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第二章 異世界に来たけど、自分は平民になりました
第四十一話
しおりを挟む「ぃやぁぁぁっ……も、いかせてっ……ぁぁぁまた、またっ! それしないでっ」
「どうしてだい? こうしてお腹を押された方が私のを感じると言っていただろう……たっぷり味わって何度でも達きなさいっ」
「ひぃぃ! ぁぁっ……まぁぉさっ……ぃく! ぃっちゃ……っ!」
欲望を咥えたまままた、朔弥は遂情を伴わない絶頂を迎えた。大きく腰が前後するのを逞しい腕が止め、収まるのを待ってまた苛んでくる。それを何度も繰り返され、朔弥は自分が何を叫び何をねだったのかも分からないまま、ひたすら翻弄されるしかなかった。
立ったまま凄まじい絶頂を味わい、立てなくなった朔弥が膝を突いても柾人は苛み続けた。
薄い下腹を押されながら欲望を抜き差しされるとその形がまじまじと感じ取られ、一層興奮する朔弥はひたすら狂うしかなかった。
久しぶりの交情に容赦ない絶頂を繰り返し、やっと遂情を許されたのは柾人が大量の蜜を最奥に放ってからだった。
出会った頃よりも達く回数が減った分、一回が長くなった柾人に手加減なしで感じさせられた朔弥は痙攣する身体のまま床で何度も腰を跳ねさせた。あまりにも深い愉悦にわけが分からなくなった身体を抱きあげた柾人は、ソファへと腰掛け愛しい身体を膝に乗せる。
「こんな朔弥を見るのは久しぶりだ……入社してから抑えていたからね。遠慮するのはもうやめよう……あの子が戻ってきても、欲しくなったら場所など構わず貪らせて貰うよ」
チュッと激しい呼吸を繰り返す唇を吸い音を立て、まだ終わらせないとまた口を開いたままの蕾に欲望を潜り込ませる。
次の日、朔弥は柾人に抱きかかえられながら出社する羽目になるまで、たっぷりと愛しい恋人を啼かせ続けた。
*****
「では書類は以上です」
タブレットで説明をともに読み上げたペットショップの店員が店の奥でプリントアウトされた用紙の束を持ってきた。飼育に関する確認事項がびっしりと記載されている。
ペットショップ経由で迎え入れるのはこんなに面倒なのかと疲弊した二人は、書類を鞄の中にしまうとようやく逢えた仔猫を抱き上げた。
「遅くなって申し訳ない、ミー」
その声に仔猫は「ミャー」と小さく鳴いた。その声すらもミーに似ていて懐かしさがこみ上げてくる。柾人が事前に買った小さな首輪を取り付けると籐で編んだ籠のキャリーバッグに入れた。フリースの膝掛けを下に敷いたおかげで寒くはないようだ。仔猫はそのままバッグの中で丸まった。
「やっぱり帰ってきたね」
柾人が嬉しそうに笑い、大事にそれを膝に乗せる。
「タクシーを呼んできますね」
朔弥は抜けない仕事モードのまま、いつものように車を止めに行こうとして柾人に止められた。
「ちょっと待ってくれ」
対応してくれた店員が奥へ入って何かをしているようだ。休日なので流しているタクシーは多いだろうと柾人に従ってその隣に腰掛ける。
すでにサーシングの社内では猫の話題で持ちきりだ。あの後、容赦ない和紗によって仔猫相手に脂下がった顔を晒した動画を社内で回覧された。丁寧に動画配信サイトにアップし、セキュリティコードを知っている人間しか閲覧できないようにして、柾人と朔弥以外の全員にURLを送られた。
どうやら徳島は柾人の行き先を知っていたらしい。新宿二丁目の入り口に近いここにペットショップがあり、かなりの数の猫を置いていることを。なんとか和紗の勢いを押さえようと画策したが、ペットショップと知ってなお張り切る彼女を止めることはできなかった。
