異世界に来たけど、自分はモブらしいので帰りたいです。

蒼猫

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第二章 異世界に来たけど、自分は平民になりました

第二十三話 (アレクサンダーside)

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父は仕事が忙しく、家に居ることがあまり無かった。

だから物心が付いてからの父の記憶は少ない。

ただ、あのエピソードは今でも鮮明に覚えている。

ロイから聞いたハルの父さんと重ねるように、その記憶を思い起こしているうちに、僕たちは大広間に着いた。

失礼します、とロイが言い僕たちは中に入った。
だだっ広い空間の奥に2つの大きな椅子が設置されており、父さんは左側の席に座っていた。

怪訝な顔をして座っている領主と会話をしている者は、その手に持っている書類に何かを書き留めていた。

大広間を半分程歩いたところで領主はこちらに気付いた。

「おお、ハルよ!無事でおったか」

領主は立ち上がり2歩3歩前に出た。

「と、父さん。心配をお掛けしまして、申し訳ございません」

僕はどこかぎこちなくしながらも頭を下げた。

「ハル・・・。んん、ごほん。頭を上げなさい。ハルは何も謝ることはないのだ」

僕はゆっくりと顔を上げる。
凛とした白い髭が似合う白髪の男は、とても温かみのある優しい眼差しを僕に向けていた。

「怪我の具合はどうだ?気分は悪くないか。何かこう思うことがあれば何でも良い、申してみよ」
「だ、大丈夫です。僕はこの通り無事でございます。ご、ご安心ください」

自分の話し方に戸惑いを覚えながらも僕は答える。
ロイと書類を持つ男の微笑む声が聞こえたような気がした。

領主は再び席に着いた。

「ハルよ、此度の心労大変痛み入ることだ。本当は回復してからこういった話をしたかったのだが、時を急ぐのでな」

領主の真剣な表情に空気が変わる。

「ハルよ、私は先の襲撃事件に関して、政府より特命を預かっておる。遠征になるが故、しばしの間町を離れることになった。ハルにはその間白城の留守をお願いしたいのだ」

書類を持つ男は頷く。

ロイが口を開く。

「領主様が町の外へお出になられるのは危険です!いつ魔物が現れてもおかしくない状況なのですよ!代わりの者ではダメでしょうか。必要とあらば私めがその任、務めさせて頂きます」

「ロイよ、そなたの仕事はハルに従事することだ。使用人としてのその責務を放棄させるわけにはいかん」

書類を持つ男が慌てた様子で僕を見た。
しかし、しばらくするとほっとした様子に戻った。

しかし!と、ロイは食いつくも返す言葉が見つからずに黙ってしまう。

「心配しなくとも良い。旅には護衛を付ける予定だ。国政についてもすべてこの祭司マリーンに任せてある故、何も問題はない」

書類を持ったマリーンという男は軽く会釈し、ロイに説得の為の説明を加えた。

「ロイ様のお気持ちも十分に伝わっております。しかしながら、代々領主家の血筋は14歳を迎えた際、解呪の儀を経て七曜(しちよう)の加護をその身に受けます。その血と名誉にかけて、特命は遂行せねばならぬのです」

「その通りだ。ロイよ、留守の間、ハルを任せた・・・ごほん、ごほんごほん」

領主は咳を何度も繰り返した。
大丈夫ですか領主様!と心配するマリーンに、咳き込みながらも大丈夫だと答えの領主を僕は見ていた。

ロイが小声で話し掛けてきた。

「お父上はここのところ激務で全く休めてはいないんだ。そのせいで持病も悪化してお身体を崩されている。あまり良くはないんだ。それにハルの・・・いや」

とロイは言葉を止めたが、続きを話す。

「とにかく、こんな状態で長旅ともなれば一体どれほどの負担が掛かるかわかったものじゃない。恐らく最悪の場合死んでしまわれるだろう」

僕はどう返答しようかを悩んでいた。
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