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第二章 異世界に来たけど、自分は平民になりました
第三十六話
しおりを挟む「言ってみろ」
仁王立ちする人相手に告白する人の気分をどうか10文字くらいでまとめてください。自分には無理です。"ここから逃げたいです"
「言わなきゃダメですか?」
「言わなきゃ練習にならないだろう」
そうなんです。そうなんですけど。そうなんですけども!
何この拷問。アレクサンダーに告白の言葉を言って、それを採点されるってどんな辛さだよ。
「腹をくくれ。そんなんではクインシーに言う時もそうなる」
言う機会はありません。だから今すぐこんな茶番はやめましょう。
待ち構えているアレクサンダーに、こんな事はしなくていいと言えばいい話。だが、このまま練習に付き合ってもらえれば、アレクサンダーに告白(仮)が出来てしまう。したいようなしたくないような。
「……一回しか言わないですよ?」
散々悩んだ結果、海は言うことにした。アレクサンダーを騙しているようになってしまうが、言い出したのはアレクサンダーの方だ。最後まで付き合ってもらえばいい。
「ちゃんと聞いてやる」
「じゃあ……」
一歩、アレクサンダーへと歩み寄る。手が届く距離で、海はアレクサンダーを見上げた。
ドクドクと緊張によって高鳴っている胸の音がアレクサンダーに届けばいいのにと思いながら。
「好きだ。アレクサンダーのことが。誰よりも」
言った。素直に真っ直ぐと。言った直後にぶわりと頬が熱くなった。きっと真っ赤になっているだろう。顔を隠したい気持ちを抑えて、海はアレクサンダーの返答を待った。
暫しの無言。互いに見つめあったまま何も言葉を発することは無い。もしかして聞こえてなかっただろうか。不安に思いつつ、もう少し待ってみると、アレクサンダーが唸った。
「……俺じゃ、ないだろう」
え?と聞く前に、海の頭にアレクサンダーの手が乗った。その手はグイッと海の頭を押してくる。海の目線はクインシーの方へと向かされた。
「ちょ、アレクサンダー? あの、痛いんですけど。あの、アレクサンダー? アレクサンダーさん!?」
「うるさい、黙れ」
その間もグイグイ頭を押され、海の首が悲鳴をあげそうになった。
「どうだったんですか? ダメでしたか?」
まだ答えを聞いていない。これは告白の練習なのだから、アレクサンダーから何かアドバイスをもらえるはず。もしさっきの告白で大丈夫なら、アレクサンダーにちゃんと告白する時はさっきのように言うつもりだ。
「……少し、黙ってろ」
「え、あ、はい」
震えた声で静かにしろと言われ、海は言われた通り口を噤んだ。一体どうしたのだろうか。アレクサンダーの方を見ようと首を動かそうにも、頭を掴まれていて上手く動けない。
どれくらいこのままなんだろうか。アドバイスをするのにすごく考えているのはわかる。わかるけど、こちらとしては、先程の告白でアレクサンダーがどう思ったのかが知りたかった。
「いいんじゃないか?」
それから数分ほど経った後、海の頭からアレクサンダーの手が離れた。
告白については大丈夫らしい。なんも問題がないことにほっと安堵した。
「あれでもいいが、もう少し……」
「もう少し?」
「もう少し柔らかくてもいいんじゃないか?」
「柔らかく?」
「ああ。お前が男らしいというのは分かったが、クインシーも男だからな。まさかお前がクインシーを抱くわけじゃないだろう」
抱く?
「抱くって?」
抱きしめるとかの意味合いか?そんなのたまにクインシーに抱かれているけど。それとはまた違うのか。
首を傾げる海にアレクサンダーを目を見開いて驚いた。そして少し呆れ気味な顔をして呟く。
「性行為のことだ。お前がクインシーを押し倒すのか?」
「せっ!?」
「告白して付き合うことになったら当然そういう事もするだろう。人によってはやらないやつもいるだろうが」
そこまで考えていたのか。早く勘違いを解かないと大変なことになりそうな予感がした。
「そこまで考えてないですよ!」
「まだ告白する前だからな。今は考えなくていいだろう。だが、お前は……」
「な、なんですか」
アレクサンダーはじっと海を見つめた後、最近少しずつ見るようになった笑みを浮かべながら海の頬へと手を伸ばし、指先でなぞるように撫でた。
「お前は大切に守られる側だろう」
そんなことないですよ。と返そうとしたが、あまりにもアレクサンダーの笑みが綺麗すぎて言葉にならなかった。
いつも怖い顔しかしてないのにそんな顔ができるんだ。アレクサンダーからこの顔を引き出せたのが自分だけならいい。
クインシーもヴィンスも見たことないと言える顔を。
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