ふにゃふにゃの腰で出勤した日、わざわざ秘書室に詫びに来た彼に、逆に申し訳なくなってしまった。
朔弥が直接柾人に訊けば終わる話だったのだからと反省して、今ではできる限り自分の口で伝え聞くようにしている。でなければまたすれ違いが起きあんな激しいセックスで愛情確認が必要になったなら、身体が持たない。
だが猫を飼うと知ってからはあんなに迷惑を掛けてしまった面々も、仔猫の写真を共有することで許してくれたのは救いだ。
以前と違い上品な様相になったミーの写真を、柾人はまたスマホのチップメモリがいっぱいになるまで撮ることだろう。
ショップで与えていたのと同じ銘柄のキャットフードを持ってきた店員から大袋のそれを受け取り、店を後にした。休日でごった返す新宿の街を、人の隙間を縫うようにして通り、タクシーを拾う。店内にずっといた仔猫には冬になったばかりの風は厳しいだろう。一刻でも早く家に連れ帰ってやりたい。
混んだ道をタクシーは慣れているのか、マンションの前まで四十分ほどで走りすぐさま部屋へと入る。
初めて訪れたにもかかわらず、仔猫は本当にミーの生まれ変わりのように玄関で箱から出せばするするとリビングへと入り、自分の定位置はここだと言わんばかりにキャットタワーの足下に置いたドーム型のベッドへと入っていった。
「本当にミーみたいですね……この子の名前はどうしますか?」
二人で仔猫の緩やかな動きをとろりとした眼差しで見つめながら訊ねれば、柾人がさも当たり前のように「ミーだな」と答えた。
「その名前、オレが適当に付けたヤツなんです……できればもっと可愛い名前にしませんか?」
「いや、ミーが良い。朔弥と結婚したときからずっと家族なんだ、そのままの方が君もいいだろう」
「え?」
朔弥は大きく目を見開かせじっと柾人を見た。何を言っているのか頭に届いたがうまく処理できない。柾人がふっと口元を綻ばせた。
「どうしてそんなに驚いた顔をしているんだい」
「だって……えっ、結婚って」
「指輪を贈って戸籍を同じにしたらそういう意味だと思っていたが、朔弥は違うのかい? ついでにミーは娘だと思っていたよ。最初の子は随分と歳がいってたが、帰ってきてくれて本当の娘になったね」
病院や法的な部分で一番近くにいる人間。そんな意味合いだとばかり思っていた。
未だ驚きを隠せずにいる朔弥に苦笑して艶やかな黒髪を撫でる。昔とは違い整髪剤で整えた少し堅い感触すら楽しそうに指で弄ぶ。
「覚えているかい、蕗谷と同じことはしたくないから君に選んで欲しいと言っただろう、忘れてしまったのかな」
「覚えてます……そっか、パートナーってそういう意味だ」
なぜだろう、一生側にいるとあれほど口にしていたはずなのに、忙しない日常で忘れてしまった。自分が柾人のとても特別な存在だということを。
「ごめんなさい」
「いや、私も悪かった。少しだけ朔弥に嫉妬したんだ。あんなに可愛がってもミーが本当に信頼していたのは朔弥だったから……初めての娘を独り占めしたかったんだ。大人げなかった」
今回の件の根底はそんな気持ちがあったのか。全く気付かなかった。
「そりゃ……実家にいたときはずっとオレがご飯をあげてましたから。でも柾人さんが可愛がってくれたのはミーにも分かっていたと思います。オレは……ちょっとだけミーに嫉妬してました」
恥ずかしくて今まで飲み込んでいた心の裡を曝け出す。ミーが自分よりも柾人に大事にされているのが、少しだけ嬉しくて、妬いた。ミーのように当たり前に柾人の膝に乗ることができない恥ずかしがり屋な自分を棚に上げて。
