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4・崩壊と甘癒
遭遇
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アンダーウェアを扱うショップで何点かの下着を手早く買った後、その隣にあったショップでカーデガンやカットソーも数枚買った。組み合わせたら少ない枚数でも数日間何とか着まわせるだろう。
千紗子が腕時計を見ると、まだ約束の時間まで十五分ほど残っていた。
早めにコーヒーショップに行って何か飲みながらのんびりと待っていようかと思ったけれど、この近くに書店が入っているのを思い出した千紗子は、そこに寄ってから待ち合わせの場所に向かうことにした。
図書館で働く千紗子は書店も好きだ。そもそも『読み物』という類のものが好きなのだ。
書店に並ぶ新しい本や話題の書籍は、『図書館に置きたいな』と思うし、積んである本を紹介したポップを見るのも参考になる。
もちろん読んでみたいと思える本を見付けるとついつい買ってしまうことも多々ある。
今の千紗子は気持ちが塞いでいるから長い小説を読む気力は湧いてこないが、本に囲まれてそれを眺めるだけでも気晴らしになるかと思って、書店に向かった。
書店に入ると、雑誌のコーナーが目に付いた。
(クリスマス特集……)
地元エリアのクリスマスイベントやイルミネーション、おすすめのレストランを特集したカップル向けの雑誌が並んでいる。
(もうあと二十日くらいでクリスマスだものね…そう言えば、今年は裕也からクリスマスの予定なんて聞かれて無かったわ……)
プロポーズされて初めてのクリスマスなのに、自分たちはそんな話しすらしていなかったのだと今更気付く。
(お互いの実家への挨拶に行くのも、具体的に何も話してなかったし………)
プロポーズを受けてすぐの頃、実家への挨拶は年末年始の頃にしようか、という話が出ていた。
けれど、そのあとお互い忙しくなって休みもほとんど合わなかったので、具体的に話が進まなかったのだ。
(でも本当はそうじゃなかったのかも…、私が「いつにする?」って聞いてみた時に「今は忙しいから」ってはぐらかされてばかりだったわね………)
忙しくて帰りの遅い裕也を煩わせたくなかった千紗子は、『それなら仕方ない。もう少し後になってからでいいか』とあまり口に出さないようになったのだった。
(今思えば、裕也は結婚に前向きじゃなくなってたのかも。いいえ…結婚じゃなくて、私のことに……)
下に並んだクリスマスツリーがぼやけてくる。
(こんなところで泣いたらダメ……)
奥歯を食いしばって、涙を堪えた。
まばたきを我慢して、目に張った涙が渇いてホッとした、その時。
千紗子はいきなり後ろから腕を掴まれ、勢いよく引っ張られた。
「千紗っ!」
強制的に後ろを振り向かされたと同時に名を呼ばれる。
嫌というほど耳に馴染んだその声は、さっきまで考えていたその人、裕也だった。
ハッと息を飲んだ。けれど吐き出すことが出来ない。
大きく目を見開き、口を半開きにしたまま、千紗子は全身を強く強張らせた。
「千紗、いままでどうしてたんだっ、携帯も通じないし」
「けい、たい……」
鞄に入れっぱなしの携帯電話は、無意識だが一度も見ていない。千紗子の深層心理が裕也との接触を拒んだからだろう。
「千紗っ」
声を荒げる裕也と青ざめた千紗子は、周囲からの注目を浴び始めていた。
スーツ姿の裕也は、胸から『入店証』のネームタグを下げている。
(そう言えば、このモールの中に裕也の営業先のお店が入っていたんだ………)
飲料メーカーの販売営業をしている裕也は、取扱い店舗に商品の案内など営業で行くことがあると聞いていた。
けれど、よりにもよってこんな所でかち合うとは思ってもみなかったのだ。
(きちんと裕也と話をしなきや……)
青ざめながらも、このままではいけないと千紗子は思った。
三年も付き合って、仮にも結婚の約束までした相手なのだ。
きちんと話をしないまま、避け続けることなど出来ない、と千紗子は腹をくくる。
「裕也、ここだと目立ってしまうから、」
「ゆうべはどこにいたんだっ!」
大きな声に千紗子の体がビクリと跳ねた。
怒鳴られるような喧嘩などこれまでしたことがなかったのに、初めて聞く裕也の怒鳴り声に千紗子は萎縮してしまう。
「あの男の所なのかっ!?それとも、別の、」
千紗子の二の腕を、裕也が両手で掴む。
力一杯掴んでいるのか、千紗子の腕に指が食い込んで痛いけれど、それ以上に千紗子は目の前の男が怖かった。
カタカタと手が小刻みに震えて、血の気が引いて行く。
お店の中で他の客に遠巻きに見られている視線など、もう気にする余裕もない。
両目に涙が盛り上がって、こぼれ落ちる直前。
