、以前から準備をしていた『地元絵本作家のトークイベント』が行われ、午前と午後に分けて行われたそのイベントは大盛況だった。
午前には絵本作家本人による子ども向けの読み聞かせがあり、先着制だった為、当日は三十分前には人が集まりだし、急遽整理券を配布することになった。開場後は、会場に入りきれないほどの親子や子ども達が訪れた。
午後からは事前申し込み制で、小学五年生以上の人を対象とした講演会が行われ、その絵本作家が、絵本を作る時のエピソードや本人の体験談、時には失敗話などを面白おかしく語り、ひと時も飽きることのない二時間となったのだった。
午前と午後の両方とも、来場された方に記念として、その作家の絵本の絵を使って作った栞(もちろん作家本人と版元には使用許可済み)を配布したところ、とても喜ばれた。千紗子が作家本人にも恐縮しながら渡したところ、とてもとても喜んでお礼を何度も言われて、千紗子は感動したのだった。
「あら、千紗ちゃんはそう思わなかったの?」
「えっ?私ですか??」
びっくりしながら美香を見ると、「あんなに素敵な男性だって知ってたら私もチームに入れて貰うんだったわ」とブツブツ言っている。
(確かに素敵な方だったけど、それは作家さんとして人として、っていうだけで、男性としてなら……)
「ああ、そっか。千紗ちゃんは四六時中雨宮さんと一緒だから、イケメン慣れしてるもんね」
耳元でそう囁いた美香の声に、ハッとしてそちらを振り向いた。
思いもよらぬ美香の発言に、千紗子の心臓が早鐘を打つ。
一彰と正式に付き合い始めた千紗子は、一週間以上経った今も、その関係を誰にも言うことが出来ないでいた。
もちろん目の前の美香にも、だ。
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