「それは……嬉しいな」
「嫉妬されて嬉しいんですか?」
「新しいミーと私の取り合いをしてくれたらこの上ない幸せだろう」
柾人がいつものように朔弥のウエストを抱いてきた。あの日からミーが来る前のように親密なスキンシップをしてくるようになった。仔猫が来たら終わるだろうと思っていたのに、ちょこちょこと重い頭とお尻のバランスがうまく取れなくて歩き方がおぼつかない仔猫が側にいるのに、柾人の目は蕩けるように朔弥を見つめてくる。
「柾人さん……ミーがいますよ」
「今度はいてもしっかりと朔弥を可愛がろうと思ってね。ミーだって両親が仲良しの方が良いだろう」
チュッと頬にキスして、その先の行為に入ろうとするのが分かった。
「柾人さんっ、ここで?」
「ダメかい? もっと朔弥を可愛がりたいんだ、許してくれ」
「ぁっ……んん」
またあの日のように臀部を揉みしだかれるとすぐに蕾が疼いてしまう。このまま仔猫の前でしてしまうのだろうか……恥ずかしい反面、自分が一番愛されているんだと感じられる心地よさに流されていく。
「ミャー」
か細い鳴き声とともに餌皿をひっかく音がした。少し息を上げたままチラリと見れば、小さいのにしっかりと食事の催促をしている仔猫の姿があった。
「あっ、ご飯!」
すぐに柾人の腕から離れ、渡された大きなフード袋から体重に見合った量を計ってお湯でふやかす。
「ごめんな、ミー。すぐに食べさせてあげられないんだ」
「ミャー、ミャー」
「今日はサンプルに貰ったヤギミルクを入れるね」
粉状のヤギミルクを餌皿に投入し軽く混ぜて、火傷しない温度まで下がるのを待つ。その間気を紛らわせるために、買ったばかりのおもちゃを出そうとして、フードが入っていた袋の底に見慣れないものが入っているのに気付いた。
「あれ、これは?」
大型犬向けの太い首輪だ。革製の赤いそれはミーに付けているものと比べものにならないほど重く堅い。
「柾人さん、ペットショップの人が間違えてこんなものを……」
「いや、間違いじゃない。私がお願いしたんだ」
「どうして? もしかして犬も飼うつもりですか?」
どうしても仕事で年に数回二人とも宿泊込みの出張に出ることがあるのだ。二人暮らしでも猫なら散歩の必要がないし、自動の給餌器や猫トイレに任せれば一泊の出張も大丈夫だが、犬だとそうはいかないだろう。
「いや、犬は飼わないよ。これはこうして使うんだ」
首輪を手に取った柾人は躊躇うことなく朔弥の、男にしては細い首にそれを巻き付けた。
「な……っ!」
「うん、やっぱり朔弥の白い肌には赤が良く映える。もう私から逃げないように、心を縛る代わりに物理的に縛ってしまおうかと思ってね」
しっかりとバックルをはめ込んだ首輪の縁をそっと撫でられ、嫌なはずなのに、柾人に酷く執着されているような気がする。トクンと胸が跳ね上がればそれを隠すようにまだ少し熱さが残る餌皿をミーの前に置いた。
「何を考えてるんですかっ」
「いつも朔弥のことを考えているんだが……おかしいかい?」
「変です……こんなの……」
「そう言いながらどうしてこの顔は赤くなっているんだろうね。相変わらず綺麗で、可愛い」
赤くなっている頬を舐められ、柾人のために巻いた首輪へ意識が強くなる。
「これから裸に首輪だけ巻いた朔弥を見たいんだが、私のワガママに付き合ってくれるかい?」
嫌とは言えない。また下肢の前に熱が集まりトクンと大きくなってしまったから。
「……今日だけ……ですよ」
「それについては確約はしないが、今は早く猫のように可愛く啼く私の朔弥を存分に堪能させてくれ」
