23 / 76
こんな夜は***
こんな夜は***(4)
しおりを挟むベッドが軋む音。
激しい息遣いと喘ぐ声。
素肌同士がぶつかる音。
そこに絶えず混じる、泡立ってかき混ぜられる粘液の音。
快楽に溺れるあたしには、すべての音がひどく遠くから聞こえているような感覚だった。
それなのに、頭の中ではさっき彼が口にした『代役』という言葉だけは鮮明に頭の中に響いていて。
『あなたを誰かの代わりにしたことなんてない』
そう言いたいのに口から出るのは言葉にならない淫らな音ばかり。
もうここ半年ほど、あたしには彼が思うような“本命”はいないし、彼をその代わりにしたことなんてない。
むしろ、あたしはずっと彼の代わりになれる誰かを探していた。
報われることない“二番手以下の恋”なんてやめて、もっとあたしのことを“一番”に想ってくれる相手と巡り合えたら―――。
そんな一縷の望みをかけて合コンやデートに行くのに、いつも結果は惨敗。虚しく終わってしまうのだ。
もしかしたら、彼もそんな気持ちで静さんのことを見ていたのかな。
自分に気持ちを向けて欲しいと願いながら、もしかしたらもっと好きになれる相手が別にいるかもしれない。そんな人が現れるのを心のどこかで期待して―――。
なんて腹黒ヘタレなあたしたち…!
相手が彼女だったら、彼はきっと宝物みたいに大事に優しく抱くのだろうな。
彼女を追い詰めたくないからと、何年も想いを告げずに見守ってきたくらいなのだ。
壊したくないから、言えなかった。
壊せないくらい、大事だった。
静さんにとっても彼が大事な人なのは間違いない。以前、耳にした彼女の言葉はそれを裏付けていた。
『ありがとう、晶人さん。晶人さんがいてくれなかったら、今のわたしはいないと思う』
(なぁんね……相思相愛っちゃんね……)
あたしはそれを聞いた時、そう思ったのだ。
だって、そう言った時の静さんは、いつもの『部下』の顔じゃなかった。その証拠に、彼女は普段は『課長』呼びする彼のことを『晶人さん』と呼んでいたから。
あたしなんて、一度だって彼の名前を呼んだことがないのに。
プライベートで逢瀬を重ねながら、あたしはまだ一度も彼の名前を呼んだことがない。
セフレ風情に名前を呼ばせるような男ではないと分かっていたから。
超えてはいけない一線を越えて、彼にあっさりと切り捨てられることが怖かったのだ。
「ぁんっ、あぁ……っ、」
両ひじと両ひざをベッドについて腰を突き出した状態で、後ろから激しく突かれる。
ささやかな膨らみの捏ねるように揉みしだかれ、先端の赤い実を指で摘まれながら同時に奥を突かれると、自分でも分かるほど中がきゅっと締まった。
それは相手にも伝わったようで、彼は無言のまま執拗にそれをくり返す。
「あんっ、あきっ…さ、っま……っ、」
『晶人さん、待って』
思わずそう口走った途端、彼の動きがピタリと止んだ。
「あ……」
あたしは自分の失態を悟った。
慌てて「ちがっ、今のは別に」と何とか誤魔化そうとしたけれど、それを遮るように彼が言った。
「おまえもか」
そうひと言、唸るように言った彼。何のことだかさっぱり分からないあたしが、思わず後ろを振り返ろうとした時、
「おまえもやっぱりあの人が好きだったのか」
――え。
「それはさぞかし残念なことだな―――静と彼が上手くいって」
「っ、」
やっと分かった。彼が言った『あの人』が誰なのか。
そう言えば静さんはその人のことを『アキ』と呼んでいたっけ。
あたし口にした名前を彼が勘違いしていることに気が付いて、訂正しなければと思った矢先。
「それでヤケ酒と代替えセックスかっ」
「ちがっ、んあぁっ……」
いきなり激しく突かれたせいで、あたしの「ちがう」という言葉は嬌声に変わる。
「本来なら踏み台も身代わりも絶対お断りだが、他でもないおまえのためだ。今夜だけ付き合ってやる」
徐々に動きを速めていく彼は、あたしの耳介(耳殻)にくっつけるように唇を寄せると。
「ほら、好きに呼んだらいい。それとも先に呼んでやろうか――希々花」
「んぁっ」
吐息を吹き込むように囁かれた名前に、全身に甘い痺れが駆け巡った。
彼の声は爽やかな彼の見た目を裏切らない低すぎない声。だけど王子よりは明らかに男っぽい。
どう考えたって、間違えようはないけれど――。
「くっ……なんだ、ものすごい締まったな。――ここがいい?希々花」
敢えて労わるような優しい声色で訊ねられ、あたしの躰は否応なしに反応してしまう。
聞こえてくるのは甘く優しい響きばかりなのに、彼の動きはそれとは真逆。苛立ちをぶつけるように激しく腰を打ちつけてくる。
あたしが名前を呼びたいのも呼ばれたいのも、当麻の御曹司なんかじゃない。
あなたから初めて名前を呼んでもらえたことが嬉しくてたまらないのに。
なのに、それを他の男への気持ちだと誤解されるなんて――。
何もかもがせつなくて悲しくてたまらない。
それなのにあたしの躰は感情なんてまるで無視して、与えられる刺激に高まっていく。
奥歯を喰いしばってそれに抗ってみたけれど、勢いをゆるめることなく後ろから責め続けた彼に、最奥を抉られるように突かれた瞬間、目の前に火花が散ったみたいに快感が爆ぜた。
0
お気に入りに追加
104
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる