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第二章 異世界に来たけど、自分は平民になりました
第四十九話
しおりを挟む「じゃあ、これからの事を相談しようか!」
クインシーは無駄に意気揚々と話し始めた。
「カイはこれからどうするの?」
「俺は、ヴィンスの息子さんが残してくれた医学書や薬を活用したい」
「うんうん。良いと思うよ、俺は賛成。ヴィンスは?」
「いいんじゃないか? そのつもりでわしは部屋の鍵を渡したんだ」
クインシーの隣に座っているヴィンスは、お茶を飲みながら頷く。ヴィンスからも賛同されて、海はほっと安心した。
「アレクサンダーは? カイがこれからする事に異議はある?」
「……俺の……俺たちの目の届く範囲でやれ」
「ははーん?? "俺たちの"ねぇ?」
「問題あるか」
問題というか……最初から俺たちの、と言っていればそんな気にすることは無かった。アレクサンダーが"俺の"と言ってしまったため、海は不自然に目を泳がせてしまった。
「まぁ、そこは置いてといて。カイ、アレクサンダーが言った通り、これからなにかする時は俺たちに一言言ってからやるようにしてもらってもいい?」
「え、許可制なの?」
「うん。めんどくさいと思うだろうけどね?」
今までそんなこと言わなかったのに。ジェシカを助ける為にと色々やっていた時だって何も言わなかった。それがなぜ今更。
「絶対に言わないとダメ?」
「ダメ。もし勝手にやったら、ヴィンスからもらった鍵は没収するよ」
「そんな……!」
「約束守れるなら持っていていいよ」
ぐぬぬ、と歯噛みしたあと海は項垂れた。
「それは了承したってことでいいね?」
「……納得はしてないけど」
「カイ、この間倒れたこと覚えてる?」
「覚えてる」
「カイはすぐ無理するでしょ?」
思い返せば、クインシーとアレクサンダーの前で体調が悪くなったのは二回目だ。一回目は……あれはクインシー達の勘違いというかなんというか。恋の病、とでも言えばいいとか。だが、二回目は言い逃れできない。
気絶してしまうほど無理をしていたつもりはなかった。倒れたあとから、無理はしてないと言い張るのもどうかと思った。
「そ、れは」
「そんなに俺たちは頼りない? カイの手伝いをするのに俺たちは邪魔になる?」
「そんなことない! そんなことはないけど……」
「ないけど?」
「一々、あれをやる、これをやるって言ってたら迷惑にならないか?クインシーたちだって自分の仕事があるのに」
これから本格的に海は動こうと思っている。まだ元気になったばかりのジェシカの様子を見つつ、もう一本先の通りに住む人達のことも見に行く。
ジェシカが言うには、その通りにはお爺さんとお婆さんが暮らしているという。ジェシカの知り合いらしく、この間様子を見に行ったら、ジェシカのように寝込んでいたとのこと。毎日、魚を取りに行っていたお爺さんが倒れてしまったため、食事が取れずに困っている。
出来れば見に行って欲しいと頼まれていた。きっとこういう頼み事が増えるに違いない。毎回、クインシーたちに報告するのはいいが、許可をもらってから動くとなると話が違ってくる。
急ぎの場合、二人にすぐ会えなかった時どうすればいいのやら。
「俺らはそんな忙しくないから大丈夫だよ」
「……でも」
「じゃあ……俺たちが忙しそうだなって思ったら、ヴィンスに聞いて」
「ヴィンスに?」
「そう。ちゃんとヴィンスと相談してから決めて。いい?」
「…………わかった」
やはり自分で考えて動くのはダメなのか。
それから、クインシーと話をしたが、クィンシーの考えは変わることは無かった。
⋆ ・⋆ ・⋆ ・⋆
「お前さん、ちょっと無理あったんじゃないか?」
「でも、あれくらい言っとかないと」
カイが奥の部屋に引っ込んだ後、ヴィンスとクインシーとアレクサンダーでコソコソと話していた。
「ありゃ不満気だったぞ?」
「顔見りゃわかるよ。なんでそんな事言うんだって。もう少し強く言ってたら怒ってたかもね」
「仕方ないだろう。サクラギに力を使わせない為にはこうするしかない」
「そんで俺が嫌われ役買ったわけね。はいはい」
誰もクインシーにやれとは言っていない。カイに制限をかける話をするのはクインシーが適任だとは思っていた。アレクサンダーが言っても良かったのだが、カイに"お願い"されてしまったら、許してしまいそうな気がした。
「(惚れた弱みか。気をつけなければ)」
カイの身を守るためには、カイに行動の制限をかけなければならない。なにかやろうというのであれば、事前にアレクサンダーたちが知っておいて、危険回避をしなければならない。
そうでないと何が起こるかわからないのだ。
カイにもしもの事が起きたら……。
「アレクサンダー、ちょっとその顔やめてくれない? 怖いから」
「……すまん」
つい力んでしまった。無意識にクインシーを睨んでしまっていたらしく、クインシーに嫌そうな顔をされた。
「だが、暫くは隠せるんじゃないか? ウィルの部屋を開けたんだ。あそこには医学本や薬がある。ルイザの従姉妹の時のように、力を使っちまうことはないだろう」
「そうなんだけどねぇ。薬で治って、はいおしまい。ならいいんだけど」
カイの力が発揮されてしまう条件がわからないのが問題だ。患者に触れただけで、力が使われるのか。それともカイが祈りを捧げたら発揮されるのか。
「ジェシカ・ペイジには聞いたのか?」
「聞いたよ。でもカイが彼女の手を触ったら、としか言われなかった。それだけで使えるとは思えないんだよね。今までそんな兆候なかったわけだし。それに力を使うための練習とか、訓練を受けたわけじゃない。カイが無意識に使っちゃったんだ」
「またいつ使うかわからないってことか。厄介じゃないか」
「だから、勝手に動かないでって俺は言ったの! まったく……」
「カイはそんなことちっともわからんだろうがな!」
はははっ、と笑うヴィンスにクインシーは拗ねたように唇を尖らせる。カイが自分で気づいてしまうまでは、言わないと決めた。だから、のらりくらりとカイを止めるしかない。例え無理なやり方でも。
「アレクサンダー!」
話の区切りがついた時、奥の部屋からカイが顔を出した。
「ほら、お呼びだよ。行ってあげなよ」
「ああ」
クインシーとはカイのことについての話はしていない。今はそれどころではないというのもあるのだが、アレクサンダーに話をする勇気がなかった。自分よりもクインシーの方がカイに合うんじゃないかと思う気持ちと、カイを誰にも渡したくないという独占欲で苛まれていたから。
「どうした?」
「ごめん。あの、一番上の本を取って欲しいんですけど」
「構わない」
「ありがとうございます。さっき、取ろうと思って踏み台に乗ったら壊れちゃって」
足元にある踏み台を見てみると、木製の踏み台の四つ足部分が一つ外れていた。釘が錆びて脆くなっていたのか、真ん中から折れている。
「怪我は?」
「大丈夫です。変な音がしたからすぐ下りたんで」
「そうか」
カイが欲しいと言った本を取り手渡す。取ってもらえたカイは嬉しそうに微笑んでいた。
その頭へとアレクサンダーは手を伸ばしてくしゃりと撫でた。
「アレクサンダー?」
「……可愛い」
「はい!?」
あぁ、最近心の声が漏れすぎている気がする。
思わず呟いてしまった一言に、カイはカチンコチンに固まってしまった。悪いと思いつつも、恥ずかしそうに俯く彼が可愛らしくて、ずっと頭を撫でていた。
第二章 終
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