異世界に来たけど、自分はモブらしいので帰りたいです。

蒼猫

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第四章 異世界に来たけど、自分は反逆します

第百九話

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「封印って何をするの?」

「呪いが外に出てこないように内側に押し付けるんだ」

「そんなこと出来るの?」

「地下を塞いでいるあの石の蓋に浄化の力を残せばいける……と思う」

 聖女たちのいる地下へとクインシーたちを連れて戻ってきた。吹き飛ばされて遠くへ行ってしまった蓋を元の位置に戻してもらい、海はその蓋に両手をついて力を込める。国王を生き返らせた時のように蓋に力を流し込んでいるのだが、中々上手くいかなかった。

 力を流し込むことは、海の生命力が削られることなのだ。成仏した聖女から渡された生命力は国王に半分渡してしまった。そしてもう半分を蓋に注ぎ込んだのだが、まだ足りなさそうだ。それほど聖女たちの呪いが濃いということなのだが。

「これ以上やったら……」

 海は長くは生きられないだろう。封印するためには仕方ないこと。わかってはいるけど、納得はしていないのだ。

「カイ?」

「どうした? 何か問題ごとか?」

 険しい表情で蓋を睨んでいると、左右から声を掛けられた。海の顔を覗き込むようにクインシーとアレクサンダーが傍に寄り添う。

「……足りない……んだ」

「何が?」

「力が……」

「それってカイにしか出来ないこと?」

 蓋の上にある海の手にクインシーの手が重なる。その手を慌てて振り払おうとしたが、もう片方の手の上にアレクサンダーの手が置かれてしまった。

「お前一人でやることじゃないだろう」

「ダメだって! これじゃ二人の寿命が縮むんだ!」

「なんだ。そんなことか! 全然いいよ?」

「良くないだろ!」

「それくらい構わん。カイが一人で先に死ぬくらいならば、俺たちの命を使え」

 離して欲しいと暴れてみたけれど、二人は頑なに海の手を離さない。

「カイ、俺たちは共犯者でしょ? 国王と魔導師を地下に閉じ込めたことで。なら最後まで三人でやり遂げなきゃ。ね?」

「クインシー……」

「俺たちのそばにずっといるのだろう。ならば早死するようなことはするな」

「アレクサンダー……」

 海が少しでも蓋に力を流し込めば二人の生命力が減る。それなのにクインシーとアレクサンダーは優しい笑みで海を見ていた。

「……ばかだなぁ……本当に」

「ガキの頃からバカしかやってないからねぇ。賢い判断とかわかんないし?」

「これしか方法がないというならそうするしかないだろう」

「……本当にいいの?」

 海の問いに二人は答えず、代わりに両手が強く掴まれた。何があっても決して離さないと言うように。

「わかった。ごめん、ありがとう」

 ゆっくりと蓋へ力を流し込む。二人から注がれる生命力はとても温かくて泣きたくなった。



‎⋆ ・‎⋆ ・‎⋆ ・‎⋆



 地下の封印は終わった。これでもう聖女たちは外には出られないだろう。あの場所は彼女たちと、国民の墓にすることにした。城下町を元に戻したらあそこに墓石を建てる予定だ。

「あとは城下町の方か」

「うん。そっちは俺がなんとかしないとね」

「大丈夫?」

「闇を払う分には俺に影響はないよ。ただ……」

 杉崎の方には影響がでるはずだ。城下町にいる国民たちの恨みつらみを一気に引き受け、町に溶け込んでいる聖女たちの呪いも彼女に降りかかる。杉崎が受け止められるかはわからない。もし、受け止めきれずに彼女が死んでしまったとしても……海にはどうしようもないのだ。

「ラザミアに召喚された人間同士仲良く、とはいかないなぁ。薄情だよな」

 城下町の空を見上げながらポツリと呟いて苦笑を浮かべる。召喚されなければ今頃彼女はいつもの様に学校に行っていたかもしれない。海も就活を続けていたかもしれないし、就職していたかもしれないのだ。こんな事に巻き込まれるなんて思ってもいなかった。

 もしあの時、暑いといってビルの陰に入らなかったら。杉崎の悲鳴を空耳だと思い込んであの場から立ち去っていたら。

「また違った運命だったのかな」

 そっと後ろを振り返ると、クインシーとアレクサンダーが心配気な顔で海を見つめていた。

 二人に出会えたのは奇跡だ。本来、交わることのなかった運命が、魔導師たちの力によってねじ曲げられて重なった。天涯孤独だと思っていた海にクインシーとアレクサンダーという存在を与えてくれたのだ。

「……二人のために頑張らないとな」

 ラザミアを救うというよりも、二人が幸せになって欲しいという願いを胸に抱いて海は城下町の空へと手を伸ばす。

「どうか、彼らの元に太陽を」

 明るい陽の光を届けてください。また彼らが心から笑えるように。

 全身が熱くなるのを感じながらひたすら闇に向けて手を伸ばした。少しずつだが空の色が薄くなっていく。真っ黒だった空は灰色になり、そして白へと変わる。海の目に青が映り、やっと闇が晴れたんだと喜んだのも束の間、海の意識はぷつりと切れた。


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