【完結】kiss and cry

汐埼ゆたか

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森 希々花はいつも二番手***

森 希々花はいつも二番手(2)

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あたしは森希々花(もり ののか)。二十四歳。女子。

身長は平均より少し高めの百六十五センチ。
体重とスリーサイズは秘密。
身に着ける服はフェミニン寄りのガーリーで、メイクはアイメイク重視だ。

男子ウケはもちろん、ふわっとしたファッションはあまり凹凸のない体形をカバーするのに持って来いだからで、アイメイク盛りに関しては、形も悪くないのに大きさがイマイチだから、それをカバーしたいだけ。

髪はミディロング。社会人になる時に背中の真ん中まであった髪を肩甲骨の辺りまで短くして、明るいブラウンベージュから落ち着いたピンクブラウンに変えた。色は大人しめだけど、大人可愛い感じになったと、ひそかに気に入っていて、ここ一年以上はこのヘアスタイルをリピっている。

ご想像の通り、趣味はファッションとメイク。

――というのは表向きで、実はこよなく“乙ゲー”を愛する隠れゲーマー。あ、“乙ゲー”っていうのは、主人公のヒロインが色々なイケメンを攻略していく『乙女ゲーム』ってやつ。
乙ゲーの世界では、あたしはイケメンたちに愛されていつも“一番”になれる。

だけど現実世界リアルのあたしはいつだって“二番手”。
誰かの“一番”になれたことなんて、一度もない。

高二の時に初めて出来たカレシは、バイト先の女の子と二股してた。
何となく薄々気付いていたのだけど、一時の気の迷いくらい許してあげるべきかと思っていた矢先。相手女子(あたしと元カレの一個上だった)が乗り込んできた。

なにが腹立つかって?

あたしのほうが“浮気相手”だったこと。
男にも腹が立つけど、気付かなかったあたし自身に一番腹が立った。

その場で男を一発殴って速攻別れた。

次はよっつ年上の大学生。
友人があたしの傷心を慰めようと開いてくれた合コンで出会った。

『真面目そうだから二股なんてしなさそうだ』と思って付き合ったら、ママが一番の超マザコン野郎だった。
『ママがママが』ってあんまりうるさいから、『ママンとお幸せに』と告げて身を引いてやった。

もちろん連絡先は速攻消去&ブロック。

そのあと付き合ったリーマンも、さらにそのあとのバイト先の店長も。
みんなあたしを“二番手”にしかしてくれなかった。

大学四年の時に付き合った年下男子なんて、まんまとあたしをチェリー卒業の踏み台にして、経験値上げてから本命の女の子のところに戻っていったけ。
まあでも?あれはほら、のん・・やって美味しい思いをさせてもらったわけやからぁ……。

以来、年下は断固ノーセンキュウ!

そう言えば中学生の頃にはもう、意中の男の子に『○○ちゃんって誰か好きなヤツいるの?』って訊かれるようになってたな。『○○』に入るのは、もちろん他の女子のもの。間違ってもあたしのじゃない。
あたしの好きになるヒトは、いつもあたしじゃないコが好きなのだ。

別に略奪しようとか、ヒトのものがよく見えるとか、そんなんじゃ全然ないのに。
気付いたらそうなっているのが、希々花の七不思議。
それが今も尚続いてるんだから、もうこりゃ“前世からの業”だと思うしかなかっちゃ・・・・・ない?

おぉっと、やばぁい。 つい“素”が出てちゃうとこでしたぁ。
脳内でも気をつけとかなぁ、うっかり実家弁が出ちゃったら大変やもんね!

そんなわけで、『希々花の人生なんて、そんなもん』やってこと、昔からちゃぁんと分かっとるんですぅ。
だって、生まれた時から・・・・・・・そうやったんやもん。


あたしには年子の姉がいる。
生まれた時から、両親にとっての一番は姉。
いつだってあたしはお姉ちゃんと比べられてきた。

お姉ちゃんはあたしなんかよりずっと頭が良くて真面目。県内トップクラスの高校に進学して、家から通える国立大学にストレートで合格。
あたしと違って大きな反抗期も無くて、両親からの信頼も厚い。

あたしが彼女を抜かせたものと言えば、身長くらい。

だからって、プラス十センチもなくて良かったのに…!(それなのにバストサイズは負けてるって……泣)

でも、そんなお姉ちゃんが居たからこそ、あたしは関西の女子大に行かせてもらうことが出来たんだ。
期待の薄い”二番手”じゃなかったら、きっと地元から出してもらうなんて不可能だった。
あたしと違って“一番手おねえちゃん”はとっても優秀で、とっても“いい子ちゃん”だから。

九州は福岡――博多にある実家は大正時代から続く料亭を営んでいる。いわゆる『老舗料亭』ってやつ。

その一世紀もの間続く【森乃やもりのや】の五代目に、両親はあたしかお姉ちゃんに婿を取らせて跡を継がせようと目論んでいるらしい。

でも、ほら。あたしは“二番手”だから? 
両親としては優秀な姉に跡を取らせたいに決まってる。だからあたしが家から出ることを渋々ながら許してくれたんだって。自分は“蚊帳の外”なんだ。

――そう思っていた。

すっかり自由の身気分のあたしは、花のキャンパスライフを関西で満喫していた。
だけど、あたしの平穏な日常は、ある日突然終わることになる。

天変地異が訪れたのだ。

お姉ちゃんいちばんて海外逃亡たかとびしやがった…!

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