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こんな夜は***
こんな夜は(2)
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シャワーを浴びるどころか靴を脱ぐのもままならないうちに始まったそれは、まだベッドにも辿り着いていないというのに、すでに全身がじっとりと汗ばむほどで。二月末の深夜。一日中あるじ不在だった部屋は暖房なんてつけられているはずもなく、芯から冷え切っているというのに。
玄関で散々啼かされたあたしは、シャワーを浴びると言い張る余裕なんてあっという間に吹き飛んだ。
立ったまま正面から躰の芯を貫かれ、そのまま激しく揺さぶられ。
アルコールで滲んだ思考は与えられる快感で更に鈍り、ドア一枚隔てたそこがマンションの共用通路だということすら意識から外れる。
彼は勢いをゆるめることなく、最後まであたしを激しく揺さぶり続けた。
彼があたしの中で薄い膜越しに熱を放ったあと、あたしもぐったりとして荒い息をつきながら彼の腕に体を預けていた。
すると突然の浮遊感。
口から「ぅわっ」と小さな悲鳴が飛び出たあたしを抱えたまま、彼は玄関からすぐのドアを開けた。
その部屋の大半を占めているのはダブルベッド。あたしはそこが彼のベッドルームなのだと初めて知った。
彼の自宅マンションへ来るのは、実はこれが初めて。
一番初めの時こそあたしの部屋だったけれど、それは『なりゆき』だったからにほかならず。
次からは“セフレ”らしく(かどうかは、あたしが思っているだけだけど)、いつもの“報告会”はホテル。
“セフレ”との密会にラブホじゃなくシティホテルを使うあたり、さすが大企業のエリート社員だと感心した。
“協力者”の関係にも慣れてきた頃、あたしは『別にぃ、たまにはあたしんちでもええですよぉ』と提案してみたことがある。
さすがに月に一二回とはいえ、毎回ホテルでは出費がかさむだろうと考えたのだ。
だけど彼は、すぐさまそれを一蹴した。
『おまえの部屋だと色々と問題がある』
あたしはムッとした。
確かにあたしが住んでいるのは安い1Kのアパートで壁も薄いし、ベッドだって普通のシングル。でもそれは社会に出たてのペーペー社員なら当たり前のこと。
腹立ちまぎれに『じゃあ課長のうちにしときましょかぁ?』と返した。
――が。
『それはない』
秒で却下。
なるほどねぇ。セフレに自宅をばらすやなんてぇ、このぉ腹黒男がそんなヘマするわけないやんかなぁ。
そんな男のことを好きなるなんて思いもよらなかったあの頃のあたしは、『この腹黒ヘタレ男め』と心の中で毒づいたのだった。
玄関から伸びる廊下の突き当りは、きっと眺望抜群のLDKなのだろうな。
なんてぼんやりと考えているうちに、あっという間にベッドに降ろされる。半ば放りなげられるように乱雑に扱われたことに文句を言おうとした瞬間、彼が上から圧し掛かってきた。
「ちょっ…、」
第二ラウンドがあることくらい、長い付き合いの中で承知している。だけどせめてコートくらい脱がせてほしい。冬のボーナスで奮発して買った一張羅がしわになったら、どないしてくれますぅ!?
