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第四章 異世界に来たけど、自分は反逆します
第九十四話 アレクサンダーside
しおりを挟む「絶対に離れないから。だから変なことはしないで欲しい」
「あぁ、約束する。カイがそばに居るなら」
離さないようにカイの身体を強く抱きしめる。
内心では本当にこれで良かったのか、こうでもしないとカイは死を選んでしまうかもしれない。そう何度も自問自答を繰り返していた。
カイのことを考えているように見せて、本当は自分のことしか考えていない。カイが自分の元から去っていくのが耐えられず、アレクサンダーは己を人質にするような言い方を選んだ。もし、カイがアレクサンダーを置いて死んでしまっても、アレクサンダーはこの先誰かと添い遂げるつもりは一切ない。
これが最後の恋愛と言ってしまったら重くなるが、アレクサンダーにとってはそれほどカイの事が離せないし忘れらない存在になっている。カイが死ぬことを選ぶのであれば、自分も共に逝っても構わなかった。息絶えるその瞬間までカイのそばにいられるなら。だが、アレクサンダーには欲が生まれてしまった。国王と魔導師を排除し、聖女の問題も全て片付ければ、この先は誰にも邪魔されることなくカイと一緒にいられる。
ならばカイを生かさなければ。そう思って、アレクサンダーはやりもしない事をベラベラと述べた。少し考えればわかることなのだが、混乱してしまったカイはアレクサンダーの言葉を全て鵜呑みにし、泣きそうな顔で懇願してきた。
死なないで欲しい、これからは幸せに生きて欲しい。
そう願うカイの気持ちをアレクサンダーは利用した。
この先も生きて欲しいのならカイも生きろ。カイが死ぬというのなら、カイを取り戻す為にアレクサンダーは魔力を使う、と。
言った本人が言うのもなんだが、本当に馬鹿な話だと思う。アレクサンダーの魔力なんて微々たるものだ。出来ることとしたら、ネックレスに魔力を注いでカイの居場所を把握することくらい。魔導師のように自由に扱える訳でもないし、次の聖女を召喚することも出来なければ、子供に魔力を受け継がせることも出来ない。そんな弱いものだ。だが、カイを誑かすには十分だった。
「アレク……」
「なんだ?」
消え入りそうな声で呼ばれる。どうしたんだと問い掛けてもカイは何も言わなかった。
「カイ?」
「ごめん」
「謝る必要は無い」
「でも……」
「でももだってもない。もう何も言うな」
カイは分かっているのだろう。自分を生かすためにアレクサンダーがデタラメなことを言っていることに。分かっていてカイは頷いた。
カイだって死にたくはないはずだ。ラザミアに連れてこられ、聖女の事で散々嫌な思いをさせられた挙句の果てが死だなんて受け入れられないはず。過去の聖女たちの怨念によってカイが死ぬことを選ばせられているというのなら……自分がカイをこちら側に引っ張りあげるだけだ。
「カイ、お前はもう誰のものでもない。俺のものだ。勝手に死ぬことも、フラフラどこかへ行くことも許さん」
「うん……」
こうやって言葉の鎖でカイを縛り付けていく。
真綿でゆっくりと首を締めるように、少しずつ少しずつカイの退路を潰して、アレクサンダーだけを選ぶように。
狂っているのはどちらだ──。
呪いに囚われた聖女と、カイを失いたくないが為に嘘をつき騙している自分と。どちらが狂っているというのか。
「アレクサンダー」
「なんだ」
「ごめん、このタイミングで言うのもアレなんだけどさ」
トイレ行きたい。
ぼそっと呟いたカイは頬を赤らめてモジモジと身体を動かす。相当我慢していたのか、膝を擦り合わせて漏らさないようにしていた。
「……早く言え!」
「だってなんか言い出しづらかったんだよ!!」
ここで漏らされては困る。動けなさそうなカイを横抱きにしてアレクサンダーはトイレへと走った。
その頃には聖女と自分は、なんて悩みは頭から吹っ飛んでいた。
トイレで満足気な顔をしているカイの顔を見てムラっとして。
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