【完結】酷くて淫ら

SAI

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4. 必要な痛み ☆

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一郎が家に来るようになってから一週間。

「傷、薄くなってきたな……」

俺は鏡に映った自分の顔を見ながら呟いた。肩まで伸びた髪の毛、学生の頃よりも痩せて頬の肉は落ち、不摂生のせいで青白い顔をした自分が映っている。一郎に縛られた手首の赤みは完全に消えたし、体にも傷はない。

「そろそろ、か」
俺はゲイ専用の出会い系サイトを開くと書き込みをした。

【26歳 今夜会える人、連絡ください。
条件 セックスのみ
   酷くしてくれる人      HASE 】


HASEは俺がゲイ専用出会い系サイトを利用するときに使う名前だ。マッチングアプリだと色々制約があるから、俺は古いタイプの出会い系サイトを利用することにしている。書き込みは簡単な条件と後ろ向きで少し横を向いた顔が見えるか見えないかくらいの写真を添付すればそれだけで今夜過ごす相手が案外簡単に見つかるのだ。

食事なし、セックスのみ。だから待ち合わせる時間はいつも21時。俺の条件には身体的な希望がないから、太っている男や自分の倍ほどの年齢の男までいろいろな男が来る。そんな中でたまに、身ぎれいで社会的な地位もありそうな男に当たることもある。

「HASEさん、ですか?」

目印に指定された経済系の雑誌を小脇に抱えていると声をかけられた。30代半ば、左手薬指に指輪、きちんと髪の毛を固めてあり乱れの無い服装。顔はイケメンの部類に入ると思う。

「はい」
「へぇ、今日は楽しめそうだな」
男が口元を歪めて笑った。

こういう男ほど実はヤバかったりする。
今日は結構な痛手を負うかもしれないな、と俺は思った。


ホテルに入っても男は上品さを失わず、丁寧にスーツの上着を脱いでハンガーにかけた。

「酷くしていいんだよね?」
「はい、準備は出来ているのでいつでも」
「そう、最近、ちょっと溜まってね。大丈夫、死にはしないから」

男はそう言って紐を持って笑った。

「服を脱いで後ろを向け」

言われたとおりに服を脱ぐと後ろ手に手を拘束された。そのまま立っていると、男の気配が離れ近づいたと思ったら背中に強い衝撃を受けベッドに転がった。首を曲げて男を見ると、そのまま背中を踏みつけられる。

「ぐっ……」

背中に当たる靴の感触。先ほど気配が離れたのは靴を履いてきたからのようだ。ぐいぐいと体重がかけられて呼吸がしづらい。

「なかなかいい表情をするね。そうそう、こんなのも持って来たんだ」
男が手にしたのはよくSM等で使う鞭だ。

「SMプレイを楽しめるところに行ったことがあるんだけど、私の性癖とは合わなかったようでね。出禁になってしまって、まだ一度しか使えていないんだ。さぁ、こっちを向いて床に正座しなさい」

言われるままその通りにすると、男が大きく手を振り上げた。撓る鞭が体に食い込む。

「いっ」
背中に焼けるような熱が生まれた。

「あいつら、いい気になりやがって!」

ひゅんっ

「ぐあっ」
罵倒と共に鞭が振り落とされる。いくつもの鞭を受ければ、背中全体が熱くてどこが痛いのかさえ分からなくなった。

「俺を馬鹿にしやがって。頭が悪いのはお前たちの方だろ!!」
「ぐはっ!!」

肩から脇腹にかけて鋭い鞭が走り衝撃でうつ伏せに倒れた。

「あぁ、すまない。ちょっと強すぎたかな」
男が俺に近寄り、俺の体に触れる。

「くっ……」
触れられたところが沁みて体を捻ったが男の目はうっとりと俺の皮膚を見つめていた。

「少し血が滲んでいるね。奇麗だ」
男は唐突にベルトを外してスーツを脱ぎ捨てると、ペニスを取り出した。

「頑張って耐えたご褒美だよ」
「ぐあっ」

大して解されていない部分を勢いのまま貫かれ、俺は背中をのけぞらせたが、男は欲望のまま俺の中で動き始めた。

「っく……」
「痛いかい?背中をこんなに真っ赤にして、アナルに私のモノを飲み込んで。痛みにわななく君の体は美しい」

傷口を押され、引っかかれ痛みが痛みを生む。

そう、この感覚だ。俺にとってこの行為は罰だ。快楽なんて要らない、痛くていい。
ケヴィン……。


「立ちなさい。ベッドに仰向けになるんだ。君の顔が見たい」

腕を強い力で引っ張られベッドに仰向けに投げ出される。男はバッグから何かを取り出すと、それを持ったまま俺の中にまたペニスを挿入した。

カチカチカチ

体を繋げる時には聞きなれない音。だが、馴染みだったその音が何のものなのか直ぐに分かった。カッターだ。


「大丈夫。表面を少し切るだけだから。君の体は滲む血が良く似合う」

ゴクリ。
どちらともない唾を飲み込む音が響いた。冷たい刃が右の胸元に当てられる。

「あっ……あぁっ」

カッターを俺の肌に押し付けて引きながら男は恍惚の声を漏らした。そしてカッターの刃がみぞおちを通り右の胸の下、肋骨の辺りまで来た時、男はカッターを握ったまま手を止め、激しく腰を打ち付けた。

「いいっ……あぁっ……イクぅっ」

男は俺の中で果てると、満足そうにペニスを引き抜いた。手の拘束を解き、千円札を3枚俺の脇に置いた。

「薬代だ」
「いらない」
「怒っているのか? こういうのが好きなんだろう?」

「怒ってない。俺の条件通り、あんたに非はない。悪いけど、もうこの部屋から出て行ってくれない?」
「ふんっ、間違っても訴えたりするなよ」
「しないよ。だから早く出てって」

男がパタパタと部屋を出ていくのを感じながら、胸の傷をテッシュで押さえた。

「血が止まるまでここにいるしかないか」

諦めの様に呟いたものの、情事が終わったばかりのこの場所にはいたくない。ここにある乱れたシーツも精液の匂いも全部あの日々を思い出させる。

忘れてはいけないのに、思い出したくない。早くこの部屋から出たい。俺は服を着て傷口を押えるようにして服の中にタオルを仕込むとホテルを後にした。


「いらっしゃいませ。お、今日は髪の毛濡れてないんだ」
「そういう日もあるんですよ。尚さん、今日はラム系のお酒にして」
「モヒートなんかどうです?さっぱりしますよ」
「うん、それで。あと、ポッキーも」

「早瀬さんってポッキーが好きなんですか?」
背後から聞こえた声に俺は振り向くことはしなかった。正確には痛くて体を捩じることが出来なかったが正しい。

「一郎、来てたのか」
「早瀬さんの家に行ってもいなかったから、なんとなく」

一郎が俺の隣に座る。

「ったく、お前は俺のストーカーかよ」
「まぁ、近いかも」
「……一郎って案外自分のこと分かってるのな」

「へぇ、いつの間に仲良くなったの?」
尚さんが俺の前にモヒートを置きながら聞いてきた。

「仲良くなんかないですよ。懐かれているだけです」
「それを仲良いっていうんですよ、早瀬さん」
「いっ!!」

一郎がほほ笑みながら俺の肩に手を置いた瞬間、焼けるような痛みが走り俺は思わず声を上げた。




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