4 / 92
2・彼氏と上司
痛恨の忘れ物
しおりを挟む「木ノ下。ちょっといいか?」
ミーティングが終わってメンバーが各々の担当箇所に別れた後、雨宮に声を掛けられた。
「はい、なんでしょう。」
「今度のイベントの件なんだが、」
今月下旬に図書館の大会議室を使って、地元絵本作家のトークイベントが行われることになっていて、そのチームのリーダーを雨宮が務め、千紗子も担当メンバーに選ばれていた。
「当日、来場者に配布する栞なのだが、デザインの出来上がりを確認したいから見せてもらえるか?」
「はい」
トークイベントの時の来場者に、記念としてその絵本作家の絵本の絵を使った栞を配ることになっている。
チーム全員で作成に当たることになっているけれど、千紗子はそのデザインの原案の担当を任されていた。
まだ司書としては出来ることの少ない千紗子にとって、小さな仕事でも、自分に任されたことが純粋に嬉しかった。
せっかく任されたからには納得のいくものを作りたくて、昨日は勤務後に自宅に持ち帰って、そのデザインの仕上げに遅くまで没頭していた。
自宅のパソコンから保存したUSBを出そうと、カバンの中に手を入れた。
「え、……あれ?」
「どうした?」
雨宮が千紗子の鞄へと視線を移す。
鞄の中に手を入れてゴソゴソと漁るけれど、千紗子の目当てのものは見付からない。
「す、すみません」
千紗子は慌てて雨宮に謝った。
「自宅にUSBを忘れてきてしまって……申し訳ありません」
頭を深く下げて上司に自分のミスを報告する。
「いや、俺も前もって言っておかなかったからな。明後日にはチーム皆で制作作業に入ることになっているから、今日中にデザイン案を確認をしておこうと思ったのだけど……」
明日は木曜日―図書館は休館日だ。
明後日から作業を開始することはチーム内での共通予定なので、その前に、と千紗子は原案作りに頑張ったのだ。
もちろん事前に上司のチェックが入ることも分かり切ったことだった。
(それなのに、肝心なUSBを家に忘れてくるなんて!!)
痛恨のミスに背筋が寒くなる。自分が情けなくなって、申し訳なくて頭が上げられない。
「大丈夫」
柔らかい声と同時に、ふわり、と温かいものが頭を撫でた。
それが雨宮の手だと認識するのに、一瞬時間がかかった。
「え?」
びっくりして顔を上げると同時に、その手は離れ、彼は何事もなかったかのように、真面目な顔で仕事の話をする。
「あまり深刻なミスでもないから、そんなに青くならなくていい。君が作業していた途中までは確認しているし、アットホーム感のある手作り栞だから、奇抜なものじゃなければ大丈夫だ。ただ、何事も事前確認は怠らないようにしたいから、今日確認しておきたかっただけで、明後日の朝一で見せてもらえれば間に合うと思う」
そう言って優しくフォローしてもらえたが、千紗子はいま一つ納得出来ないでいた。
雨宮は、上司としてはとても優しい。もちろん厳しくすべきところは厳しくする人だが、ちょっとしたミスなどを必要以上に責めたりせずに、どうしたらミスがなくなるかを丁寧に指導してくれる。とても真面目で信頼のおける上司だ。
そんな雨宮に指導を受けているのに、こんな初歩的なミスをする自分が情けなかった。
「本当に申し訳ありません。金曜日の朝一には必ずお見せ出来るようにします」
「よろしく頼んだよ」
切れ長の目を少し細めるように微笑んで、彼は千紗子の前から立ち去った。
0
お気に入りに追加
186
あなたにおすすめの小説
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
冷徹上司の、甘い秘密。
青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。
「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」
「別に誰も気にしませんよ?」
「いや俺が気にする」
ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。
※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。
同級生がCEO―クールな彼は夢見るように愛に溺れたい(らしい)【番外編も完結】
光月海愛(こうつきみあ)
恋愛
「二度となつみ以外の女を抱けないと思ったら虚しくて」
なつみは、二年前婚約破棄してから派遣社員として働く三十歳。
女として自信を失ったまま、新しい派遣先の職場見学に。
そこで同じ中学だった神城と再会。
CEOである神城は、地味な自分とは正反対。秀才&冷淡な印象であまり昔から話をしたこともなかった。
それなのに、就くはずだった事務ではなく、神城の秘書に抜擢されてしまう。
✜✜目標ポイントに達成しましたら、ショートストーリーを追加致します。ぜひお気に入り登録&しおりをお願いします✜✜
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
二人の甘い夜は終わらない
藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい*
年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる