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残業事変***
残業事変***(6)
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それからはもう、彼のすることに抗うことなど考えもしなかった。ただ彼にしがみついて、与えられる快感に流されていくだけ。
それでも、いくらあたしだって、ここがどこかを完全に忘れたわけじゃない。
でもそれがかえって興奮を煽ることになったのかも。いつ誰が来るのか分からないというスリリングさに、いつもより何倍も敏感になった。
それは彼も同じなのか、あたしが喘ぎ声を我慢しようとするのを邪魔するみたいに、敢えて弱いところばかりを責めてきて。あたしは自分の口を手の甲で塞いで、なんとか必死に声を押さえていた。
「すごいな、どんどん溢れてくる……」
あたしの中に指を埋めたまま彼がそうこぼす。
たくし上げられたスカートの裾。お尻の下までずり下げたられたストッキング。辛うじて脱がされていない下着がどれくらい冷たいかなんて、怖くて考えたくない。
それなのに彼はあたしにその事実を突きつけるかのように、音を立てるように二本の指をバラバラに動かした。
「やぁっ、」
「ヤじゃないだろ?なんて言うんだ?」
「あ、やんっ、そこダっ…メぇっ……」
今にも達しそうなほど感じているのに、彼はその度に敢えてポイントをずらしたり指の動きをゆるめたりするから、行き場を失った躰が疼いてたまらない。
「んっ……もぉ……あきと…さぁん……」
「ん?なに、希々花」
あたしの言いたいことなんて分かってるくせに、と思うのに、しっとりと甘やかな声色で名前を呼ばれただけで、あたしはまた震えるほど感じてしまった。
「まったく、きゅうきゅうに締めつけて……これがそんなに気持ちイイのか?」
何も考えられなくて、ただ頭をこくこくと振る。
「ほら、ちゃんと言わないと。どうして欲しいんだ、希々花」
「…ほ…しぃ…の……」
「ん?」
本当は聞こているクセに、聞こえないフリをする。彼はやっぱり意地悪だ。
あたしばっかり、彼の手のひらで転がされているなんて――。
そんなのあまりにも悔しすぎる。
あたしは硬く閉じていた目をこじ開けた。
重たい両腕を彼の首に回して顔を近付け、ギリギリ焦点が合うくらいの至近距離で、あたしは彼の瞳を捕え口を開いた。
躰だけでなく、長い間心にくすぶっている想いを言葉に乗せて――。
「あきとさんが、ほしい」
あたしがそう口にした瞬間、ハッと息を呑んだ彼が動きを止めた。
両目を見開いたまま微動だにしない。
「あきとさん……?」
うかがうように呼びかけると、まるで金縛りが解けたかのように、彼は勢いよく顔を逸らした。
そして喉仏が上下するのが見えたかと思うと、彼は突然私の中から指を引き抜いたのだ。
「んゃあっ、」
突然のことに、口から短い嬌声が飛び出した。
取り上げられたものを探すみたいに、躰の奥がきゅうっと強く締まる。
「なん…で……」
言われた通りにしたのに……何が悪かったの…?