またチュッと頬にキスすると、柾人は躊躇うことなくその場で朔弥の服を脱がし始めた。
-END-
「どうしてだい? こうしてお腹を押された方が私のを感じると言っていただろう……たっぷり味わって何度でも達きなさいっ」
「ひぃぃ! ぁぁっ……まぁぉさっ……ぃく! ぃっちゃ……っ!」
欲望を咥えたまままた、朔弥は遂情を伴わない絶頂を迎えた。大きく腰が前後するのを逞しい腕が止め、収まるのを待ってまた苛んでくる。それを何度も繰り返され、朔弥は自分が何を叫び何をねだったのかも分からないまま、ひたすら翻弄されるしかなかった。
立ったまま凄まじい絶頂を味わい、立てなくなった朔弥が膝を突いても柾人は苛み続けた。
薄い下腹を押されながら欲望を抜き差しされるとその形がまじまじと感じ取られ、一層興奮する朔弥はひたすら狂うしかなかった。
久しぶりの交情に容赦ない絶頂を繰り返し、やっと遂情を許されたのは柾人が大量の蜜を最奥に放ってからだった。
出会った頃よりも達く回数が減った分、一回が長くなった柾人に手加減なしで感じさせられた朔弥は痙攣する身体のまま床で何度も腰を跳ねさせた。あまりにも深い愉悦にわけが分からなくなった身体を抱きあげた柾人は、ソファへと腰掛け愛しい身体を膝に乗せる。
「こんな朔弥を見るのは久しぶりだ……入社してから抑えていたからね。遠慮するのはもうやめよう……あの子が戻ってきても、欲しくなったら場所など構わず貪らせて貰うよ」
チュッと激しい呼吸を繰り返す唇を吸い音を立て、まだ終わらせないとまた口を開いたままの蕾に欲望を潜り込ませる。
次の日、朔弥は柾人に抱きかかえられながら出社する羽目になるまで、たっぷりと愛しい恋人を啼かせ続けた。
*****
「では書類は以上です」
タブレットで説明をともに読み上げたペットショップの店員が店の奥でプリントアウトされた用紙の束を持ってきた。飼育に関する確認事項がびっしりと記載されている。
ペットショップ経由で迎え入れるのはこんなに面倒なのかと疲弊した二人は、書類を鞄の中にしまうとようやく逢えた仔猫を抱き上げた。
「遅くなって申し訳ない、ミー」
その声に仔猫は「ミャー」と小さく鳴いた。その声すらもミーに似ていて懐かしさがこみ上げてくる。柾人が事前に買った小さな首輪を取り付けると籐で編んだ籠のキャリーバッグに入れた。フリースの膝掛けを下に敷いたおかげで寒くはないようだ。仔猫はそのままバッグの中で丸まった。
「やっぱり帰ってきたね」
柾人が嬉しそうに笑い、大事にそれを膝に乗せる。
「タクシーを呼んできますね」
朔弥は抜けない仕事モードのまま、いつものように車を止めに行こうとして柾人に止められた。
「ちょっと待ってくれ」
対応してくれた店員が奥へ入って何かをしているようだ。休日なので流しているタクシーは多いだろうと柾人に従ってその隣に腰掛ける。
すでにサーシングの社内では猫の話題で持ちきりだ。あの後、容赦ない和紗によって仔猫相手に脂下がった顔を晒した動画を社内で回覧された。丁寧に動画配信サイトにアップし、セキュリティコードを知っている人間しか閲覧できないようにして、柾人と朔弥以外の全員にURLを送られた。
どうやら徳島は柾人の行き先を知っていたらしい。新宿二丁目の入り口に近いここにペットショップがあり、かなりの数の猫を置いていることを。なんとか和紗の勢いを押さえようと画策したが、ペットショップと知ってなお張り切る彼女を止めることはできなかった。
ふにゃふにゃの腰で出勤した日、わざわざ秘書室に詫びに来た彼に、逆に申し訳なくなってしまった。
