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第二章 異世界に来たけど、自分は平民になりました
第十八話 小話(クインシーside)
しおりを挟む本当にあの二人は見ていて面白い。
アレクサンダーのマントの中に隠れてしまったカイを見てクインシーは驚いた。
マントの中に隠れたカイに対してもだが、まんざらでもない顔をしているアレクサンダーにだ。
いつもなら激昂しそうなものを。
「(へぇ、カイならいいってことなのかな?)」
マントの中でもぞもぞしているカイにアレクサンダーは一言文句を言うだけで、それ以上は何も言わなかった。呆れた顔をしつつどこか嬉しそうに見える彼の顔にクインシーも嬉しく思った。
「俺ちょっと見張りのヤツらと話してくるわー」
「わかった」
相変わらず素っ気ない反応だが、やはり少し違う。いつもの鋭利さが穏やかになっている。
橋の見張りをしている騎士団の仲間の元へ歩いていきながらクインシーは一人くすくす笑った。
幼なじみであるアレクサンダーはよく勘違いされやすい。顔面の凶悪さというのもあるが、一番は目つきの問題だろう。
目が合えば睨まれているのではないかと勘違いされやすいのだ。本人にその気はなく、ただ見ているだけでも。身長が高い分、相手を見下ろすことが多い。その威圧感も相まって、アレクサンダーは怖がられやすかった。そのせいで親しい友人といえるのはクインシーくらいしかいない。
そんな彼に懐いたカイは怖いもの知らずというかなんというか。
「やあ! 元気してるかい?」
「副団長!」
「お疲れ様です!」
警備係の団員に手を挙げて声をかける。彼はすぐさまクインシーに敬礼をした。
「ねぇ、ちょっとあれ見てよ」
「はい?」
ほんの悪戯心で、クインシーはアレクサンダーとカイの方を指差した。仲間たちと共に後ろを振り向くと、アレクサンダーとカイが……キスしているように見えた。
「(あらま。あー、うん。ごっめーん!)」
ちらりと団員の方を見やると、驚きで固まっている。
彼らの誤解を解くのは簡単だろうが、今はしないでおこう。むしろその誤解が本当になればいい。
"泊めてあげるから家へおいでって言われてついて行った先で、カイが犯されてもいいの?"
"ふざけるな!"
アレクサンダーが本気で怒ったのをみたのは久しぶりの事だった。軽い喧嘩なんていつもの事だが、あんなに怒ったのは……。
「あれ以来か」
一年前の騒動以来だ。あの時もアレクサンダーはかなり怒っていた。あれは誰もが嫌がり、怒り、悲しんだ。特にアレクサンダーは団長としての責務のせいで人一倍辛かったはずだ。
下手な慰めをしてはいけないと、クインシーは見守ることしか出来なかったが。
「……カイだったらどうしてたかな」
もしカイがあの場にいたならなんて声をかけていたのだろうか。クインシーと同じく見守っていたのか、それとも慰めようと声をかけたか。
はたまた。
「アレクサンダーを嫌いになったか、だね」
人に許されないようなことをした。それだけは確かだ。しかも、アレクサンダーは率先して事をやった。他の団員やクインシーに関わらせないようにするために。
「ほんと不器用な男なんだよ。ねぇ、カイ。アレクサンダーのことよろしくね。嫌わないであげてね」
近い距離で見つめあっている二人をクインシーは微笑ましく思いながらも、悲しそうな目で眺めた。
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