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5・オンとオフ
趣味と日課
しおりを挟む食後の片づけは二人でやった。
千紗子は自分一人で片付けると言ったのだが、「作って貰ったのにそんなことは出来ない」と雨宮が袖を捲ってシンクの前に立ったので、千紗子は雨宮に洗った食器を拭く仕事をお願いした。
「そう言えば、食器もあまりなかっただろう?」
「そうですね」
食器を戸棚に戻しながら今更ながらそのことに気付いた雨宮に、千紗子は小さく笑う。
雨宮の食器棚には皿数も少なく、揃いの茶碗などはない。本当に必要最低限の食器だけだったので、千紗子は料理をどの皿に盛るのか、ほとんど悩まずに済んだのだ。
食事を取るための食器は少ないが、反対にお酒用のグラスは種類も数も豊富だ。ワイン用のグラスは二脚ずつ三種類くらいあるし、洋酒用のショットグラスや、日本酒のぐい飲み、後は江戸切子の冷酒グラスも置いてある。
(初めて見た時は、どこかのバーかと思ったくらいだものね)
冷蔵庫の時と同じような衝撃を受けたことを思い返すと、千紗子の口からクスッと笑いが漏れた。
「何が可笑しい?」
食器棚の方を向いていた雨宮が振り向きざまに見下ろしてくる。
少し拗ねたような彼の気配に、千紗子はまた「ふふふっ」と笑いを漏らした。
「雨宮さんはお酒がお好きなんですか?」
「…ああ、そうだな」
食器棚の中身と、昨日の冷蔵庫のことで、千紗子がどうしてそんなことを言い出したのか、雨宮もすぐに気付く。
「酒と本が、趣味、かな」
「ランニングは違うんですか?」
「あれは日課だ」
「…そうなんですか?」
「ああ」
違いが良く分からないけれど、千紗子は別に気にならなかった。
今の和やかな空気が心地良い。
こんな風に雨宮と話していることが千紗子には不思議な気がしていた。
食器を片付け終わってすることがなくなった千紗子は、途端に雨宮と二人きりの空間が落ち着かないものになってくる。
誰もが見惚れる容姿を持った職場の上司と、夜中同じく部屋に二人っきり。
しかも、二人ともお風呂上りの無防備な姿で。
そんな状況に昨日今日で慣れるわけないのだ。
「千紗子は明日も早番だろう、もう寝た方がいい」
そわそわと落ち着かない千紗子に気付いたのか、雨宮は彼女を早くも寝室に送り出す。
「俺はまだ少し仕事をしてから寝るから。さ、気にしないで、もう寝て」
「……では、お先に失礼します。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
片手を上げて千紗子に返事をする雨宮をあとに、千紗子はリビングの扉を閉めた。
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