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「俺のこと好きですか?」
「まだ分からない」
「じゃあ、色々と試してみましょうよ。そしたら、好きかどうか分かるかも」
優斗の顔が間近に迫り、晃は目を閉じた。優斗の唇が晃の唇に重なる……直前、俺は片手を自分の唇に、もう片手は結城の肩に置いてその体を押した。
「キスは必要ないだろ。お互いやりなれてるし。そこは同性も異性も変わらないと思うけど」
「……確かに、それもそうですね」
ここは都内にある高級マンション。俺の自宅だ。今日はここで来月に撮影が始まるBLドラマの演技練習をしている。事の始まりは一週間前に遡る。
5歳から子役として俳優の道を歩み始めた俺は23歳になるとその演技力を高く評価されるようになっていた。矢神高大に主演をさせればドラマは必ずヒットすると言われるほどだ。数々のドラマに出演すること20年、そろそろ少し違った役にも挑戦したいと思っていた時に舞い込んできたのがBLドラマの主演だった。
「出演依頼があったら必ず受ける」役の幅を広げる為に俺が常に心掛けてきたこと、俺は二つ返事で了承した。だがひとつ問題があった。男同士の恋愛、濡れ場に対する知識を入れることが出来ても感情が分からない。演じるならば中途半端は嫌だ。そう思っていた俺に声をかけてきたのが俺の相手役、結城拓也だ。
「矢神さん、もしよかったら練習しませんか?俺、男同士の恋愛って良く分からなくて」
「そうだな。俺もちょっと良く分からなくて困ってたんだ。作るならいいものを作りたい」
「じゃあ、決まりですね」
結城は少し長めの髪の毛を耳にかけてほほ笑んだ。
そして冒頭に戻る。
「この後は優斗が晃を押し倒して首筋にキスをしながらシャツのボタンをゆっくり外す。その先はフリーになってますね」
脚本を確認して結城が言う。同じ様に俺も脚本を読んだ。
「優しく丁寧に、か。俺はどう反応すればいいんだろう」
「とにかくやってみましょう」
「だな」
優斗が俺を押し倒す。俺に跨って顔を見つめたままシャツのボタンを二つ外した。優斗が薄く開けた口の間から舌が見える。
へぇ、結城ってセックスする時、こんな感じで押し倒すんだ。
結城は今年、抱かれたい男No.1、恋人にしたい男No.1、国宝級イケメンランキングNo.1と数々のランキングの1位を独占した最も勢いのある23歳の若手俳優だ。長めの髪の毛を後ろでひとつに結び、切れ長の二重、178センチの身長、儚げな王子様というよりは細マッチョなワイルド系だ。
対して俺は172センチの身長にサラサラの黒髪、色白の肌と猫目。人懐っこそうな笑顔がチャームポイントらしい。
結城の舌が首の皮膚を舐める。驚きと感触に筋肉がピクっとなった。結城はそのまま俺の首筋にキスを繰り返しながら鎖骨へと移動していく。その間も俺のシャツのボタンを外す手は止めない。
この先は台本にはない。どうするのだろう。
えっ……。
結城の手がシャツの下をくぐり俺の胸に触れる。俺の胸を包むように手を広げると親指で乳首の輪郭をなぞった。
「どうですか?」
「どうって……」
そこまで言ってこれは演技で俺は晃なんだと思い起こす。
「……よく分からない」
「じゃあ、これは?」
優斗が親指の爪で俺の乳首を弾いた。
「あっ……」
思いがけない刺激に声が出る。優斗は俺のシャツをはだけさせ両方の乳首をつまみ、親指の腹で転がす。言いようのない刺激に胸を突き出すようにして体が動いてしまう。そんな俺を優斗がじっと見つめていた。
恥ずかしい。
その視線に煽られて俺の体の中心に熱が集まっていく。優斗から見えない位置にあるそれさえも見透かされそうな気がして、俺は思わず体を起こした。
「ちょっと、待って。ストップ。なんでそんなに見るんだよ。もっとこう、サクサクッと進んでいくんじゃないの?」
