【完結】酷くて淫ら

SAI

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19. 零れ落ちる ☆

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「お前、本気で勘違いしてるよ。スターフィッシュのボーカルは関係ない。知り合い、それだけだ」

「嘘でしょ。目が泳いでるし。そんなに怯えなくても大丈夫だよ。俺、ヤバイ友達いっぱいいるからさ。あんな奴、消してやるよ」

全身から血の気が引いた。俺のせいで一郎が危険な目に合う。そんなことがあっていいはずがない。

「ど、どうすれば分かってくれるんだよ……」
男の顔が俺の首筋に埋まり、絶望のあまりに目を閉じた瞬間、「おい」と低い声が響いた。

「いち……」
「早瀬さんはどうもしなくていいですよ。今の彼の言葉たちは立派な脅しですから。ちゃんと録音してあります」
「は?」

男が一郎を見る。

「早瀬さん、こっちへ」

男が一郎に気を取られている隙に俺は男を突き飛ばして一郎のもとへと駆け寄った。

「なんでここにっ」
「さっき様子が変だったから。人に尋ねたらこっちに引きずられていく人を見たって言うし、焦りました」
「あ、危ないからもう、行こう」

一郎の手を掴むも一郎は動かない。

「だめです。こういう人にはちゃんと分からせないと」
「え?」

一郎は俺の胸元を掴むとそのままキスをした。

「あなたは振られたんですよ。ほら、見てください」

一郎が背後から俺に抱きついて、その手が下がる。俺のパンツに到達するとベルトを外し、下着の中に手を滑り込ませた。

「いち、ろ。なんで」
一郎は俺に構わず続ける。

「脅されている人がこんな風に反応すると思います?」
「あっっ……」

下着の中で一郎にペニスを擦られて濡れた声が上がる。男の目が俺を捉えているのが分かるのに、口を半開きにして俺は一郎の腕の中で悶えた。

「お前っ、こっ、こんなことしてっ。この情報を週刊誌に売ったらお前は終わりだぞ!」

男が脅しの言葉を吐くのにも一郎は涼しい顔のままだ。それでも、手は俺の先走りを拭いアナルへ指を挿入する。

「あっ……あんっ」

「どうぞ。週刊誌にでも売ればいい。公表する手間も省けるし、いいかもしれないですね。罪を犯しているわけでもないし、どんなことも全部、踏み台にしてみせますよ」

「いち……ろ」
一郎の言葉が頼もしくて嬉しくて泣いてしまいそうだ。

「どうします? このまま最後まで見ていきますか? いい加減に理解してください。あなたは振られたんですよ」

一郎の指が3本、俺の内側で暴れまわる。立っているのもしんどくて、切なくて一郎の首に手を回した。

チッ
舌打ちが聞こえ、足音が俺たちを追い越して去る。

「一郎……なんでお前」
「……よかった」

一郎がホッとした声を出して俺から指を引き抜いたせいで、体がビクッとなって小さく声が漏れた。

「涙でグチョグチョじゃないですか。もう、変な男について行っちゃだめだって言ったのに」
「ごめん」
「無事で良かったです」

一郎に抱きつくと汗の匂いがして、体の力が抜けた。

プルルルル プルルルル

「あ」
「くす、いいよ。出て」

きっとどこにいるのかと一郎を心配したメンバーからだろう。一郎は、うん、うんと返事をすると分かったと言った。

「戻っていいよ。もう大丈夫だから」
「でも……」
「俺は大丈夫。あのさ、今日、お前が家に来るの待っててもいい?」

「いいですよ」
「あ、でも、ゆっくりしてきていいからな」
「くす、分かりました」

一郎は俺の手を引いて立ち上がらせると大通りに連れて行った。

「気を付けて帰って下さいね」
「ん。一郎、ありがとう」

一郎は軽く手をあげると走って戻っていった。




急ぎ足で家に帰ると玄関でしゃがみ込んだ。不安と安堵と服に沁みついた一郎の匂いで感情がぐちゃぐちゃだ。靴を脱いで玄関に投げるとよろよろと風呂場に駆け込む。一郎に触られた部分の熱が収まらない。

シャワーを出したままペニスを握った。

「あっ……」

擦る度に波の様な刺激が来る。とても足りなくて大きく足を開いたまま横向きに壁に寄り掛かりアナルに指を入れた。

「ああっ……んっ」
シャワーの音が雨のように響く。その隙間を縫ってアナルを行き来する音がぬちゃぬちゃと聞こえる。

「いち……ろ」

考えなければいけないことはあるはずなのに、半端に触れられた体が熱を逃がさない。俺は脳裏に一郎を描いた。めちゃくちゃにして欲しい気分だった。恐怖も不安も全部快楽に塗り替えて忘れさせて欲しい。

本当に欲しい熱を与えられないまま妄想の一郎に抱かれ、俺は2度も射精した。





 一郎が家に来たのは午前一時を回った頃だった。

「疲れてるのに悪いな」
「いえ、俺も会いたかったんで。早瀬さん、もしかしてまた泣きました?」
「泣いてねぇよ」
「擦るから目の下のところ、こんなに赤くなって」

一郎が俺の頬に触れるとまた視界が滲んでくる。感情のコントロールの仕方を忘れたみたいだ。少し触れられただけで膜が破れて零れるようにいくつもの感情が流れ出てしまう。

「一郎……俺、お前の傍にいない方が、いいんじゃないかな」
「何言ってるんですか」

顔を見られたくなくてワザと一郎に抱きついた。

「自業自得。本当にその言葉通りなんだけどさ、今日みたいなことこれからもあるかもしれないし。ライブ見て、おまえがどんなにあの場所を大事にしてるか分かった。それなのに、俺、こんなんで。唯でさえ男同士なのに、俺、適当なことばっか、してたから、俺のせいで、二人のことがバレたり、相手が俺だってなったら、色々、問題があるんじゃないかと、思って、だから」

涙をこらえながら話すから、言葉が途切れ途切れ。頭も上手く回らなくて、上手に伝えられているかも不安だ。

「早瀬さん?」

「俺、お前の居場所も奪ってしまうんじゃないかと思うと……それに、あいつ、一郎のこと消すって……う……」

恐かった……と続けた言葉は涙と同時に零れた。

「早瀬さん。大丈夫です。俺、いなくならないし、あなたのことで潰れたりもしません」
「でも、でも……さ」

「消すって言葉も本気じゃないと思いますよ。俺を消すリスクを負うには動機が貧弱すぎるし。だから、大丈夫」

こんなに大丈夫と言われたのに、不安が消えなくて一郎の目を見た。

「早瀬さんのことがバレたとしても、過去がどうのってなったとしても、本当に大丈夫なんですよ。だって、諦めないから。早瀬さんと一緒にいたいし、音楽も続けたい。どっちかを選ぶのは無理。俺が我儘なのは早瀬さん知ってるでしょ」

そうだ、その通りだ。出会った頃、俺が帰れって言っても嫌だって言って聞かなかった。離れようとしても何度も手を伸ばしてくるし、強引に踏み込んできては人を巻き込んででも結局自分の思い通りにしてしまう。一郎はそういうやつだ。

「……そういうやつだったな」
「あ、ほら、またそうやって目を擦る」
一郎が俺の手を掴む。笑う。

あぁ、もう。

「一郎、お前でいっぱいにして」


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