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第四章
31. 愛しき再会
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クァーーォ!!
甲高い声で遠吠えのように長く鳴くと魔獣は地面の感触を確かめるかのように足をドンドンと鳴らした。二足歩行、身長は私と同じくらいで手の長さは膝くらいまである。目は細長く、それに反して耳が大きい。
「オーヴェルとユーリスア、二つの国が滅びるのとあなたが死ぬのとではどちらが早いのかしら?」
ローザが呑気に話す声が聞こえる。
「・・・どうせ皆滅びるというのなら、急いでライファを殺す必要などないでしょう?こんなことに労力を使わず、放っておいてはどうですか?」
「ニコラウス、黙りなさい。これはあなたへの罰でもあるのよ。私を裏切ったあなたへのね。」
ローザの結界の中に魔獣と共に閉じ込められた。最初、魔獣は結界の外に出ようと走り出したが結界にぶつかり何度か試したところで、今ではこの結界の外には出られないと悟ったようだ。そして今、魔獣の目が私を捉えている。
「ベル、私から離れて。きっと魔獣は私を狙うはず。」
ベルは心配そうに小さな声でキュッと鳴いた。
「大丈夫。なんとかするから。」
そう言いながら魔獣から視線を逸らさずにベルを撫でると、ベルは了承したようにサッと飛び立った。どんな魔獣なのか知っていれば対策が打てるのに、ローザが交配した魔獣となれば魔獣に対する情報はゼロだ。
どんな特製を持った魔獣なのか、少しでも情報を得ないと。ここで死ぬわけにはいかない。
結界の外、オーヴェルとユーリスアの状況を映している鏡から、おぉっというような微かな喜び、希望、そんなものを感じるような声が聞こえた。魔獣から視線を逸らすわけにはいかない。今の声が良い風が吹き始めた希望の声でありますように、と願う。
「人の心配をする余裕があって?」
その言葉を合図にしたかのように魔獣が手を上げた。魔獣がその手を勢いよく振り落としたのを見て、咄嗟に右側に飛び込むように体を避けた。
カシャン、カシャカシャカシャン
先ほどまで私がいた場所に20cm程の長さの針のようなものが音を立てて落ちた。
氷!?この魔獣、体から氷を出すことが出来るのか。そういえば魔獣が出てきた部屋が空いた時、冷気が流れてきた。冷たい地域に住む魔獣ということか。魔獣が歩くたびにカチャカチャと爪が床にぶつかる音がする。本来ならその爪が凍った場所を歩く滑り止めの役目を果たすのだろう。
爪、長くて鋭いかもしれない。蹴ってくるようなら要注意だ。
魔獣が両手を振り回し、鋭い氷柱が次々と私を襲う。辛うじて避けられているものの服が破け、腕のあちこちがヒリヒリとした。
クオック
魔獣は小さくひと鳴きし、今度は床に両手をつく。魔獣が目を見開いた瞬間、床が凍り始め波のように私の元まで来た。自身の足も床と一緒に凍らないように、氷の波を軽くジャンプして飛び越える。床はさながら氷の湖のようになっていた。魔獣は立ち上がるとすぐさま氷柱を飛ばした。
「くっ・・・。」
魔獣が飛ばした氷柱を避けきれずに左腕に氷柱が突き刺さった。足が滑って踏ん張りが利かない。動きがワンテンポ遅れてしまう。
不味いな・・・。