すると彼は何を思ったのか、「シャワーはまだあとだ」とひと言だけ言ったのち、あたしの唇を塞いだ。
キスの相性の良さは相変わらず抜群。
どんな“優良物件”でも敵わなかったそれは、あたしの正常な思考をあっという間にふやかしてしまう。
彼は巧みな舌遣いであたしの咥内を嫌と言うほど犯しながら、あっという間に着ているものをすべてはぎ取った。
じっとりと汗ばんだ肌に、冷え切った寝室の空気が触れる。
ふるりと身震いしたあたしに彼は気付いていないのか。はたまた気付いているけれど気にかけるつもりがないのか。
無言で上着を脱ぎ捨てネクタイをゆるめると、ベッドサイドに置かれたナイトテーブルに手を伸ばし、中から四角い箱を取り出した。
(あ――)
それが何なのか、訊くまでもなく。
そういえば、ついさっき玄関でも彼はちゃんと着けていた。そんなもの、いったいどこから出したのだろうか。
ぼんやりとかすむ頭で疑問に思う。
(スーツの胸ポケにでも常備しとるんやろうか)
腹黒ヘタレのクセにそういうところだけは抜かりないな、と頭の中でディスっているうち、彼はそれを口に咥え片手でピリリと封を破り、慣れた手つきで猛る自身に被せ、両手で掴んだあたしの両膝を大きく割った。
玄関で散々啼かされたあたしは、シャワーを浴びると言い張る余裕なんてあっという間に吹き飛んだ。
立ったまま正面から躰の芯を貫かれ、そのまま激しく揺さぶられ。
アルコールで滲んだ思考は与えられる快感で更に鈍り、ドア一枚隔てたそこがマンションの共用通路だということすら意識から外れる。
彼は勢いをゆるめることなく、最後まであたしを激しく揺さぶり続けた。
彼があたしの中で薄い膜越しに熱を放ったあと、あたしもぐったりとして荒い息をつきながら彼の腕に体を預けていた。
すると突然の浮遊感。
口から「ぅわっ」と小さな悲鳴が飛び出たあたしを抱えたまま、彼は玄関からすぐのドアを開けた。
その部屋の大半を占めているのはダブルベッド。あたしはそこが彼のベッドルームなのだと初めて知った。
彼の自宅マンションへ来るのは、実はこれが初めて。
一番初めの時こそあたしの部屋だったけれど、それは『なりゆき』だったからにほかならず。
次からは“セフレ”らしく(かどうかは、あたしが思っているだけだけど)、いつもの“報告会”はホテル。
“セフレ”との密会にラブホじゃなくシティホテルを使うあたり、さすが大企業のエリート社員だと感心した。
“協力者”の関係にも慣れてきた頃、あたしは『別にぃ、たまにはあたしんちでもええですよぉ』と提案してみたことがある。
さすがに月に一二回とはいえ、毎回ホテルでは出費がかさむだろうと考えたのだ。
だけど彼は、すぐさまそれを一蹴した。
『おまえの部屋だと色々と問題がある』
あたしはムッとした。
確かにあたしが住んでいるのは安い1Kのアパートで壁も薄いし、ベッドだって普通のシングル。でもそれは社会に出たてのペーペー社員なら当たり前のこと。
腹立ちまぎれに『じゃあ課長のうちにしときましょかぁ?』と返した。
――が。
『それはない』
秒で却下。
なるほどねぇ。セフレに自宅をばらすやなんてぇ、このぉ腹黒男がそんなヘマするわけないやんかなぁ。
そんな男のことを好きなるなんて思いもよらなかったあの頃のあたしは、『この腹黒ヘタレ男め』と心の中で毒づいたのだった。
玄関から伸びる廊下の突き当りは、きっと眺望抜群のLDKなのだろうな。
なんてぼんやりと考えているうちに、あっという間にベッドに降ろされる。半ば放りなげられるように乱雑に扱われたことに文句を言おうとした瞬間、彼が上から圧し掛かってきた。
「ちょっ…、」
第二ラウンドがあることくらい、長い付き合いの中で承知している。だけどせめてコートくらい脱がせてほしい。冬のボーナスで奮発して買った一張羅がしわになったら、どないしてくれますぅ!?
すると彼は何を思ったのか、「シャワーはまだあとだ」とひと言だけ言ったのち、あたしの唇を塞いだ。
キスの相性の良さは相変わらず抜群。
どんな“優良物件”でも敵わなかったそれは、あたしの正常な思考をあっという間にふやかしてしまう。
彼は巧みな舌遣いであたしの咥内を嫌と言うほど犯しながら、あっという間に着ているものをすべてはぎ取った。
じっとりと汗ばんだ肌に、冷え切った寝室の空気が触れる。
ふるりと身震いしたあたしに彼は気付いていないのか。はたまた気付いているけれど気にかけるつもりがないのか。
無言で上着を脱ぎ捨てネクタイをゆるめると、ベッドサイドに置かれたナイトテーブルに手を伸ばし、中から四角い箱を取り出した。
(あ――)
それが何なのか、訊くまでもなく。
そういえば、ついさっき玄関でも彼はちゃんと着けていた。そんなもの、いったいどこから出したのだろうか。
ぼんやりとかすむ頭で疑問に思う。
(スーツの胸ポケにでも常備しとるんやろうか)
腹黒ヘタレのクセにそういうところだけは抜かりないな、と頭の中でディスっているうち、彼はそれを口に咥え片手でピリリと封を破り、慣れた手つきで猛る自身に被せ、両手で掴んだあたしの両膝を大きく割った。
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