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5・オンとオフ
仕事上がりに
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定時を少し過ぎた午後六時前。
千紗子は職員専用出入り口の扉をゆっくりと押し開けた。
(やっと終わった……)
色々な要因で精神的に乱れっぱなしの今日一日は、純粋に業務だけで忙しい日より何倍も疲れるものだった。
雑念を振り払うべく自分で仕事を増やしていたのもあったけれど。
(雨宮さんにはタクシーで帰って、て言われたけれど………)
千紗子は帰りに駅前のにあるスーパーで買い物をして帰ろうと思っていた。
あそこなら百均の店もあるし、雨宮の家で数日間料理をする為に足りないものを買うのに良いと、朝から決めていたのだ。
この図書館は、市役所や保健センターなどの行政施設や、体育館や市民会館などの公共施設が、今朝通って来た公園をぐるりと囲む形で集められている一角にある。
その為夕方のこの時間はバスの本数も多く、とりわけ駅に向かうバスは、あまり待たなくても良い間隔でやってくるのだ。
千紗子がバス停に着くと、ちょうど駅に向かうバスがやってくるところだった。
(良かった。あまり混んでないわ)
タイミング良くバスに乗れた上に乗客もそんなに多くなく、千紗子は運よく座席に座ることが出来た。
疲れた体にバスの揺れが心地良い。
窓の外を眺めながら、千紗子はぼんやりと物思いに耽った。
(私、今まで雨宮さんの前でどんなふうにしてたかしら………)
今日一日、彼の前で挙動不審だった自覚はある。
二日前に仕事をした時までは全然平気だったのに、同じように振る舞えない自分が情けない。
(プライベートだけじゃなくて、仕事の時まで迷惑を掛けることだけはしたくないのに………)
公私混同なんて絶対にしないように気を付けなければ、と千紗子は自分に言い聞かせた。
スーパーで買い物を済ませて雨宮のマンションに戻った千紗子は、着替えと手洗いをしてから早速夕飯準備に取り掛かった。
スーパーで買い物をする時に、千紗子は何を買うか悩んでしまった。
雨宮の家にいるのは、明後日の日曜日までにしようと千紗子はあらかじめ決めていた。お世話になったお礼をせめて数日間の食事の用意で返せたらいいと思ったからだ。
今日から明後日までの三日間、いったい雨宮に何を作って出せばいいのか、そもそも雨宮の食の好みすら知らないことに、千紗子は初めて気付いたのだ。
とりあえず一般的ないくつかの料理を頭に思い描きながら、食材を選んでいく。
雨宮が料理をしないことは良く分かったので、三日後に食材を残されても困るだろうと考えた千紗子は、使い切れるだけの食材を選んだ。足りなくなったら買い足せばいいだろう。
オリーブ油や調味料、簡単に一食作れるパスタや乾麺、それらは使いきれなくて雨宮が要らなければ、千紗子が持って出ればいいか、と思ってあまり考えずにかごに入れることにした。
「よし。あとは温めたら食べれるわね」
千紗子が今日の夕飯として準備したのは、肉じゃがとほうれん草の胡麻和え、豆腐とワカメの味噌汁だ。
定番中の定番な献立だけど、遅番の雨宮が帰ってくる頃には肉じゃがにいい感じに味が滲みているだろうし、この料理を嫌いな人をあまり聞いたことがないから、とりあえず様子見もあって、今日のメインに選んだのだった。
千紗子が壁にかかった時計を見ると、時刻は八時になろうとしていた。
まだ雨宮が帰ってくるまで一時間はある。
先に風呂を済ませて置こうと、千紗子はバスルームに向かった。
定時を少し過ぎた午後六時前。
千紗子は職員専用出入り口の扉をゆっくりと押し開けた。
(やっと終わった……)
色々な要因で精神的に乱れっぱなしの今日一日は、純粋に業務だけで忙しい日より何倍も疲れるものだった。
雑念を振り払うべく自分で仕事を増やしていたのもあったけれど。
(雨宮さんにはタクシーで帰って、て言われたけれど………)
千紗子は帰りに駅前のにあるスーパーで買い物をして帰ろうと思っていた。
あそこなら百均の店もあるし、雨宮の家で数日間料理をする為に足りないものを買うのに良いと、朝から決めていたのだ。
この図書館は、市役所や保健センターなどの行政施設や、体育館や市民会館などの公共施設が、今朝通って来た公園をぐるりと囲む形で集められている一角にある。
その為夕方のこの時間はバスの本数も多く、とりわけ駅に向かうバスは、あまり待たなくても良い間隔でやってくるのだ。
千紗子がバス停に着くと、ちょうど駅に向かうバスがやってくるところだった。
(良かった。あまり混んでないわ)
タイミング良くバスに乗れた上に乗客もそんなに多くなく、千紗子は運よく座席に座ることが出来た。
疲れた体にバスの揺れが心地良い。
窓の外を眺めながら、千紗子はぼんやりと物思いに耽った。
(私、今まで雨宮さんの前でどんなふうにしてたかしら………)
今日一日、彼の前で挙動不審だった自覚はある。
二日前に仕事をした時までは全然平気だったのに、同じように振る舞えない自分が情けない。
(プライベートだけじゃなくて、仕事の時まで迷惑を掛けることだけはしたくないのに………)
公私混同なんて絶対にしないように気を付けなければ、と千紗子は自分に言い聞かせた。
スーパーで買い物を済ませて雨宮のマンションに戻った千紗子は、着替えと手洗いをしてから早速夕飯準備に取り掛かった。
スーパーで買い物をする時に、千紗子は何を買うか悩んでしまった。
雨宮の家にいるのは、明後日の日曜日までにしようと千紗子はあらかじめ決めていた。お世話になったお礼をせめて数日間の食事の用意で返せたらいいと思ったからだ。
今日から明後日までの三日間、いったい雨宮に何を作って出せばいいのか、そもそも雨宮の食の好みすら知らないことに、千紗子は初めて気付いたのだ。
とりあえず一般的ないくつかの料理を頭に思い描きながら、食材を選んでいく。
雨宮が料理をしないことは良く分かったので、三日後に食材を残されても困るだろうと考えた千紗子は、使い切れるだけの食材を選んだ。足りなくなったら買い足せばいいだろう。
オリーブ油や調味料、簡単に一食作れるパスタや乾麺、それらは使いきれなくて雨宮が要らなければ、千紗子が持って出ればいいか、と思ってあまり考えずにかごに入れることにした。
「よし。あとは温めたら食べれるわね」
千紗子が今日の夕飯として準備したのは、肉じゃがとほうれん草の胡麻和え、豆腐とワカメの味噌汁だ。
定番中の定番な献立だけど、遅番の雨宮が帰ってくる頃には肉じゃがにいい感じに味が滲みているだろうし、この料理を嫌いな人をあまり聞いたことがないから、とりあえず様子見もあって、今日のメインに選んだのだった。
千紗子が壁にかかった時計を見ると、時刻は八時になろうとしていた。
まだ雨宮が帰ってくるまで一時間はある。
先に風呂を済ませて置こうと、千紗子はバスルームに向かった。
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