姿勢を低く滑る様に氷柱をかわしながら小弓を取り出し眠り玉を撃った。弾が魔獣に当たるより先に魔獣の前に氷の壁が現れ、眠り玉は氷の上に散った。
「ダメか・・・。」
冷静に、観察するんだ。
「こんなに力の差は歴然だというのに、まだ諦めないのねぇ。」
ローザの声が聞こえたが今はそれどころじゃない。魔獣の動きに集中する。私が動くたびに魔獣の耳がピクピクと動く。動きを目で追うというよりも音で判断しているのかもしれない。動く時に音が出ないように動くか。いや、それは不可能だ。むしろ、余計な音に紛れてしまえばいい。背中のリュックに脇から手を差し込むと水筒を取り出した。そこに落ちていた氷の欠片を入れる。
「ぐあっ!」
先ほど受けた傷の脇にもう一本氷柱が刺さった。左腕に激痛が走る。だが、痛がっている時間は無い。歯を食いしばったままリュックから収縮鍋を取り出すと元の大きさに戻し、そこに水筒をいれて鍋に魔力を与えた。鍋は水筒を炒めるような動作を繰り返し、その度にガランガランと大きな音を立てた。水筒の中に入っている氷もカラカラと鳴っている。
その装置を3か所に設置した時、魔獣は苛正しそうに耳をピクピクとせわしなく動かし、鍋に魔力を放った。鍋が大きな音を立ててひっくり返る。その鍋を魔法で元に戻しながらリュックを漁ると使い慣れた突起に手が当たった。
これは使えるかもしれない。
取り出したのはサワンヤを擦りおろす時に使うおろし金だ。これを魔法で靴底に接着すれば動きやすくなるはずだ。ガチャガチャと絶えず鳴る音に苛々した様子の魔獣が次々と氷柱を放ったが、あらかた避けることが出来た。足に張り付けたおろし金のお蔭でだいぶスムーズに動けるようになった。
ググググ、グォー!!!
氷柱は当たらない、音は絶えずうるさい。苛々の沸点を超えたのか魔獣が甲高い声を上げた。平静を失っている今がチャンスだ。右足のおろし金で床を蹴り、氷柱を避けながら左足で滑るようにして魔獣との距離を縮めた。
魔獣は飛びのいて距離を広げながら左手を私に向けると、凍てつくような強風を放ち風に押されて私の体が下がる。咄嗟に左に移動し、風の軌道から外れ更に魔獣を追いかけた。眠り玉を撃つ。魔獣は壁を作ることもなく、自身に結界を張って回避した。
今だ!
私は素早くウニョウ玉を装填し放った。魔獣は先ほどと同じように結界を張ったがウニョウ玉は自身に結界を張ったところで回避できるものではない。ウニョウが魔獣の足元に絡みつき、魔獣が派手に転んだ。同時に魔獣の結界が解ける。
よし!このまま魔獣に眠り玉を撃ち込めば倒せる。
そう思い眠り玉を装填した時、おろし金が足から外れ痛めている腕から転んだ。
くっ、魔力切れか。
そのほんの一瞬の出来事だった。冷っとした気配に顔をあげると目前に魔獣が立っていた。時間がゆっくりと流れる。
さすが魔力ランク7。あの僅かの瞬間にウニョウを解除したのか・・・。魔獣が私に向かい手をかざす。私に致命傷となる一撃を放とうとしているのは明白だった。
ここで死ぬのか・・・。
もう一度、レイに会いたかったな。
「やめろ!!」
ニコラウスさんが結界の中に入ろうと結界に魔力をぶつけているのが分かる。その隣でローザが天井を見上げていた。魔獣の手に魔力が集まっていく。ベルの引き裂かれるかのような鳴き声が聞こえた。ここまでか。
バキバキバキバキ!!