あたし、なんかダメなことでもしたんやろうか……。
躰の芯に籠ったままの熱が、まるで出口を求めるみたいに目頭へ集まってくる。だけどあたしはそのままじっと彼を見続けた。
「――悪かったな」
「え、」
聞き間違いかと思って彼の顔をまじまじと見つめる。するとその視線から逃げるように顔を逸らした彼が口を開いた。
「帰るところを引き留めてしまって」
「あき、」
「森」
「っ、」
息をのんだ。
さっきまでとは明らかにちがう声色。ちがう呼び方。
固まっているあたしをデスクの上から引き起こすと、彼は“上司”らしい口調で言った。
「俺は頼まれた仕事を片付けないといけないが、おまえはもう帰りなさい。――もう遅いから気を付けて帰れよ」
唖然としているあたしに彼はそう言うと、くるりと背を向けた。そしてこちらを振り返ることなく言った。
「あんまり無理をすると、いつかのアイツみたいに倒れるぞ」
その言葉を最後にあっという間に事務所から出て行ってしまった。
またもや一人きりになった事務所。
デスクの上にぽつんと座るあたしは、乱れた制服を握りしめたまま呆然と呟いた。
「な……………………なんねそれ」
それでも、いくらあたしだって、ここがどこかを完全に忘れたわけじゃない。
でもそれがかえって興奮を煽ることになったのかも。いつ誰が来るのか分からないというスリリングさに、いつもより何倍も敏感になった。
それは彼も同じなのか、あたしが喘ぎ声を我慢しようとするのを邪魔するみたいに、敢えて弱いところばかりを責めてきて。あたしは自分の口を手の甲で塞いで、なんとか必死に声を押さえていた。
「すごいな、どんどん溢れてくる……」
あたしの中に指を埋めたまま彼がそうこぼす。
たくし上げられたスカートの裾。お尻の下までずり下げたられたストッキング。辛うじて脱がされていない下着がどれくらい冷たいかなんて、怖くて考えたくない。
それなのに彼はあたしにその事実を突きつけるかのように、音を立てるように二本の指をバラバラに動かした。
「やぁっ、」
「ヤじゃないだろ?なんて言うんだ?」
「あ、やんっ、そこダっ…メぇっ……」
今にも達しそうなほど感じているのに、彼はその度に敢えてポイントをずらしたり指の動きをゆるめたりするから、行き場を失った躰が疼いてたまらない。
「んっ……もぉ……あきと…さぁん……」
「ん?なに、希々花」
あたしの言いたいことなんて分かってるくせに、と思うのに、しっとりと甘やかな声色で名前を呼ばれただけで、あたしはまた震えるほど感じてしまった。
「まったく、きゅうきゅうに締めつけて……これがそんなに気持ちイイのか?」
何も考えられなくて、ただ頭をこくこくと振る。
「ほら、ちゃんと言わないと。どうして欲しいんだ、希々花」
「…ほ…しぃ…の……」
「ん?」
本当は聞こているクセに、聞こえないフリをする。彼はやっぱり意地悪だ。
あたしばっかり、彼の手のひらで転がされているなんて――。
そんなのあまりにも悔しすぎる。
あたしは硬く閉じていた目をこじ開けた。
重たい両腕を彼の首に回して顔を近付け、ギリギリ焦点が合うくらいの至近距離で、あたしは彼の瞳を捕え口を開いた。
躰だけでなく、長い間心にくすぶっている想いを言葉に乗せて――。
「あきとさんが、ほしい」
あたしがそう口にした瞬間、ハッと息を呑んだ彼が動きを止めた。
両目を見開いたまま微動だにしない。
「あきとさん……?」
うかがうように呼びかけると、まるで金縛りが解けたかのように、彼は勢いよく顔を逸らした。
そして喉仏が上下するのが見えたかと思うと、彼は突然私の中から指を引き抜いたのだ。
「んゃあっ、」
突然のことに、口から短い嬌声が飛び出した。
取り上げられたものを探すみたいに、躰の奥がきゅうっと強く締まる。
「なん…で……」
言われた通りにしたのに……何が悪かったの…?
あたし、なんかダメなことでもしたんやろうか……。
躰の芯に籠ったままの熱が、まるで出口を求めるみたいに目頭へ集まってくる。だけどあたしはそのままじっと彼を見続けた。
「――悪かったな」
「え、」
聞き間違いかと思って彼の顔をまじまじと見つめる。するとその視線から逃げるように顔を逸らした彼が口を開いた。
「帰るところを引き留めてしまって」
「あき、」
「森」
「っ、」
息をのんだ。
さっきまでとは明らかにちがう声色。ちがう呼び方。
固まっているあたしをデスクの上から引き起こすと、彼は“上司”らしい口調で言った。
「俺は頼まれた仕事を片付けないといけないが、おまえはもう帰りなさい。――もう遅いから気を付けて帰れよ」
唖然としているあたしに彼はそう言うと、くるりと背を向けた。そしてこちらを振り返ることなく言った。
「あんまり無理をすると、いつかのアイツみたいに倒れるぞ」
その言葉を最後にあっという間に事務所から出て行ってしまった。
またもや一人きりになった事務所。
デスクの上にぽつんと座るあたしは、乱れた制服を握りしめたまま呆然と呟いた。
「な……………………なんねそれ」
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