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第二章 異世界に来たけど、自分は平民になりました
第二十五話
しおりを挟む朝食を食べ終えたあと、ヴィンスにお茶をもらった海は一息ついていた。
「あの子供らは元気にしてるようだな」
「子供ら?」
「アレクサンダーとクインシーのことだ」
子供というには成長しすぎている気がするが、ヴィンスからしたら二人はまだ子供に見えるのかもしれない。
「あやつらはガキの頃から知っていてな。二人とも手のかかる子供だったよ」
「ルイザみたいに?」
「ルイザ以上だな」
悪戯をしては周囲の大人たちを笑わせたり、困らせていたルイザ。そんなルイザよりも手がかかったのか。どれだけ二人は悪ガキだったのか。
「アレクサンダーとクインシーもこの辺に住んでいたの?」
「クインシーは宿の前の通りの突き当たりの家、アレクサンダーはもう一本奥の通りの家の子だった」
「え、じゃあ、なんで二人はルイザのこと知らないの?」
宿からもルイザの家からも二人の家は近い。それなのに二人はルイザのことを知らなかった。会ったことも名前を聞いたことも無いと。こんだけ近くにいたのにそんな事は有り得るのか。
「あの二人はここら辺じゃ有名な悪ガキだったからな。ローザとローザの旦那がルイザを表に出さなかったんだ。店の中だけで遊ぶようにってな。クインシーとアレクサンダーもここら辺で遊ぶことなんてほぼ無かった。暇さえあれば大通りに出て、他の仲間と悪巧みだ」
今の二人から想像できない。いつも笑顔を浮かべて優しいクインシーが悪さをしていたなんて。アレクサンダーもそうだ。目つきはとても怖いが、悪さをするような人とは思えない。
子供の頃だからというのもあるのかもしれないが、大人になった彼らはとても様変わりしたのだろう。昔は悪さばかりしていた子供が、大人になってからは町を守る側になったのだから。
「ヴィンスはなんで二人と?」
「よく預けられてたからな。うちに」
「……大変そう」
「大変なんてもんじゃないわ!アイツらが悪さする度に頭下げに行ったんだからよ」
うわ、一番めんどくさい保護者ポジションじゃないか。ヴィンスの言い方からして謝りに行ったのは一度や二度のことでは無さそうだ。預かっている身とはいえ、ヴィンスは悪いことしてないのに怒られ、ひたすら頭を下げ続けなければならないなんてなんの拷問だ。
「クインシーとアレクサンダーの親はどうしたの?普通は親が謝りに行くもんじゃないの?」
「クインシーの父親は漁師だったんだが……海が荒れてた時に漁に出ちまってな。そのまま帰ってこなかった。アレクサンダーの方は貿易商だった。数年前にこの国を出たよ」
「……母親の方は?」
「死んだ」
聞いていいものなのかと悩んだが、海は敢えて聞いてみた。二人のことをもっと知りたいという好奇心から。好奇心は猫を殺すとは誰が言ったか。確かにこの事実は海の心に深く突き刺さった。
「この国は頭がおかしいやつが統治してる。その被害者が国民だ」
「国王がおかしいってこと?」
そういえば、ヴィンスはさっき"バカ"が呼び出したんだろう?と言っていた。聖女を召喚したのは魔導師の白顎髭のおっさんとあの不躾男たち。でも、その魔導師に命令したのは国王だ。
ヴィンスは国王をバカと呼んだ。そんな言い方してもいいのかと驚愕したが、そう呼びたくなる理由があるみたいだ。
「クインシーとアレクサンダーは言わなかったか。まぁ、言えないだろうな。あいつらも飼い殺しみたいなもんだから」
「飼い殺しって……どういうこと!?」
「そのまんまの意味だ。あの二人、いや、騎士団自体が国王の手駒だ」
「それは国を守護するものだからじゃないの? 国王の部下になるのは必然でしょ?」
「そうじゃない。ただの部下ならなんも問題はないが、あれはそんな優しいもんじゃない」
「どういうこと? 全然話の意図がわからないんだけど……」
「詳しい話は二人に聞けばいい。アイツらが一番知っているんだからな。あぁ、それと今日は約束の場所に行かなくていいそうだ。演習があるとかで二人が来れないらしいからな」
ヴィンスの言葉の意味を考えている間に彼はいつもの釣りへと出かけて行ってしまった。
騎士団が国王の手駒。部下という言い方じゃない。ヴィンスの話のニュアンスからすると、侮蔑の意味が含まれている。アレクサンダーとクインシーには相当手を焼かされていたヴィンスだ。二人のことをよく思っていないのかとも思ったが、彼らが元気にしているのかと気にしている節があった。そこまでは嫌っていないはずだ。
なのにクィンシーたちをあんな風に言い表した。
「難しいって、この国。なんなんだよ」
この国自体の闇が深い。国王はバカにされ、国民を守っているはずの騎士団も陰で文句を言われている。
そろそろこの国の裏事情も気にした方がいいかもしれない。
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