Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

汐埼ゆたか

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8. すきといえる

今日から俺のもの?

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 千紗子は一彰の体に腕を回して、そのままきゅっと抱きしめた。
 自分の上にある彼の体は大きくて、腕を回しても包み込むことは出来ないけれど、それでも千紗子は少しでも自分の気持ちが伝わればいいと思った。
 
 あのとき、きっと傷付いていた彼の、その心を少しでも癒したくて。

 ぎゅうぎゅうと腕に力を込めると、千紗子の思いに気付いたのか、一彰も抱きしめ返してくる。

 しばらくの間、二人はそうやって抱きしめあっていた。


 「ありがとう。千紗子」

 一彰の声に、千紗子は顔を上げた。

 その声と同じように柔らかな瞳をした彼は、何の陰りもない顔で微笑んだ。

 「じゃあ、千紗子は、今日から俺のもの、ってことでいいか?」

 微笑む彼の目が甘く光る。

 「俺の…って…」

 なんだか官能的な響きに千紗子は顔を赤くする。

 「ちがうのか?俺は千紗子が好きで、千紗子も俺のことが好きなのに、俺のものにはなってくれないのか?」

 おねだりするみたいに首を傾げる彼の様子は可愛らしいけれど、その瞳は妖しく濡れている。

 「えっと………」

 顔がカーッと熱くなっていく。
 本当は『自分は一彰のものだ』と言いたいのに、なんだか恥ずかしくてそれを口にすることが出来ない。

 顔を真っ赤にしながら口をもごもごとしている千紗子に、一彰はクスリと小さく笑った。

 一彰は楽しげに微笑んでいるが、その瞳は甘い熱を隠してはいない。
 千紗子の返答次第では、すぐにでも喰いついてこようとしている。

 (ちゃんと、全部、言葉にしないと)

 千紗子は、自分の中に抱えていたものを、一つ残らず言葉にして一彰に伝えることを自分に言い聞かせた。

 「一彰さんのものになる前に、一つだけ教えてください」

 真剣な目を向けてきた千紗子に、一彰は目を丸くする。

 千紗子は、ごくん、と一度唾を飲みこんでから、大きく息を吸った。

 「一彰さんに、他にお付き合いしている女性はいませんか?」

 「はっ!?」

 一彰が目を白黒させた。けれど千紗子が言っていることを理解した瞬間、一彰の眉が跳ねがった。

 「どういうこと?俺が千紗子と誰かを二股してるって、疑ってるのか?」

 硬く低い声が千紗子の耳に届く。
 千紗子とて、彼のことを疑いたいわけではない。ただ、あの時見た女性のことを忘れられないだけなのだ。

 「……一彰さんが私に嘘をつくなんて、思ってません。ただ……」

 「ただ?どうした千紗子?気になることがあるならちゃんと言って」

 「……昨日の朝、うちの前を一彰さんが女性と一緒に歩いているのを見て……すごく綺麗な人で…一彰さん、楽しそうだったから……」

 千紗子の声はだんだんと尻すぼみになって、最後の方は聞こえるか聞こえないか分からないくらいだった。

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