朔弥が直接柾人に訊けば終わる話だったのだからと反省して、今ではできる限り自分の口で伝え聞くようにしている。でなければまたすれ違いが起きあんな激しいセックスで愛情確認が必要になったなら、身体が持たない。
だが猫を飼うと知ってからはあんなに迷惑を掛けてしまった面々も、仔猫の写真を共有することで許してくれたのは救いだ。
以前と違い上品な様相になったミーの写真を、柾人はまたスマホのチップメモリがいっぱいになるまで撮ることだろう。
ショップで与えていたのと同じ銘柄のキャットフードを持ってきた店員から大袋のそれを受け取り、店を後にした。休日でごった返す新宿の街を、人の隙間を縫うようにして通り、タクシーを拾う。店内にずっといた仔猫には冬になったばかりの風は厳しいだろう。一刻でも早く家に連れ帰ってやりたい。
混んだ道をタクシーは慣れているのか、マンションの前まで四十分ほどで走りすぐさま部屋へと入る。
初めて訪れたにもかかわらず、仔猫は本当にミーの生まれ変わりのように玄関で箱から出せばするするとリビングへと入り、自分の定位置はここだと言わんばかりにキャットタワーの足下に置いたドーム型のベッドへと入っていった。
「本当にミーみたいですね……この子の名前はどうしますか?」
二人で仔猫の緩やかな動きをとろりとした眼差しで見つめながら訊ねれば、柾人がさも当たり前のように「ミーだな」と答えた。
「その名前、オレが適当に付けたヤツなんです……できればもっと可愛い名前にしませんか?」
「いや、ミーが良い。朔弥と結婚したときからずっと家族なんだ、そのままの方が君もいいだろう」
「え?」
朔弥は大きく目を見開かせじっと柾人を見た。何を言っているのか頭に届いたがうまく処理できない。柾人がふっと口元を綻ばせた。
「どうしてそんなに驚いた顔をしているんだい」
「だって……えっ、結婚って」
「指輪を贈って戸籍を同じにしたらそういう意味だと思っていたが、朔弥は違うのかい? ついでにミーは娘だと思っていたよ。最初の子は随分と歳がいってたが、帰ってきてくれて本当の娘になったね」
病院や法的な部分で一番近くにいる人間。そんな意味合いだとばかり思っていた。
未だ驚きを隠せずにいる朔弥に苦笑して艶やかな黒髪を撫でる。昔とは違い整髪剤で整えた少し堅い感触すら楽しそうに指で弄ぶ。
「覚えているかい、蕗谷と同じことはしたくないから君に選んで欲しいと言っただろう、忘れてしまったのかな」
「覚えてます……そっか、パートナーってそういう意味だ」
なぜだろう、一生側にいるとあれほど口にしていたはずなのに、忙しない日常で忘れてしまった。自分が柾人のとても特別な存在だということを。
「ごめんなさい」
「いや、私も悪かった。少しだけ朔弥に嫉妬したんだ。あんなに可愛がってもミーが本当に信頼していたのは朔弥だったから……初めての娘を独り占めしたかったんだ。大人げなかった」
今回の件の根底はそんな気持ちがあったのか。全く気付かなかった。
「そりゃ……実家にいたときはずっとオレがご飯をあげてましたから。でも柾人さんが可愛がってくれたのはミーにも分かっていたと思います。オレは……ちょっとだけミーに嫉妬してました」
恥ずかしくて今まで飲み込んでいた心の裡を曝け出す。ミーが自分よりも柾人に大事にされているのが、少しだけ嬉しくて、妬いた。ミーのように当たり前に柾人の膝に乗ることができない恥ずかしがり屋な自分を棚に上げて。
「それは……嬉しいな」
「嫉妬されて嬉しいんですか?」
「新しいミーと私の取り合いをしてくれたらこの上ない幸せだろう」
