【完結】短編 寄り添うカタチ

SAI

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「動くよ」

腰が引かれてゆっくりと戻ってくる。バイブよりも暖かくて、硬いのに柔らかい。隆之が腰を進めるたびに襲う圧迫感が、俺がセックスをしているんだということを思い知らせた。

せんぱ……い、せんぱ……い。

意味さえ分からずに何度も先輩を呼ぶ。思考の隙間があれば呟いてしまうのはこの7年間の癖のようなものだ。

「何考えてる?」

ローションが中に馴染んで、ぬちゅう、ぬちゅうと音をさせながら隆之が俺の手をどかした。すっかり力の抜けた手はあっさりと除けられ、ぽろぽろと涙の止まらない俺の顔が露出する。

もうどうなっても構わないと思った。目の前の男にどう思われても、嫌われてもいい。今、俺の中にあるのは大きな空洞と自虐心だ。

隆之の問いに答えられるだけの力が無くて、微かに笑った。

「そんなに忘れられない?」

瞬きを一回したらまた涙が零れて、髪の毛が冷たい。おいで、という言葉と同時に腕を引っ張られて繋がったまま隆之の膝に座る。背の低い隆之に背の高い俺が座るから変な感じだ。

「どんな人だったの?」

どんな……忘れたいのに、隆之の言葉でありありと先輩の姿が浮かんだ。

「俺より二歳年上で、俺と同じくらいの身長で……ぐす……子供みたいに笑う、ひと」

ゆるゆると腰を動かされて悲しいのに気持ちいい。涙が止まらないのに優しい気持ち良さが続く。

「俺、友達作るのとか、下手で……さ、大学に入学しても、結構、一人でいて……うぅ……そんな時にサークルに誘ってくれた」

ぬちゅ、ぬちゅとイヤラシイ音が聞えているのに、真面目に先輩の話をしているのが不思議だ。

「俺が……馴染めるように……良くしてくれて……お礼を言うと、何が? って……」

「へぇ、いい奴なんだな」

先輩を認めてくれたことが嬉しくて何度も頷いた。

「好きなんだな」
「好き……好きだ……んっ」

先輩への想いを吐露した瞬間に口づけられて言葉を失った。押し倒されて体を反転させられ動物が繋がるみたいに突き上げられる。先輩にこんな風に愛されたかった、好きだと伝えたかった。

「ああっ、あっ、いやっ、ああっ、先輩っ、先輩っ、好きだ、好き、ああっ」

そのまま一気に昇りつめ待ったもなく精を吐き出した。シーツを握りしめたまま粗い息を吐き出す。何も言わない隆之が気になって振り返ると、分かりやすくムスッとした顔をした隆之が目に映った。

隆之は誰かの代わりなんて嫌だと言っていたはずだ。代わりにしたつもりは無かったけど、セックスの最中に他の男の名前を呼びながらイクって……。

「あ、ごめ、あの、その」
「涙は止まったかよ」

言われて目じりを拭う。涙の痕はあるものの確かに新しい涙は流れていなかった。

「止まった……みたい」
「ふん、溜め込むからそんなことになるんだよ」

  正常位で隆之が俺を見下ろした。表情とは裏腹、にこりともしないのに優しいキスをする。ぴちゃ、ぴちゃと濡れた音が耳を掠めて、片足だけを高く上げられたまま貫かれた。苦しい体勢に快楽の火花が散る。

「ひゃあんっ、ああっ、あっ、あっ」

こんな角度なんて知らない。自分で何度も擦った場所とは違うラインをペニスで擦られて、たまらずに腰が引けた。

「逃げるなよ」
「あああっ!!」

ずちゅ、ずちゅ、ずちゅ
さっきよりずっと重い音がしている。いやらしいだけじゃなくて、俺の中にある余計なものを押し出すかのように深い。

「あ、ああ、たか、ゆき」
「いいね、それ。もっと俺の名前を呼んでよ。そうやって康介の中に俺を刻み付けて」

「ああっ、たかゆきぃ、いきそ……」
「いいよ、一緒に」
「ひゃあっ」




「あーぁ、こらえ性の無いやつ」
「……悪い」

隆之が一緒にと言った瞬間に俺はこらえ切れずに精を吐き出していて、一緒じゃなかったことが面白くなかったらしい隆之がむぅっと口を尖らせた。

「でも、気持ち良かった……よ?」
「そりゃそうだろうよ」

恥ずかしさを堪えた精一杯の褒め言葉にもあっさりとした返事だ。意外とコイツ、子供っぽいかも……。

「何笑ってんだよ。そうだ、今日のって24時間なんだろ? まだ14時半だし、一緒に飯でも作ろうぜ」

「14時半……」
「なんだよ、おでこなんか押さえて」

出会って1時間半後にはセックスも終わり脱処女完了って俺……。



 冷蔵庫を開けて「何もねぇ」と呟いた隆之の提案で買い物に出かけ家に戻ってきた頃には16時になっていた。16時……。もう30分もすれば式が始まる。

「キッチン使っていい?」
「あ、うん」

あー、とか、うーとか、マジかよとか、色んなつぶやきが聞こえたのちに規則正しく野菜を刻む音がして隆之の背後から覗き込んだ。

「料理、慣れてる」
「そ、俺、料理人志望だから。てか、背が高いって便利だな」

隆之は包丁をまな板に置くとその手で俺の胸倉をつかんでキスをした。軽く触れるだけのキス。隆之はまるで恋人の様に振舞ってくれる。買い物の時もそうだ。

 昼間、人の目があるというのに隆之はためらうことなく俺の手を握った。

「ちょっと、昼間だけど……こんなの目立つよ」
「いいよ、言いたい奴には言わせておけばいい」

俺は自分の性癖は出来れば隠したい方だ。それでもギュッと握られた手を振りほどかなかったのは隆之の手が温かくて寂しさが薄れたからだ。

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