「俺なら、好きな相手がどんな反応してどんな顔をするのか見たいって思うんですけど、おかしいですか?ってか、矢神さんってサクサクッとセックスするタイプなんですか?」
うっ……。確かにそうだ。
性的なものは割と淡泊な方で、女性とセックスしても早く終わらせることに専念してしまう。それが原因で振られたこともあるくらいだ。
「いや、そういうわけでは……。まぁ、確かに。そうだよな。反応知りたいと思う」
「じゃあ、いいですよね? 続けますよ?」
結城は意味ありげに口角を上げた。
優斗は俺の胸を包むようにすると親指で乳首を弾く。
またここからか……。
この後は両手で乳首をつまむ。次の行動が分かるということは準備ができるということだ。く、来るっ。
「あぁっ」
さっきより大きな声が上がって、恥ずかしさのあまり優斗から顔を反らした。
「こっち見て。晃の感じてる顔、見たい」
なっ、さっきと違う。
俺の反応が変われば相手の反応が変わるのは当たり前だろう。落ち着け、俺。これでは、結城の演技に飲まれてしまう。
「やだ。恥ずかしいし……」
「だーめ」
優斗は俺の顔を掴むと自分の方を向かせた。
「顔、赤くなってる。触られるの嫌じゃない?」
「嫌じゃ、ない」
「嬉しい」
優斗の唇が重なる。
キスはしないってさっき言ったのに!
塞がれた唇でそんな言葉を言えるはずもなく、角度を変えて何度も何度も口づけられる。舌が挿入され舌の裏側を撫でられた時、内側に灯った火が震えた。
「ん……」
優斗の唇が少し離れる。伏せていた目が開かれ俺を見た。そして手は俺のベルトを外しにかかる。カチャカチャとベルトを外す音が思っていたよりも大きく響き、俺は思わず手を止めた。
「それ以上は、ちょっと」
「今の言葉は晃の言葉?それとも矢神さんの言葉ですか?」
どちらだろう。どちらの言葉かと思考をめぐらせた瞬間だった。
「あぁっ」
嘘。嘘だろ?
俺のペニスにあり得ない温もりを感じた。つるっとした頬の裏側で亀頭を撫でて、その温もりは俺のペニスを吐き出し、また飲み込む。
「あ……んん……」
結びきれなかった結城の髪の毛が俺の腹を擽り、その背後に見える形の良い唇が俺のペニスを咥えている光景。視覚に犯される。
「結城……ここまで……ハァ、しな、くても」
「男にされるってどんな感じですか?」
「あぁっ」
結城に強く先端を吸われ、思わず腰が浮く。
「答えるまでもないってかんじですね」
舌と唇、頬を使って結城が俺のペニスを刺激する。そのうち、手が加わり竿を上下に抜かれ腰が揺れた。
気持ちいい。
脳内にその言葉しかない。気持ち良くてその快感に浸かりたくて体が震えた。
「イクっ、あぁっ!!」
腰を二度強く打ち付けて精を放つ。とんでもない解放感だった。
「やばっ。結城、ごめん。出して。うがい、あ、うがいか!洗面所!!」
慌てる俺とは裏腹に結城は澄ました顔で俺を見る。そしてこともあろうに、俺が出したものを、音を立てて飲んだ。
「え……」
「だって、好きな相手のものなら飲むでしょ。俺、今回の役に真剣なんで」
それは俺のプライドを刺激するには十分な言葉だった。
「矢神さん、洗浄って知ってます?」
「うん、ネットで調べた」
「やったことは?」
「まだない」
結城と視線がぶつかった。妙な間があく。
「まさか……」
「俺、この役、真剣なんで」
勇気はまた意味ありげに口角を上げた。
くそっ。
「分かったよ。やればいいんだろ、やれば!」
風呂場に向かう俺の後ろを結城がついてくる。
「なんでついてくるんだよ」
「俺も手伝いますよ」
「はぁ?そんなシーンないだろ?」
「矢神さんともあろう方が、演技のシーンだけの練習でいいと思ってるんですか? 台本にない部分にもキャラクターたちの日々はあって、それが各シーンに繋がるんだって矢神さん、雑誌のインタビューで答えてましたよね?」
この時初めて俺は、結城拓也の本当の性格を垣間見た気がした。