柾人がいつものように朔弥のウエストを抱いてきた。あの日からミーが来る前のように親密なスキンシップをしてくるようになった。仔猫が来たら終わるだろうと思っていたのに、ちょこちょこと重い頭とお尻のバランスがうまく取れなくて歩き方がおぼつかない仔猫が側にいるのに、柾人の目は蕩けるように朔弥を見つめてくる。
「柾人さん……ミーがいますよ」
「今度はいてもしっかりと朔弥を可愛がろうと思ってね。ミーだって両親が仲良しの方が良いだろう」
チュッと頬にキスして、その先の行為に入ろうとするのが分かった。
「柾人さんっ、ここで?」
「ダメかい? もっと朔弥を可愛がりたいんだ、許してくれ」
「ぁっ……んん」
またあの日のように臀部を揉みしだかれるとすぐに蕾が疼いてしまう。このまま仔猫の前でしてしまうのだろうか……恥ずかしい反面、自分が一番愛されているんだと感じられる心地よさに流されていく。
「ミャー」
か細い鳴き声とともに餌皿をひっかく音がした。少し息を上げたままチラリと見れば、小さいのにしっかりと食事の催促をしている仔猫の姿があった。
「あっ、ご飯!」
すぐに柾人の腕から離れ、渡された大きなフード袋から体重に見合った量を計ってお湯でふやかす。
「ごめんな、ミー。すぐに食べさせてあげられないんだ」
「ミャー、ミャー」
「今日はサンプルに貰ったヤギミルクを入れるね」
粉状のヤギミルクを餌皿に投入し軽く混ぜて、火傷しない温度まで下がるのを待つ。その間気を紛らわせるために、買ったばかりのおもちゃを出そうとして、フードが入っていた袋の底に見慣れないものが入っているのに気付いた。
「あれ、これは?」
大型犬向けの太い首輪だ。革製の赤いそれはミーに付けているものと比べものにならないほど重く堅い。
「柾人さん、ペットショップの人が間違えてこんなものを……」
「いや、間違いじゃない。私がお願いしたんだ」
「どうして? もしかして犬も飼うつもりですか?」
どうしても仕事で年に数回二人とも宿泊込みの出張に出ることがあるのだ。二人暮らしでも猫なら散歩の必要がないし、自動の給餌器や猫トイレに任せれば一泊の出張も大丈夫だが、犬だとそうはいかないだろう。
「いや、犬は飼わないよ。これはこうして使うんだ」
首輪を手に取った柾人は躊躇うことなく朔弥の、男にしては細い首にそれを巻き付けた。
「な……っ!」
「うん、やっぱり朔弥の白い肌には赤が良く映える。もう私から逃げないように、心を縛る代わりに物理的に縛ってしまおうかと思ってね」
しっかりとバックルをはめ込んだ首輪の縁をそっと撫でられ、嫌なはずなのに、柾人に酷く執着されているような気がする。トクンと胸が跳ね上がればそれを隠すようにまだ少し熱さが残る餌皿をミーの前に置いた。
「何を考えてるんですかっ」
「いつも朔弥のことを考えているんだが……おかしいかい?」
「変です……こんなの……」
「そう言いながらどうしてこの顔は赤くなっているんだろうね。相変わらず綺麗で、可愛い」
赤くなっている頬を舐められ、柾人のために巻いた首輪へ意識が強くなる。
「これから裸に首輪だけ巻いた朔弥を見たいんだが、私のワガママに付き合ってくれるかい?」
嫌とは言えない。また下肢の前に熱が集まりトクンと大きくなってしまったから。
「……今日だけ……ですよ」
「それについては確約はしないが、今は早く猫のように可愛く啼く私の朔弥を存分に堪能させてくれ」
またチュッと頬にキスすると、柾人は躊躇うことなくその場で朔弥の服を脱がし始めた。
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