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第三章 異世界に来たけど、自分は慈善活動を始めました
第八十四話
しおりを挟む早く閉じ込めろ。急げ。何をモタモタしているんだ。
考えている暇なんてない、今すぐ決行しろ。
その言葉は全て過去の聖女たちの声だ。海の頭の中に直接響いてくるように聞こえる声に、海は頭を両手で抱えて蹲った。
アレクサンダーとクインシーが帰ってから声の勢いは増している。海が国王たちに反逆しようと考えてからずっとだ。彼女たちは国王と魔導師を地下に閉じ込めることを望んでいる。殺すのではなく、あの場所で死ぬまで苦しませるのだ。
聖女たちが閉じ込められていたあそこは呪われている。あの場所に入ったアレクサンダーたちが無事でいるのが不思議なくらいだ。
「もうわかったから……閉じ込めるから! だからもう静かにしてくれ!」
海が閉じ込めることを了承しても彼女たちは永遠と語りかけてくる。まだか、まだかと海を急かしているのだ。聖女たちの積年の恨みが晴らせるチャンスがやってきたのだから、彼女たちが息巻いているのはわかる。
海も聖女たちのためになにか出来ないかと考えていた矢先の事だったから、この機会を逃すわけにはいかないと思っている。
彼女たちとの恨みは必ず晴らす。晴らさなければならないことだ。でも、そう思いながらも未だに海は悩んでいた。復讐するということは、いつか自分に返ってくる。人を呪わば穴二つという言葉があるように、相手の墓穴と自分の墓穴を用意しなくてはならない。相手を殺せば自分も死ぬのだ。
そんなことが出来るだろうか。
「……怖い……俺、まだ……」
死にたくない。そう思うのは当たり前のことだと思う。過去の聖女に比べれば、まだ海は良い方だ。男だからという理由で聖女ではないと決めつけられたおかげで難を逃れた。城よりかはまだ安全な城下町へ逃げることが出来たのだ。聖女たちはそれが出来なかった。城から出ることも、聖女の役目から逃げることも出来ず、彼女たちは最期の時までラザミアに加護をもたらすように命令され続けた。
そんな彼女らと違って海は自由に動ける。聖人としてこの世界に飛ばされてきたのに。もしかしたら海も恨まれているのかもしれない。彼女たちはみな辛い思いを経験しているのに、海は何不自由なく生きているから。
「俺も苦しんで死ねってこと……?」
ポツリと呟くと、今までうるさいほど閉じ込めろと言っていた聖女たちの声がピタリと止んだ。
「そうか……俺だけが無事でいるのはずるいもんな」
妬ましい、恨めしい。そう思われても仕方ないことだ。
「わかったよ。全部終わらせたら……」
俺もそこに行くよ──
全部捨てて地下に潜るのは寂しい。あの暗い場所で一人になるのは嫌だ。なら誰かを連れて行ってしまおうか。
「……アレク、」
彼なら……来て……くれるかな。
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