「まだ分からない」
「じゃあ、色々と試してみましょうよ。そしたら、好きかどうか分かるかも」
優斗の顔が間近に迫り、晃は目を閉じた。優斗の唇が晃の唇に重なる……直前、俺は片手を自分の唇に、もう片手は結城の肩に置いてその体を押した。
「キスは必要ないだろ。お互いやりなれてるし。そこは同性も異性も変わらないと思うけど」
「……確かに、それもそうですね」
ここは都内にある高級マンション。俺の自宅だ。今日はここで来月に撮影が始まるBLドラマの演技練習をしている。事の始まりは一週間前に遡る。
5歳から子役として俳優の道を歩み始めた俺は23歳になるとその演技力を高く評価されるようになっていた。矢神高大に主演をさせればドラマは必ずヒットすると言われるほどだ。数々のドラマに出演すること20年、そろそろ少し違った役にも挑戦したいと思っていた時に舞い込んできたのがBLドラマの主演だった。
「出演依頼があったら必ず受ける」役の幅を広げる為に俺が常に心掛けてきたこと、俺は二つ返事で了承した。だがひとつ問題があった。男同士の恋愛、濡れ場に対する知識を入れることが出来ても感情が分からない。演じるならば中途半端は嫌だ。そう思っていた俺に声をかけてきたのが俺の相手役、結城拓也だ。
「矢神さん、もしよかったら練習しませんか?俺、男同士の恋愛って良く分からなくて」
「そうだな。俺もちょっと良く分からなくて困ってたんだ。作るならいいものを作りたい」
「じゃあ、決まりですね」
結城は少し長めの髪の毛を耳にかけてほほ笑んだ。
そして冒頭に戻る。
「この後は優斗が晃を押し倒して首筋にキスをしながらシャツのボタンをゆっくり外す。その先はフリーになってますね」
脚本を確認して結城が言う。同じ様に俺も脚本を読んだ。
「優しく丁寧に、か。俺はどう反応すればいいんだろう」
「とにかくやってみましょう」
「だな」
優斗が俺を押し倒す。俺に跨って顔を見つめたままシャツのボタンを二つ外した。優斗が薄く開けた口の間から舌が見える。
へぇ、結城ってセックスする時、こんな感じで押し倒すんだ。
結城は今年、抱かれたい男No.1、恋人にしたい男No.1、国宝級イケメンランキングNo.1と数々のランキングの1位を独占した最も勢いのある23歳の若手俳優だ。長めの髪の毛を後ろでひとつに結び、切れ長の二重、178センチの身長、儚げな王子様というよりは細マッチョなワイルド系だ。
対して俺は172センチの身長にサラサラの黒髪、色白の肌と猫目。人懐っこそうな笑顔がチャームポイントらしい。
結城の舌が首の皮膚を舐める。驚きと感触に筋肉がピクっとなった。結城はそのまま俺の首筋にキスを繰り返しながら鎖骨へと移動していく。その間も俺のシャツのボタンを外す手は止めない。
この先は台本にはない。どうするのだろう。
えっ……。
結城の手がシャツの下をくぐり俺の胸に触れる。俺の胸を包むように手を広げると親指で乳首の輪郭をなぞった。
「どうですか?」
「どうって……」
そこまで言ってこれは演技で俺は晃なんだと思い起こす。
「……よく分からない」
「じゃあ、これは?」
優斗が親指の爪で俺の乳首を弾いた。
「あっ……」
思いがけない刺激に声が出る。優斗は俺のシャツをはだけさせ両方の乳首をつまみ、親指の腹で転がす。言いようのない刺激に胸を突き出すようにして体が動いてしまう。そんな俺を優斗がじっと見つめていた。
恥ずかしい。
その視線に煽られて俺の体の中心に熱が集まっていく。優斗から見えない位置にあるそれさえも見透かされそうな気がして、俺は思わず体を起こした。
「ちょっと、待って。ストップ。なんでそんなに見るんだよ。もっとこう、サクサクッと進んでいくんじゃないの?」
「俺なら、好きな相手がどんな反応してどんな顔をするのか見たいって思うんですけど、おかしいですか?ってか、矢神さんってサクサクッとセックスするタイプなんですか?」
