Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

汐埼ゆたか

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3・裏切りと告白

バスルームで悲鳴

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 雨宮が出ていった後、千紗子はしばらく座ったままぼんやりとしていた。
 けれど彼が言ったことを思い出して、シャワーを浴びる為に着ているトレーナーを脱ぐ。
 何気なく鏡に映った自分の姿を目にした瞬間、

 「きゃあっ!!」

 口から悲鳴が飛び出た。
 鏡に映っている自分の体中に、赤い斑点のようなものが無数に散らばっていた。

 「どうした、千紗子!」

 パウダールームの扉がいきなり空いて、雨宮が飛び込んできた。

 「きゃあ~~っ!」

 今度は違う叫びが口から飛び出る。
 いきなり入って来た雨宮から素肌を隠すように、置いてあったバスタオルを掴んでその場にしゃがみ込んだ。
 
 「何かあったのか?千紗子」

 千紗子の目の前にしゃがみ込んで目線を合わせた雨宮に、余計に恥ずかしくなった千紗子の顔が、みるみる赤くなっていく。

 その反応に、雨宮は眉を少し上げて瞳を丸くした。
 そっと千紗子の頭に手を置くと、その小さな肩がピクリと跳ねる。
 千紗子の頭の上に手を置いたまま、彼はフッと息を吐くように笑った。

 「具合が悪くなったのか?」

 千紗子は小さく頭を左右に振る。

 「本当か?ふらついたりしてないのか?」

 そう尋ねる声が本当に優しげで、千紗子は伏せていた目をそっと持ち上げる。すると心配そうに覗き込む瞳とぶつかった。
 自分のことを見つめている瞳は真っ直ぐで、眼鏡の上の眉はやや下がり気味になっている。
 
 (心配してくれてるんだ………)

 心の底から自分のことを案じていてくれているのだと気付いて、千紗子は小さく頭を縦に動かした。
 その様子を見た雨宮は、ホッと息をついてから「良かった」と微笑んだ。
 
 千紗子の瞳が、その微笑みにくぎ付けになる。
 まるで花がほころんだようなその笑顔は、これまで見たことがないくらいに艶やかで。
 まるで『愛しいもの』を見つめているかのよう。

 千紗子の胸にさざ波が立つ。

 けれど、その感情の起伏の理由を、今の千紗子には感知することは出来ない。今の彼女の心の中を占めるのは、悲しみと絶望、そして今この状態による羞恥だけだ。

 雨宮の顔を見つめたまま固まってしまっている千紗子の頬に、そっと大きな手が差し入れられた。

 「顔色が良くない。このままだと体が冷えてしまうから早く風呂に入っておいで」

 触れられている頬がじんわりと温かくて、千紗子は自分の体が冷えていることに気付く。

 「それともやっぱり一緒に入ろうか」

 当たり前のことのように、真顔でそう言われて、千紗子の顔にみるみる朱が差し始める。

 (そういえば、私ほぼ裸!!)

 今更ながらそんな事実を思い出して、焦ってバスタオルをもぞもぞと広げようとしていると、クスリと笑いを漏らした雨宮の次の言葉に、千紗子は体中から火が出る思いを味わった。

 「千紗子の体ならゆうべ隅々まで見たから、今更隠さなくても大丈夫だ」

 (きゃ~~~~っ!)と開けた口からは叫びすら音にならず、脱兎のように浴室に飛び込んで、彼の真顔から逃げ出した。

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