【完結】短編 LESSON

２

「矢神さん、もっと足開いて」
「やっ、見る……な」

俺は浴室の壁に手をついてお尻を突き出していた。

「指、一本全部入ってますよ。ほら、分かりますか？」

結城はアナルの中で人差し指を円を描くように動かす。

「そんな、に、動か……すなよ」
「でも動かさないと中は洗えないですよ。もう少し広げないと」

石鹸がついているとはいえ感じたことのない異物感にアナルに力が入ってしまう。

「きゅうきゅう締め付けてくる。もっと力を抜いて下さいよ」
「そんな、こと、言った、って」
「仕方ないな」

結城はそう呟くと俺のペニスを掴んだ。

「やだっ、どうしてまた」
「だって何度言っても矢神さん、力を抜けないじゃないですか。なら、強制的に抜かせるしかないでしょ」

石鹸のぶん、さっきよりも滑りのよい手が俺のペニスを上下する。

「あ……あぁ……くっ」
「クス、こらえている矢神さんってそそりますね」
「何言って……あぁ、やだぁっ」

ほんの少し異物感が薄れたと思ったらまた大きな異物感。二本の指が出たり入ったりして、俺は試練を乗り越えるかのような気持ちになった。

「ほら、ほら、力抜いて」

萎え始めたペニスをまた擦られ、俺の体はどちらの感覚を優先すべきか戸惑い、なんとも言えない刺激だけがリアルだ。

「抜きますよ」
「あ……はぁ……ううっ」

ぬるん、と指が引き抜かれる感触にホッとするとアナルに温かいシャワーが当てられる。先ほどまで指を飲み込んでいたソコは結城の手で広げられれば簡単にお湯を飲み込む。

「やだぁ、入ってくる。はいって」
「クスクス、すぐ出ていきますよ」

結城がシャワーを外せば、ポタポタと内腿をお湯が滴る。まるでお漏らしでもしているようで、手で口元を押さえた。

「矢神さん、可愛い」

なっ！

腕を掴まれて結城と視線を合わせた瞬間、キスされた。役柄というわけでもないこの状況。結城のシャツにシャワーがかかって結城が濡れる。鍛えられた筋肉が白いシャツから浮かび上がって、今まで見たどんな女よりもエロいと思った。


結城から与えられる唾液を必死に飲み込み、欲望のまま結城の舌を追いかける。空気を求めて少し離れるとゾクッとするほど欲望に満ちた結城の目に捕らわれた。

「もう無理」

結城の言葉が理性を吹き飛ばした。

濡れた結城の服を強引に脱がせ風呂場に服が散らかる。キスを繰り返し、お互いの体に触れながら何となく体を拭き、まだ乾かない体のままベッドにもつれ込んだ。

「結城……」

俺に馬乗りになる結城の裸体に、驚くほど惹きつけられる。結城が舌で口の端を舐めた時、俺は捕食される側なんだと覚悟した。

「俺の、舐めてくださいよ」

結城のペニスが俺の口の前に来る。他人のモノのこんなに至近距離で見るのは初めてだ。ましてやこれを舐めるなんて。

「晃ならやりますよ」

なんて挑戦的な目だ。結城のペニスは赤黒くそそり立ち血管を浮き上がらせている。舌を出して迎え入れると、結城のペニスがドクンと脈打ったのが分かった。

「っ……んっ……」

首を使って上下に動かす。どう扱って良いか分からない代物が口の中一杯になって、息を吐くたびに声が漏れた。

「それ、わざとやってます？」

ペニスを口の中に入れたまま結城を見上げると、結城がごくっと喉を鳴らした。そして俺の口からペニスを引き抜くと資料として用意していたローションを手に零した。

「ここから、ですよ」
「ひゃっ、あ、あ」
「さすがローション。石鹸の時よりスムーズに飲み込んでますよ。それとも、矢神さんが上手になったのかな？」

「ば……かっ」

洗浄の時は内部を広げるだけの行為だったものが今は明確に快楽を与えようとする動きになっていた。

結城はどういうつもりなのだろう。本当に演技の為だけでこんな……。

「あぁっ……」
「顔、隠さないでくださいよ。ちゃんと俺に見せて」

そんなことを言われても、はいどうそ、なんていう気にはとてもなれない。全裸で性器を晒して、アナルに指を入れられ、かき混ぜられている。そんな時の表情など、見られたいわけがない。
３本目の指がアナルに挿入された時には両手で顔を覆ったまま、俺は荒い息を吐いていた。