うっ……。確かにそうだ。
性的なものは割と淡泊な方で、女性とセックスしても早く終わらせることに専念してしまう。それが原因で振られたこともあるくらいだ。
「いや、そういうわけでは……。まぁ、確かに。そうだよな。反応知りたいと思う」
「じゃあ、いいですよね? 続けますよ?」
結城は意味ありげに口角を上げた。
優斗は俺の胸を包むようにすると親指で乳首を弾く。
またここからか……。
この後は両手で乳首をつまむ。次の行動が分かるということは準備ができるということだ。く、来るっ。
「あぁっ」
さっきより大きな声が上がって、恥ずかしさのあまり優斗から顔を反らした。
「こっち見て。晃の感じてる顔、見たい」
なっ、さっきと違う。
俺の反応が変われば相手の反応が変わるのは当たり前だろう。落ち着け、俺。これでは、結城の演技に飲まれてしまう。
「やだ。恥ずかしいし……」
「だーめ」
優斗は俺の顔を掴むと自分の方を向かせた。
「顔、赤くなってる。触られるの嫌じゃない?」
「嫌じゃ、ない」
「嬉しい」
優斗の唇が重なる。
キスはしないってさっき言ったのに!
塞がれた唇でそんな言葉を言えるはずもなく、角度を変えて何度も何度も口づけられる。舌が挿入され舌の裏側を撫でられた時、内側に灯った火が震えた。
「ん……」
優斗の唇が少し離れる。伏せていた目が開かれ俺を見た。そして手は俺のベルトを外しにかかる。カチャカチャとベルトを外す音が思っていたよりも大きく響き、俺は思わず手を止めた。
「それ以上は、ちょっと」
「今の言葉は晃の言葉?それとも矢神さんの言葉ですか?」
どちらだろう。どちらの言葉かと思考をめぐらせた瞬間だった。
「あぁっ」
嘘。嘘だろ?
俺のペニスにあり得ない温もりを感じた。つるっとした頬の裏側で亀頭を撫でて、その温もりは俺のペニスを吐き出し、また飲み込む。
「あ……んん……」
結びきれなかった結城の髪の毛が俺の腹を擽り、その背後に見える形の良い唇が俺のペニスを咥えている光景。視覚に犯される。
「結城……ここまで……ハァ、しな、くても」
「男にされるってどんな感じですか?」
「あぁっ」
結城に強く先端を吸われ、思わず腰が浮く。
「答えるまでもないってかんじですね」
舌と唇、頬を使って結城が俺のペニスを刺激する。そのうち、手が加わり竿を上下に抜かれ腰が揺れた。
気持ちいい。
脳内にその言葉しかない。気持ち良くてその快感に浸かりたくて体が震えた。
「イクっ、あぁっ!!」
腰を二度強く打ち付けて精を放つ。とんでもない解放感だった。
「やばっ。結城、ごめん。出して。うがい、あ、うがいか!洗面所!!」
慌てる俺とは裏腹に結城は澄ました顔で俺を見る。そしてこともあろうに、俺が出したものを、音を立てて飲んだ。
「え……」
「だって、好きな相手のものなら飲むでしょ。俺、今回の役に真剣なんで」
それは俺のプライドを刺激するには十分な言葉だった。
「矢神さん、洗浄って知ってます?」
「うん、ネットで調べた」
「やったことは?」
「まだない」
結城と視線がぶつかった。妙な間があく。
「まさか……」
「俺、この役、真剣なんで」
勇気はまた意味ありげに口角を上げた。
くそっ。
「分かったよ。やればいいんだろ、やれば!」
風呂場に向かう俺の後ろを結城がついてくる。
「なんでついてくるんだよ」
「俺も手伝いますよ」
「はぁ?そんなシーンないだろ?」
「矢神さんともあろう方が、演技のシーンだけの練習でいいと思ってるんですか? 台本にない部分にもキャラクターたちの日々はあって、それが各シーンに繋がるんだって矢神さん、雑誌のインタビューで答えてましたよね?」
この時初めて俺は、結城拓也の本当の性格を垣間見た気がした。
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