異世界に来たけど、自分はモブらしいので帰りたいです。

蒼猫

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第四章 異世界に来たけど、自分は反逆します

第百六話

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「なんかすっごい悪いことしてる気分だねぇ」

 本部の倉庫から持ち出してきてもらった台車にエヴラールと国王を乗せて地下のある湖の方へと押し歩く。クインシーとアレクサンダーが持ってきた台車は箱型のタイプのものだった。その中にエヴラールと国王を入れ、中身が見えないように布を上から被せた。

 団員たちにはアレクサンダーが上手く誤魔化してくれたらしい。全員、本部から出ないようにと忠告も残して。

「死んでる人間であれば死体遺棄っていう罪になるんだろうけど、まだ二人は生きてるからね」

「"これ"で生きてるっていうんだから人って凄いね」

 エヴラールに関してはもう何も言うまい。手足と舌を無くした状態で生きているのだ。ショック死していてもおかしくない状態なのだが、聖女の力によって腕が引きちぎられる瞬間の痛みを減らされているからエヴラールはまだ生きながらえている。

 国王も刺傷が酷かったが放置している。海が生命力を移したため自己再生力が増して、自力で怪我を治せているのだ。だから海が治す必要は無い。

 彼らはこれから先、簡単には死ねない。ありあまる生命力を強制的に流された二人は地下で聖女たちに弄ばれる。中には城下町に放置されている国民達も入れる予定だ。エヴラールと国王はその中で生き続ける。呪いと共に永遠に。

「なに……これ」

 地下の前に着いたクインシーが、地面に転がっている魔導師を見て絶句。海とアレクサンダーは知っていたからなんとも思わないが、クインシーはあの時、意識が朦朧としていたから知らなかったことだ。

 エヴラールよりも酷い状態の魔導師……ウィルスは海を見つけた途端叫んだ。

「クソ野郎!! お前なんかブッ殺してやる!!」

「うわ、首だけで喋ってる!」

「テメェらもだ! 騎士団なんて必要なかったんだよ! なのにあのオッサンらが作ったせいで!!」

「そのおっさんらはちゃんと報いを受けたから大丈夫だよ」

 海は台車の上にかかっていた布を取り払い、ウィルスの首を持ち上げて中身を見せた。

「カイ、お前がそんなことする必要は無い。この中に放り込んでおけ」

 アレクサンダーに台車の中にウィルスの首を入れておけと言われ、大人しくその言葉に頷いた。台車の中身を見たウィルスは口を開けたまま黙り込み、驚きの表情でエヴラールと国王の姿を見ていた。

「で? こいつらは下に入れちゃえばいいの?」

「そうだね。もうそろそろ彼女たちもつくころだろうし」

 人の歩きよりも遅い速度で聖女たちはこちらへとやってくる。今頃は城を出たところだろうか。それならまだ時間はあるはずだ。

「この人たちは下に。俺は城下町の人たちを乗せてくるよ」

「待て。一人で行くな」

「え……だって、魔導師も国王もここにいるから別に……」

 身の危険を感じる必要は無い。そう思ったのだが、アレクサンダーは首を横に振った。

「お前だけが汚れることは無いだろう」

「それは……」

「そうだよ。元はと言えば俺たちが何もしてあげられなかったのが悪いんだからさ。カイが一人であの人たちを運ばなくてもいいんだよ」

 口ごもる海を置いて、クインシーとアレクサンダーはテキパキと魔導師たちを地下へと運んでいく。台車の中身が空になり、外に放置されていたウィルスの身体も全部地下へ落とした後、海はクインシーに手を引かれて歩き出した。

「ほら、こんなこと早く終わらせちゃおう?」

「あとは俺がやるから! 二人は休んでていいよ!」

「これくらいなんてことは無い。本部の掃除の方が苦労する」

「そうそう! カイも一度やってみるといいよ。あそこ、見た感じは綺麗に見えるけど、細かいところとか凄く汚いから!」

 二人に慰められ、話をすり替えられながら三人一緒に城下町へと下りた。

 恨みを抱えたまま死んでいった国民を一人ずつ台車へと積んでいく。その作業は海だけで行うつもりでいた。
 二人にとっては顔見知りの人達だ。そんな人たちを地下へと閉じ込めて闇ごと封印する。今の城下町の闇は海一人ではどうにも出来ない。

 その為、闇を分散させるしかなかった。

「カイ、大丈夫?」

「大丈夫……」

 台車の中には十人ほど積んだ。といっても、人の形を保っている人は数人だ。あとは腐敗が進んでドロドロになってしまった人の一部ともいえる。

「アレクサンダー、一旦戻ろう」

「あぁ」

「カイ、行くよ?」

 汚れた手を見つめたまま固まっていると、クインシーに声をかけられる。ゆっくりと顔を上げてクインシーを見上げた。

「疲れたね。もう少しだけだから頑張ろう?」

「これが終わったらゆっくり休むといい」

「うん」

「んー、抱きしめてあげたいけど……この手じゃ中々ねぇ」

 クインシーの手もどろりとした何かで汚れている。その手で抱き締められるのはちょっと嫌だ。思わず、アレクサンダーの方へ逃げようとしたが、アレクサンダーも海たちと同様汚れている。というか、アレクサンダーの方が何故か一番汚れているのだが。

「汚したら殴るぞ」

「うわっ、まだ汚してないんだからそんな目で見ないでよ! てか、なんでアレクサンダーそんな汚いわけ!? 手だけじゃなくて服まで汚れてるじゃん!」

「……気にするな」

 汚れについて聞かれたアレクサンダーはふいっと顔を背けて歩き出す。正面からでは気づかなかったが、アレクサンダーの背中は泥だらけになっていた。

 あれは転んだのだろう。
 多分、ここで運んでいる時に足を滑らせたのかもしれない。クインシーと顔を見合わせて笑い、二人で慌ててアレクサンダーを追いかけた。

「アレクサンダー! 台車押すの変わるよ!」

「なんだ、急に」

「アレクサンダー、手繋ぐ?」

「お前ら……」

 アレクサンダーが押していた台車はクインシーが横から奪い取り、空いた手は海が優しく握った。海とクインシーの行動に眉を顰めたが、何も言うことは無かった。



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