千紗子と裕也の間に、大きな背が立ちはだかった。
アンダーウェアを扱うショップで何点かの下着を手早く買った後、その隣にあったショップでカーデガンやカットソーも数枚買った。組み合わせたら少ない枚数でも数日間何とか着まわせるだろう。
千紗子が腕時計を見ると、まだ約束の時間まで十五分ほど残っていた。
早めにコーヒーショップに行って何か飲みながらのんびりと待っていようかと思ったけれど、この近くに書店が入っているのを思い出した千紗子は、そこに寄ってから待ち合わせの場所に向かうことにした。
図書館で働く千紗子は書店も好きだ。そもそも『読み物』という類のものが好きなのだ。
書店に並ぶ新しい本や話題の書籍は、『図書館に置きたいな』と思うし、積んである本を紹介したポップを見るのも参考になる。
もちろん読んでみたいと思える本を見付けるとついつい買ってしまうことも多々ある。
今の千紗子は気持ちが塞いでいるから長い小説を読む気力は湧いてこないが、本に囲まれてそれを眺めるだけでも気晴らしになるかと思って、書店に向かった。
書店に入ると、雑誌のコーナーが目に付いた。
(クリスマス特集……)
地元エリアのクリスマスイベントやイルミネーション、おすすめのレストランを特集したカップル向けの雑誌が並んでいる。
(もうあと二十日くらいでクリスマスだものね…そう言えば、今年は裕也からクリスマスの予定なんて聞かれて無かったわ……)
プロポーズされて初めてのクリスマスなのに、自分たちはそんな話しすらしていなかったのだと今更気付く。
(お互いの実家への挨拶に行くのも、具体的に何も話してなかったし………)
プロポーズを受けてすぐの頃、実家への挨拶は年末年始の頃にしようか、という話が出ていた。
けれど、そのあとお互い忙しくなって休みもほとんど合わなかったので、具体的に話が進まなかったのだ。
(でも本当はそうじゃなかったのかも…、私が「いつにする?」って聞いてみた時に「今は忙しいから」ってはぐらかされてばかりだったわね………)
忙しくて帰りの遅い裕也を煩わせたくなかった千紗子は、『それなら仕方ない。もう少し後になってからでいいか』とあまり口に出さないようになったのだった。
(今思えば、裕也は結婚に前向きじゃなくなってたのかも。いいえ…結婚じゃなくて、私のことに……)
下に並んだクリスマスツリーがぼやけてくる。
(こんなところで泣いたらダメ……)
奥歯を食いしばって、涙を堪えた。
まばたきを我慢して、目に張った涙が渇いてホッとした、その時。
千紗子はいきなり後ろから腕を掴まれ、勢いよく引っ張られた。
「千紗っ!」
強制的に後ろを振り向かされたと同時に名を呼ばれる。
嫌というほど耳に馴染んだその声は、さっきまで考えていたその人、裕也だった。
ハッと息を飲んだ。けれど吐き出すことが出来ない。
大きく目を見開き、口を半開きにしたまま、千紗子は全身を強く強張らせた。
「千紗、いままでどうしてたんだっ、携帯も通じないし」
「けい、たい……」
鞄に入れっぱなしの携帯電話は、無意識だが一度も見ていない。千紗子の深層心理が裕也との接触を拒んだからだろう。
「千紗っ」
声を荒げる裕也と青ざめた千紗子は、周囲からの注目を浴び始めていた。
スーツ姿の裕也は、胸から『入店証』のネームタグを下げている。
(そう言えば、このモールの中に裕也の営業先のお店が入っていたんだ………)
飲料メーカーの販売営業をしている裕也は、取扱い店舗に商品の案内など営業で行くことがあると聞いていた。
けれど、よりにもよってこんな所でかち合うとは思ってもみなかったのだ。
(きちんと裕也と話をしなきや……)
青ざめながらも、このままではいけないと千紗子は思った。
三年も付き合って、仮にも結婚の約束までした相手なのだ。
きちんと話をしないまま、避け続けることなど出来ない、と千紗子は腹をくくる。
「裕也、ここだと目立ってしまうから、」
「ゆうべはどこにいたんだっ!」
大きな声に千紗子の体がビクリと跳ねた。
怒鳴られるような喧嘩などこれまでしたことがなかったのに、初めて聞く裕也の怒鳴り声に千紗子は萎縮してしまう。
「あの男の所なのかっ!?それとも、別の、」
千紗子の二の腕を、裕也が両手で掴む。
力一杯掴んでいるのか、千紗子の腕に指が食い込んで痛いけれど、それ以上に千紗子は目の前の男が怖かった。
カタカタと手が小刻みに震えて、血の気が引いて行く。
お店の中で他の客に遠巻きに見られている視線など、もう気にする余裕もない。
両目に涙が盛り上がって、こぼれ落ちる直前。
千紗子と裕也の間に、大きな背が立ちはだかった。
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