Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

汐埼ゆたか

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4・崩壊と甘癒

驚愕の冷蔵庫

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 ゆっくりとお粥を完食した千紗子に、雨宮は風呂を勧めた。
 千紗子は「片付けくらいは自分が」と申し出たもの、「まだ本調子じゃないから」と断られ、追い立てられるようにバスルームへと向かわされた。

 パウダールームへ入る時に、雨宮が千紗子にスエットの上下をパジャマ代わりに貸してくれた。
 ホテルへ行くつもりだった千紗子は、下着や着替えの服は購入していたけれど、パジャマは用意しなかったのだ。
 「お風呂に入っている間に洗濯乾燥機を使うといい」と言われて、その言葉にも甘えることにする。

 (何から何まで至れり尽くせりね…私はまだ何も返せていないのに………)

 雨宮の手を煩わせてばかりで、彼の役に立つようなことが何一つ出来ていない自分がもどかしい。

 (明日からお料理くらいは頑張らなくちゃ)

 そう決意した千紗子は、手早く風呂とドライヤーなどの身支度を済ませてから、リビングへと戻った。


 リビングのドアを開けると、雨宮はソファーで本を読んでいた。

 「お風呂、お先にありがとうございました」

 「ああ。ゆっくり出来たか?」

 「はい、ありがとうございます」
 
 「何か飲むか?」
 
 「………いただきます」

 千紗子の返事に雨宮が腰を上げようとする。

 「あの、自分で出来ますから…。冷蔵庫開けてもいいですか?」

 千紗子はおずおずとそう申し出た。明日から食事を用意するのに、一度冷蔵庫の中身を確認しておきたかったのもある。

 「もちろん。どこでも好きに開けて良いよ」

 雨宮も千紗子の意図を理解したようで、『気にしない』という意思表示なのか、またソファーに腰を落として本を読み始めた。

 そんな雨宮の様子にホッとした千紗子は、キッチンへと足を踏み入れる。
 初めて入る雨宮の家にキッチンに、少し緊張してしまう。
 
 システムキッチンを背にして、造り付けの食器棚からグラスを一つ出す。そしてお茶か水でも頂こうと思って、隣にある冷蔵庫を開けた。

 冷蔵庫の中を見て、千紗子は驚愕した。

 「の、飲み物しか入ってない……!!」

 雨宮の冷蔵庫は、見事なまでに飲み物しか入っていなかった。

 ペットボトルのミネラルウォーターや炭酸水、ビールの缶にワインの瓶。

 大体どの家庭の冷蔵庫にも入っているはずの、マヨネーズやケチャップすら見当たらない。固形物で唯一見当たるのがバターくらいだ。

 ためしに野菜室や冷凍庫をあけてみるけれど、ほとんど空に近い。冷凍庫はロックアイスの袋が二袋もあるけど、他は何もなく、野菜室に至ってはワインクーラーみたいな扱いになっていた。

 「こ、これって……」

 どうしたらこんな冷蔵庫になれるのか、千紗子には不思議でたまらない。

 「何もないだろう?」
 
 冷蔵庫を前に目を白黒させている千紗子の後ろから、声がかかった。

 「雨宮さん…」

 首だけで振り向くと、キッチンの入口に雨宮が立っている。

 「基本的にキッチンではお湯を沸かすか、レンジを使うくらいしかしないからな」

 そういう彼の顔は飄々ひょうひょうとしている。

 「明日の朝、いったい何を食べたらいいでしょうか……」

 千紗子は途方に暮れた気持ちになって、雨宮にそう聞いた。

 「ああ。明日はとりあえず今朝一緒に食べたパンの残りがあるから、それでいいかな?俺は朝あまり食べないし、千紗子が良ければ、」

 「よくありませんっ!!」

 雨宮の台詞を、千紗子は勢いよく否定した。

 「そう、だよな…千紗子は残り物のパンじゃ良くないよな……」

 千紗子の勢いにたじろぐ雨宮に、千紗子は詰め寄るように一歩前に出る。

 「違いますっ。良くないのは残り物のパンじゃなくて、雨宮さんの食生活です!」

 雨宮は目を丸くした。
 それまで強く何かを言うことのなかった千紗子が、ハッキリと大きな声で意見するのを雨宮は初めて見た気がする。

 「夜もきちんと食べないって言ってましたよね?それで朝もなんて…。それではいつか体を壊してしまいますっ!せめて朝食くらいはしっかりと食べてください!朝食は一日の始まりの大事なエネルギー源なんですよっ!」

 雨宮は、自分の目を見て一生懸命力説する千紗子の姿をしばらく目を見開いたまま見ていた。
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