大きな音と共に天井に穴が開き、崩れた天井の破片が粉の様に舞った。魔獣も呆然と天井を見つめている。
「ライファ!!」
空から降りてきた人物が一撃で魔獣を仕留め、私に手を伸ばした。その姿に体中が叫び出す。
「レイっ・・・!!」
私が伸ばした手をレイがしっかりと掴んでそのまま私を抱きかかえるようにした。
「ライファ、よく頑張ったね。もう、大丈夫だから。」
私を安心させるように微笑んだレイは私の良く知っているレイの表情だ。
「ライファ、これを飲んでいろ。よくやったな。」
師匠が私にヒーリング薬を渡し、頭を撫でてくれる。レイに師匠にグショウ隊長、再び会えたことが嬉しくて心強くて涙が溢れそうだ。
「師匠、ニコラウスさんを助けてください。計画を成功させるために青の薬を飲んだの。」
「チッ、邪魔な魔女どもめ。ニコラウスなどもう死んだも同然よ。」
言い終わらないうちにローザの指が白く光りニコラウスさんに向けて魔力を発射した。同時に師匠は足を上下に大きく開いて前かがみになると腕を下から振り上げた。
「フッ。」
軽く笑うような師匠の声。師匠が振り上げた腕からは鎌のような魔力が飛び出し、ローザの魔力を撥ね飛ばした。その隙にグショウ隊長がニコラウスさんを抱えてこちらに戻る。
「ライファ、その男にこれを飲ませろ。解毒薬だ。」
師匠はそう言って丸い形をした解毒薬を私に渡した後、ローザに向き合った。
「自己紹介は必要か?」
師匠がローザの気を引いている背後でグッタリと横たわるニコラウスさんに触れた。
「ニコラウスさん、しっかりしてください!解毒薬です。これを飲んで。」
ニコラウスさんの口の中に丸い解毒薬を入れた。解毒薬は小さな水風船のような作りになっているらしい。薄い膜の中に液体が揺れている。ニコラウスさんは焦点の定まらない目で天井を見上げながらなんとか口を動かそうとするが僅かに震えるばかりで、飲み込むどころか薄い膜を割ることさえ出来ないでいた。
手で膜を壊してもいいが上手く呑み込めるかさえ不安だ。
「すみません。」
そう言葉にすると私は自分の口でニコラウスさんの口を塞いだ。ニコラウスさんの口の中にある解毒薬に舌で触れ、位置を確認すると繋がりを深めて歯で膜を噛み切った。口の中に広がる苦味。
飲んで。お願い、飲んで。
願うもニコラウスさんの喉が嚥下することはなく、口の中に液体はいつまでもいる。
まさか、もう、飲み込む力さえないのか?
祈る様な気持ちでニコラウスさんの体をさすっているとレイの手がニコラウスさんの心臓の上に置かれた。
温かい・・・。レイの魔力がニコラウスさんの体に沁みこんでいく。
ゴクン。
ニコラウスさんの喉が動いた。口の中の液体が無くなったことにホッとしてレイを見つめた。
「ありがとう、レイ。」
甲高い声で遠吠えのように長く鳴くと魔獣は地面の感触を確かめるかのように足をドンドンと鳴らした。二足歩行、身長は私と同じくらいで手の長さは膝くらいまである。目は細長く、それに反して耳が大きい。
「オーヴェルとユーリスア、二つの国が滅びるのとあなたが死ぬのとではどちらが早いのかしら?」
ローザが呑気に話す声が聞こえる。
「・・・どうせ皆滅びるというのなら、急いでライファを殺す必要などないでしょう?こんなことに労力を使わず、放っておいてはどうですか?」
「ニコラウス、黙りなさい。これはあなたへの罰でもあるのよ。私を裏切ったあなたへのね。」
ローザの結界の中に魔獣と共に閉じ込められた。最初、魔獣は結界の外に出ようと走り出したが結界にぶつかり何度か試したところで、今ではこの結界の外には出られないと悟ったようだ。そして今、魔獣の目が私を捉えている。
「ベル、私から離れて。きっと魔獣は私を狙うはず。」
ベルは心配そうに小さな声でキュッと鳴いた。
「大丈夫。なんとかするから。」
そう言いながら魔獣から視線を逸らさずにベルを撫でると、ベルは了承したようにサッと飛び立った。どんな魔獣なのか知っていれば対策が打てるのに、ローザが交配した魔獣となれば魔獣に対する情報はゼロだ。
