異世界に来たけど、自分はモブらしいので帰りたいです。

蒼猫

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第二章 異世界に来たけど、自分は平民になりました

第三十七話 クインシーside

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「ごめん! 助かった、ありがとう!」

 カイとアレクサンダーの元から離れたクインシーは、仲間の団員の所へと合流した。

「大丈夫ですよ! それにしても一体どうしたんですか?」

「んー? それは内緒。君たちも気になるでしょ? 俺たちの団長様の恋路が上手くいくかさ」

「それはそうですけど……」

 アレクサンダーはカイが好きだ。ここ数日、アレクサンダーのことを注意深く見ていたら気づいた。

 カイに対してだけ甘くなるアレクサンダーに違和感を感じていたが、まさか片想いをするとは。いや、今は両片想いなのか。カイもアレクサンダーのことが好きなのだから。

 だが、アレクサンダーは可哀想な勘違いをしてしまっている。カイがクインシーのことを好きだと思い込んでいるのだ。以前、カイにお守りとなるネックレスを届けて欲しいと頼んだ。

 夜闇の中を動き回るのが得意なアレクサンダーに。

 暫くして帰ってきたアレクサンダーはクインシーにもの凄いガンを飛ばして自室へとこもった。カイと何かあったんだなとその日の夜は話しかけずにそっとして置いたのだが、翌朝になってやたらと他の団員に怒鳴り散らしていて困った。

 あからさまに八つ当たりをしている。どうしたんだとアレクサンダー本人に聞いてみると、眉間に皺を寄せて辛そうな顔をするばかりで、何も答えなかった。これはカイと喧嘩でもしたのか。

 昼に来るであろうカイに何があったか聞いてみればいいと思っていたが、その日の約束の時間に来たのはヴィンス。カイは体調を崩していて来れないと言われ、クインシーは帰ろうとしていたヴィンスを捕まえ、無理矢理ついていった。

「そしたらカイも好きだって言うんだもんなぁ。ねぇ、どう思う? 早くくっついちゃえよーって思うよねぇ?」

「ええ、まぁ。でも、くっつきますかね? あの二人」

 二人で話しながらコソコソとアレクサンダーたちを盗み見る。

「でもさ、くっついてくれたらこちらとしては安心するよね」

「そうですね。団長がやっと自分を許してくれたんだなって思います」

「だね」

 アレクサンダーが犯した罪は重い。一人で抱え込んでいるものも。

 誰とも深い関係を持つことのなかった彼が、唯一心を開く存在ができたなら。それはアレクサンダーが自分が犯してしまった罪を許したことになるのではないだろうか。

「肩代わり、出来ればよかったのに」

 一人で抱え込ませてしまったクインシー達にも罪がある。アレクサンダー一人に一年前の惨劇を起こさせてしまった。全ての責任を彼一人に。

 罪滅ぼしができるとは思ってない。しようとしてもアレクサンダーが突っぱねてしまうからだ。だから、こうやって隠れて彼の幸せを願うしかない。

「副団長! あ、あれ!」

「んー?」

 ぼうっと暗い空を見つめていたクインシーに団員が興奮した声で呼ぶ。団員が指差している方へと目を向けると、困り顔でこちらを見ているカイ。

 見ていると言うよりも、アレクサンダーに頭を押さえつけられていて無理矢理こちらに顔を向けさせられている状態だった。

「なにやってんの? あれ」

「わかんないです。サクラギが団長に何か言ってるのは見えたんですけど、それを聞いた団長が何故か顔背けてて」

「顔背けた?」

「はい。何言ったんですかね」

 アレクサンダーの顔を見てみようと目を細めてみるも、ここからではよく見えない。でも、すごく気になる。

「(後でカイに聞いてみよ)」

 とりあえず今は頑張ってくれ、とカイに心の中で声援を送る。

 暫くすると、カイは宿へと帰ったのか、アレクサンダーが一人こちらに向かって歩いてきていた。

「カイは帰っちゃった?」

「忙しいと言っていたからな」

「そっか。明日は俺たちがカイのところに行けばいいんだよね?」

「ああ。そのつもりだ」

「わかった。明日が楽しみだねぇ」

 どうせそんなことはないとかって返ってくるだろう。素っ気ない言葉しか吐かないで有名なアレクサンダーなのだから。

「……そうだな」

「うん、うん。楽しみだね……え?」

「なんだ」

「今、"そうだな"って言った? 言った!?」

「それがどうした」

 あぁ、カイ。大丈夫。心配しなくていいよ。アレクサンダーはシャイなだけなんだ。

 アレクサンダーの側にいて二十年あまり、こんなに嬉しそうにしているアレクサンダーの顔は見たことがない。本人はきっといつものようにしているのだろうけど、他の人間から見たら全然違う。

 一緒にアレクサンダーたちを盗み見ていた団員と目が合う。アレクサンダーの見えない所で、クインシーたちはガッツポーズをした。

「まったく、早くくっついてくれないかな。俺のためにも」

 城へと続いている階段を上がりながらクインシーは呟いた。己の内で燻っているものをなんとかしたい。その為には早く二人にくっついてもらいたいのだ。

 でなければ。

「……アホらしー。やめよやめよ」

 そんな事をしてなんの意味がある。自分はアドバイス係だ。二人に寄り添ってあげる存在でいるべきだ。

「さ、お仕事お仕事」

 余計なことを考える前に別のことを考えよう。やることは沢山あるのだから。こんな事に頭を使っている暇なんて今はない。

 この国を変えるまでは。
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