「入れますよ。結城さんのココに俺の」
「ハァ……本当に入れるのか？」
「矢神さんの役者魂に俺は感動してますよ」

「や……ひぃっ」
「ほら、さっきと一緒ですよ。力、抜いて」

ググっと当てられたソレを拒否していたアナルは結城が俺に口づけた瞬間に綻んだ。

「あっ……んんっ」
「こっちに集中して」

痛み、強い圧迫感から逃れるように結城の首に手を回してその唇を貪った。それでも結城が突き進む痛みに体が強張る。

「矢神さん、目、開けて。ほら」

結城の手が俺の頭を撫でる。ゆっくり目を開けると至近距離に結城の顔があった。

「やっと俺を見た。全部入りましたよ。今、俺、矢神さんの中にいます」

「……はぁ、マジか」
「ぷっ、マジかって。……キスしても良いですか？」

「散々したくせになんで今更聞くんだよ」
「いいよって言って欲しくて」

「へんな奴」

いいよ、とは言わないまま、どちらからともなく唇を重ねた。

「動きますよ」
「うん」

質量感のあるものが抜けてゆっくり入ってくる。また抜けて、侵入してくる。結城とセックスをしている、その事実に頭がどうにかなりそうだ。

「痛いですか？」
「痛いというか……ちょっと苦……し……んんっ」
「ちょっと待っててください。すぐ良くしますから」
「良く……する、って……あぁっ、深っ」

結城が挿入を深くする。内部をえぐる様に、かき混ぜるように動かして俺の内部を余すことなく突いた。

「ひゃっ……な、ん、あぁっ！やぁっ」

「くすっ、場所は分かりましたから、ここからはゆっくり気持ち良くなりましょうか」

動きを止めた結城が静かにほほ笑んだ。




ぬちゅ、ぬちゅう。

「あぁ……あ……」

ぬちゅう、ぬちゅう。

とてもイケそうにないような緩い快楽がずっと与え続けられている。緩い快楽が熱となり体に蓄積され、結城が触れる全てが気持ちいい。結城は俺の体を撫でまわすかのように首筋から乳首へ、乳首からお臍へ、腰骨を撫でる。

「ゆう……いつまで……はぁ……こんなん」
「さぁ、いつまででしょうか。こうして快楽に飲み込まれている矢神さん、素敵ですよ。ずっと見ていたいくらい」
「あぁん、あん……はぁ……あンっ」

「声、止まらなくなりましたね。そろそろイキたいですか？」
「イキた……い。ゆう……も、イカ、せて」
「やばいな。あの矢神さんが俺に突かれてこんなによがるなんて。ずっと見てたんですよ、あなたを。」

ぬちゅう、ぱんっ。

ぬちゅう、パンっ。

「あぁっ、や、すごっ、あぁっ」

ゆっくり引いて深く打ち付けられ、体に電気の様な快楽が走る。イカせて欲しいと言ったのに、まだイカせてくれない。

「もう１時間は繋がってますね。これ、スローセックスって言うんですよ。時間をかけてゆっくり体に快感を教え込むんです。どこもかしこも気持ちいいでしょう？」

コクコクと頷いた。もう限界だった。

「お、ねがあぁんい、も、むり。あぁ、あんっ」
「ですね、そろそろ一緒にいきましょうか」

「ヒィッ、ああっ、きゅうにっ、はげしっ、あああっ」

最奥へ突き進むかのように突かれ、いくつもの電流がスパークする。きもちいい、きもちいい。伝わってくる感覚はそれだけで唾液を飲み込むことを忘れて腰を揺らした。

「ゆうっ……あぁあっ！！」

突きぬけるあまりの快楽に体が反り、腰が浮き上がって震えた。何度もビクンビクンとペニスが痙攣し、全て出し切ったような脱力感。脱力感を感じながらも尚、快楽が俺を包んでいた。



「気持ちよかったですか？」
「……うるさい。早く抜けよ」

俺は結城から逃れるように横を向いて、ふと気が付いた。

「お前、なんか慣れてないか？　最初から気持ちいいなんて、そんなこと……」
「へぇ、気持ち良かったんですか」

結城はニヤリと笑った後、俺の耳元で「俺、恋愛対象は男なんで」と囁いた。


「お前、練習なんかいらないじゃないかーっ！！」

くくくくっと肩を揺らせて笑う結城を放置して、俺はふて寝した。




こんなの、現実逃避でもしなきゃやってられん。