【完結】kiss and cry

汐埼ゆたか

文字の大きさ
上 下
66 / 76
kiss and cry ***

kiss and cry (2)

しおりを挟む
「あきとさんのばかぁ…っ! あたしのこと好きって言ったくせに……静さんとこ行かんどってよぉっ……あたし不安でっ……あきとさんの気持ち、信じられないきれん自分もかんくてっ……」

固く握り締めていた手で目の前の体をぽかっと叩くと、それが引き金になったように喉の奥から言葉が飛び出た。

彼の胸を叩く度、頬を滑り落ちていく熱いしずく。
晶人さんは「うん」「行かないよ」「ごめんな」と相槌をくれながら背中を撫でてくれて。
甘やかすような声と仕草に涙が勢いを増して、顔も思考もぐちゃぐちゃになった。

「あきとさんのばかっ、腹黒っ、へたれっ……あきとさんなんてあきとさんなんて、だいっ……ぅんっ」

突然、何の前振りもなく口を塞がれた。

押し入ってきた熱い舌に、歯列も口蓋も喉の奥まで余すところなくかき回される。
いつの間にか移動していた彼の手が、腰と頭の後ろをしっかり抑えているせいで、身じろぎすらできない。まるで喰らい尽くそうとしているみたい。

飲み下したくてもそのひますらなくて溜まった唾液が、口の端からこぼれ落ちる。

息苦しくなって目の前の体を思い切り叩くと、やっとのことで口が自由になった。荒い息をつきながら、涙目でじろりと睨む。

「言い、たいことぉっ……全部、言っていいって言ったぁ!」

最後まで言わせてもらえなかったことを抗議して、「あきとさんのうそつきっ」と睨みながらさっきより力を込めて彼の胸をぽかぽかと叩くと。

「悪い。でも……どんな文句を言ってくれてもいい……ただ、『大嫌い』だけはやめてくれ……次は立ち直れそうにない」
「……っ」

な、なんねそれ…!?

しょんぼりと下がった耳。
飼い主に叱られたわんこみたいな仕草に胸が高鳴った。

こんひと、分かってやっとるんかいな!?

どこまであたしのことを堕とせば気が済むんだろう。
好きで好きでたまらなくて、愛しさが胸からあふれ出しそうになっているのに、なぜか無性に腹立たしくなる。

「もうもうっ! あきとさんのばかっ、腹黒ヘタレっ、にぶちんのあんぽんたん・・・・・・~っ! ばってん、全部全部ちかっぱ好いとぉと~っ!」

顔を上げたまま「うわ~ん」と思い切り泣きじゃくった。まるで子ども。
みっともなくて呆れられてしまったらどうしようと、頭の片隅でもう一人のあたしが言うのに、決壊したものはなかなか元には戻らない。

彼は次々とこぼれ出る涙を吸い取りながら顔中にキスの雨を降らせると、最後にもう一度あたしの唇を塞いだ。

ぬるりと生温かい感触が上下唇を割るのは、唇が重なると同時。
口腔への侵入者は、一直線にあたしの舌を捕まえた。

押しつけるように擦り合わせながら、大きく円を描くように絡め取る。
まるで捕食されているかのような動きなのに、ついさっきのものとは全然違う。隅々まで丁寧に、甘やかすようにゆっくりと。それでいて情熱的に深く探っていく。

さっきの何倍も愛欲を感じる官能的なキスは、すでに灯っている情欲に薪をべた。
積極的に舌を絡ませると、それに応えるように彼の舌も蠢く。

逃げては追い、追っては逃げ。お互いの舌が混ざり合った唾液をかき混ぜ、淫猥な水音を鳴らして。
重ね擦り合わせた唇が熟れたように熱く腫れぼったくなって。それでも「もっともっと」と貪欲に追いかけた。

息継ぎすら惜しむような熱く激しいキスに溺れて、全身がどろどろと溶けていく。
足元がふわふわと心許こころもとなくなり、ヒールがグラリと傾いた時。

おもむろに下から抱え上げられた。

彼はあたしを抱えたままキスを続け、そのまま部屋の奥へと足を進めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

誘惑の延長線上、君を囲う。

桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には "恋"も"愛"も存在しない。 高校の同級生が上司となって 私の前に現れただけの話。 .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ Иatural+ 企画開発部部長 日下部 郁弥(30) × 転職したてのエリアマネージャー 佐藤 琴葉(30) .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ 偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の 貴方を見つけて… 高校時代の面影がない私は… 弱っていそうな貴方を誘惑した。 : : ♡o。+..:* : 「本当は大好きだった……」 ───そんな気持ちを隠したままに 欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。 【誘惑の延長線上、君を囲う。】

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

処理中です...