どんな特製を持った魔獣なのか、少しでも情報を得ないと。ここで死ぬわけにはいかない。
結界の外、オーヴェルとユーリスアの状況を映している鏡から、おぉっというような微かな喜び、希望、そんなものを感じるような声が聞こえた。魔獣から視線を逸らすわけにはいかない。今の声が良い風が吹き始めた希望の声でありますように、と願う。
「人の心配をする余裕があって?」
その言葉を合図にしたかのように魔獣が手を上げた。魔獣がその手を勢いよく振り落としたのを見て、咄嗟に右側に飛び込むように体を避けた。
カシャン、カシャカシャカシャン
先ほどまで私がいた場所に20cm程の長さの針のようなものが音を立てて落ちた。
氷!?この魔獣、体から氷を出すことが出来るのか。そういえば魔獣が出てきた部屋が空いた時、冷気が流れてきた。冷たい地域に住む魔獣ということか。魔獣が歩くたびにカチャカチャと爪が床にぶつかる音がする。本来ならその爪が凍った場所を歩く滑り止めの役目を果たすのだろう。
爪、長くて鋭いかもしれない。蹴ってくるようなら要注意だ。
魔獣が両手を振り回し、鋭い氷柱が次々と私を襲う。辛うじて避けられているものの服が破け、腕のあちこちがヒリヒリとした。
クオック
魔獣は小さくひと鳴きし、今度は床に両手をつく。魔獣が目を見開いた瞬間、床が凍り始め波のように私の元まで来た。自身の足も床と一緒に凍らないように、氷の波を軽くジャンプして飛び越える。床はさながら氷の湖のようになっていた。魔獣は立ち上がるとすぐさま氷柱を飛ばした。
「くっ・・・。」
魔獣が飛ばした氷柱を避けきれずに左腕に氷柱が突き刺さった。足が滑って踏ん張りが利かない。動きがワンテンポ遅れてしまう。
不味いな・・・。
姿勢を低く滑る様に氷柱をかわしながら小弓を取り出し眠り玉を撃った。弾が魔獣に当たるより先に魔獣の前に氷の壁が現れ、眠り玉は氷の上に散った。
「ダメか・・・。」
冷静に、観察するんだ。
「こんなに力の差は歴然だというのに、まだ諦めないのねぇ。」
ローザの声が聞こえたが今はそれどころじゃない。魔獣の動きに集中する。私が動くたびに魔獣の耳がピクピクと動く。動きを目で追うというよりも音で判断しているのかもしれない。動く時に音が出ないように動くか。いや、それは不可能だ。むしろ、余計な音に紛れてしまえばいい。背中のリュックに脇から手を差し込むと水筒を取り出した。そこに落ちていた氷の欠片を入れる。
「ぐあっ!」
先ほど受けた傷の脇にもう一本氷柱が刺さった。左腕に激痛が走る。だが、痛がっている時間は無い。歯を食いしばったままリュックから収縮鍋を取り出すと元の大きさに戻し、そこに水筒をいれて鍋に魔力を与えた。鍋は水筒を炒めるような動作を繰り返し、その度にガランガランと大きな音を立てた。水筒の中に入っている氷もカラカラと鳴っている。
その装置を3か所に設置した時、魔獣は苛正しそうに耳をピクピクとせわしなく動かし、鍋に魔力を放った。鍋が大きな音を立ててひっくり返る。その鍋を魔法で元に戻しながらリュックを漁ると使い慣れた突起に手が当たった。
これは使えるかもしれない。
取り出したのはサワンヤを擦りおろす時に使うおろし金だ。これを魔法で靴底に接着すれば動きやすくなるはずだ。ガチャガチャと絶えず鳴る音に苛々した様子の魔獣が次々と氷柱を放ったが、あらかた避けることが出来た。足に張り付けたおろし金のお蔭でだいぶスムーズに動けるようになった。
ググググ、グォー!!!
氷柱は当たらない、音は絶えずうるさい。苛々の沸点を超えたのか魔獣が甲高い声を上げた。平静を失っている今がチャンスだ。右足のおろし金で床を蹴り、氷柱を避けながら左足で滑るようにして魔獣との距離を縮めた。
魔獣は飛びのいて距離を広げながら左手を私に向けると、凍てつくような強風を放ち風に押されて私の体が下がる。咄嗟に左に移動し、風の軌道から外れ更に魔獣を追いかけた。眠り玉を撃つ。魔獣は壁を作ることもなく、自身に結界を張って回避した。
今だ!
私は素早くウニョウ玉を装填し放った。魔獣は先ほどと同じように結界を張ったがウニョウ玉は自身に結界を張ったところで回避できるものではない。ウニョウが魔獣の足元に絡みつき、魔獣が派手に転んだ。同時に魔獣の結界が解ける。
よし!このまま魔獣に眠り玉を撃ち込めば倒せる。
そう思い眠り玉を装填した時、おろし金が足から外れ痛めている腕から転んだ。
くっ、魔力切れか。
そのほんの一瞬の出来事だった。冷っとした気配に顔をあげると目前に魔獣が立っていた。時間がゆっくりと流れる。
さすが魔力ランク7。あの僅かの瞬間にウニョウを解除したのか・・・。魔獣が私に向かい手をかざす。私に致命傷となる一撃を放とうとしているのは明白だった。
ここで死ぬのか・・・。
もう一度、レイに会いたかったな。
「やめろ!!」
ニコラウスさんが結界の中に入ろうと結界に魔力をぶつけているのが分かる。その隣でローザが天井を見上げていた。魔獣の手に魔力が集まっていく。ベルの引き裂かれるかのような鳴き声が聞こえた。ここまでか。
バキバキバキバキ!!
大きな音と共に天井に穴が開き、崩れた天井の破片が粉の様に舞った。魔獣も呆然と天井を見つめている。
「ライファ!!」
空から降りてきた人物が一撃で魔獣を仕留め、私に手を伸ばした。その姿に体中が叫び出す。
「レイっ・・・!!」
私が伸ばした手をレイがしっかりと掴んでそのまま私を抱きかかえるようにした。
「ライファ、よく頑張ったね。もう、大丈夫だから。」
私を安心させるように微笑んだレイは私の良く知っているレイの表情だ。
「ライファ、これを飲んでいろ。よくやったな。」
師匠が私にヒーリング薬を渡し、頭を撫でてくれる。レイに師匠にグショウ隊長、再び会えたことが嬉しくて心強くて涙が溢れそうだ。
「師匠、ニコラウスさんを助けてください。計画を成功させるために青の薬を飲んだの。」
「チッ、邪魔な魔女どもめ。ニコラウスなどもう死んだも同然よ。」
言い終わらないうちにローザの指が白く光りニコラウスさんに向けて魔力を発射した。同時に師匠は足を上下に大きく開いて前かがみになると腕を下から振り上げた。
「フッ。」
軽く笑うような師匠の声。師匠が振り上げた腕からは鎌のような魔力が飛び出し、ローザの魔力を撥ね飛ばした。その隙にグショウ隊長がニコラウスさんを抱えてこちらに戻る。
「ライファ、その男にこれを飲ませろ。解毒薬だ。」
師匠はそう言って丸い形をした解毒薬を私に渡した後、ローザに向き合った。
「自己紹介は必要か?」
師匠がローザの気を引いている背後でグッタリと横たわるニコラウスさんに触れた。
「ニコラウスさん、しっかりしてください!解毒薬です。これを飲んで。」
ニコラウスさんの口の中に丸い解毒薬を入れた。解毒薬は小さな水風船のような作りになっているらしい。薄い膜の中に液体が揺れている。ニコラウスさんは焦点の定まらない目で天井を見上げながらなんとか口を動かそうとするが僅かに震えるばかりで、飲み込むどころか薄い膜を割ることさえ出来ないでいた。
手で膜を壊してもいいが上手く呑み込めるかさえ不安だ。
「すみません。」
そう言葉にすると私は自分の口でニコラウスさんの口を塞いだ。ニコラウスさんの口の中にある解毒薬に舌で触れ、位置を確認すると繋がりを深めて歯で膜を噛み切った。口の中に広がる苦味。
飲んで。お願い、飲んで。
願うもニコラウスさんの喉が嚥下することはなく、口の中に液体はいつまでもいる。
まさか、もう、飲み込む力さえないのか?
祈る様な気持ちでニコラウスさんの体をさすっているとレイの手がニコラウスさんの心臓の上に置かれた。
温かい・・・。レイの魔力がニコラウスさんの体に沁みこんでいく。
ゴクン。
ニコラウスさんの喉が動いた。口の中の液体が無くなったことにホッとしてレイを見つめた。
「ありがとう、レイ。」
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