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第四章

18. 逆惚れ薬

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この薬の考え方に近い、か。どういうことだろう。
一度壊して再構築する。まるで暗闇に突き落とすかのようだ。興奮させ感覚を麻痺させ、恐怖を増長させ錯乱させる。その効果を成長させていることから実際の効力は4か5くらいはあるだろう。眠りの効果は薬を効きやすくするためのものかもしれない。

ノートを読み進めていくと鎮静効果やリラックス効果、癒しの効果、体や心にプラスになる効果を集めた調合もあった。音楽を聴かせるというメモもある。これが再構築という部分か。一度突き落として救いを与えているかのようだ。まてよ、それを惚れ薬に当てはめたならどうなるのだろう。

恐怖を与え救いを与える。救いを与える相手がレベッカ様なら・・・。暗闇の中で光を与えるような存在に出会ったらどうだろうか。ハッキリと記憶に残らなくても潜在意識の部分に居付くことが出来たなら、特別な存在になる。きっとそうだ。考え方的に間違いはないと思う。あとはそれらをどう解毒していくか、だ。

ふと顔をあげると空が白みがかっていた。ニコラウスさんは何かを調合しているようで器具がカチャリカチャリと音を立てる。ニコラウスさんは一体何を考えているのだろう。私のスキルを使って高い効力を持つ薬材を調合させるのかと思えば私にレイの解毒薬を作ってみろと言う。ヒントまで与えて。

本棚に寄りかかる様にして座った。傍らでニコラウスさんがつけた炎暖房が燃えていてパチパチと鳴る。左前方から炎の温かい熱が頬をくすぐり、ぼぅっと目を閉じた。




パサッ
手に持っていたはずのノートが手から抜け落ちる感覚がして目を開けた。

毛布がかけてある・・・。

隣を見ればニコラウスさんが床に倒れたかのように何もかけずに眠っていた。ベルは炎暖房の前で丸くなっている。私は自分がかけていた毛布をニコラウスさんにかけた。

「もう昼か・・・。」

人が少ないせいか窓の外も静かでこの家の中にいたら外の世界のことがみんな嘘のように思えてしまう。まるで世界から切り離されてしまったかのようだ。何か食べ物でも作った方がいいだろうか。でも勝手に家の中を歩くのは・・・。そう思っているとニコラウスさんが、ん、と声を零した。

「起きてたの?」
「はい、少し前に起きました。ご飯でも作ろうと思ったのですが。」
「食材は何もないよ。そういえば君は料理をするのも好きだったね。食材でも買いに行く?」

「いいんですか?」
「あぁ、別に君を監禁している訳でもないし。それに今君が私の元から去るメリットが見当たらない。」
「それもそうですね。」

ニコラウスさんと連れだって町を歩く。人の少ない町でも小さな市場のようなものがあって、そこには5、6人の買い物客がいた。買い物客はニコラウスさんを見るなりサッと距離を取り怪訝な視線を投げかけてくる。

「何が欲しい?」
「・・・ニコラウスさんは何か苦手な食べ物はありますか?」

ニコラウスさんがえ?と驚いたような表情をした。

「私を憎んでいるんじゃないの?」
「そんなこと聞かないでください。嫌いな食べ物がないのなら私が勝手に決めますよ!」

「いや、苦いのは苦手だな。あとは甘すぎるのも嫌いで、野菜野菜しているのも苦手だし、ウニョッとした食感のものも苦手だ。あとは・・・。」

「もういいです。全部聞いていたら何も作れなくなりそう。」
こんなに嫌いなものがあったとは。今まで何を食べて生きてきたのだろうかと思う程だ。

「おばさん、この野菜をください。あと、この長いやつとサワンヤと・・・あ、その赤い果物もください。あと、これも!」

ベルが嬉しそうに運んできた果物も追加する。私が頼んだ野菜を籠に入れながらおばさんが私に寄ってきた。ニコラウスさんが離れた隙を見て私にこっそりと話しかける。

「アンタ見ない顔だけど誘拐されたわけじゃないよね?助けて欲しいなら正直にいいなよ。」
「いえ、そういうのではないです。他の町から来ましたけど。」

「そうか、それならいいけど。悪いことは言わない。あいつが本性を出す前にさっさとあいつの元を去った方がいい。」

おばさんはそう言うと食材を袋に詰め1380オンだよ、と言った。

「これで。」

ニコラウスさんがお金を払い品物を受け取る。ぷいっと店を出たニコラウスさんに続いて私も店を出た。町の人の視線がニコラウスさんに対して余所余所しい。それは私でさえも居心地の悪さを感じるものだ。大丈夫だろうかとニコラウスさんの表情を探り見るがいつもと変わらず無表情なままだった。



夕食は茹でたサワンヤでニョッキを作り、トマトによく似た食材でトマトソースを作った。野菜野菜したものは苦手だというニコラウスさんの希望を考慮し、野菜をペースト状になるほどすり潰してから羊乳と合わせたスープ、そして果物だ。

「・・・食べやすい。」

ニョッキを口に入れたニコラウスさんはそう呟き、野菜スープを飲んだ時にはこれは何だ?と声を上げた。ベルに食事を取り分けながら答える。

「野菜のスープですよ。」
「野菜感がない・・・。」
「そりゃそうですよ。野菜野菜したものは苦手だと言ったのはニコラウスさんでしょう?」

ニコラウスさんが口の端を上げて笑う。

「そりゃ、どうも。」
「ニコラウスさんは本当にこの町で育ったのですか?」
「そうだよ。」
「それにしては町の人達のニコラウスさんに対する態度がなんだか・・・。」

「あぁ、昔からだよ。私の両親は二人とも犯罪者だからね。犯罪者の間に生まれた私も罪を犯すと思っているんだ。最も、それは正しかったけど。」

可笑しそうにニコラウスさんが笑う。

「ご両親は?」

「私が7歳の頃に騎士団に捕まった。それからは一人だ。私の過去などどうでも良いでしょう?そんなことよりレイの薬のプランは出来た?」

「プランはまだ。でも、ストーリーはできました。ニコラウスさんの作った惚れ薬は、レイの精神を一度地に落とし、それをレベッカ様が引き上げることでレベッカ様=救いをレイの潜在意識の中に印象付けた。ここ1年の記憶を消すことで惚れ薬の効力を助長したのだろうと思います。」

「いい見解だね。」
「問題はここからです。ここからどうやって対処していくべきか・・・。」

考えながらニョッキを口に入れる。

「恋愛している状態ってどういう感じ?」

「どういうって・・・。ドキドキします。感情の起伏も激しくなるような気もします。ある種の興奮状態という感じでしょうか?」

「ふぅん、そうなんだ。レイといる時はそうなの?」

ニコラウスさんに言われてカッと顔が赤くなる。調合の話をしていたと思ったのに、何を一人でペラペラと・・・。恥ずかしくて顔を手で覆ってしまいたかったが、覆うと恥ずかしがっているのがバレて余計に恥ずかしくなる。膝の上でギュッと手を握った。

「まぁ、いいや。ある種の興奮状態という君の意見は正しい。その興奮状態は何のせいで起こっているのか分かる?」

「興奮するような分泌液を脳が分泌しているから、ですか?」
「そう、よく分かったね。だとしたら?」

「そうか!脳の分泌液の量を正常に戻せばいい。レベッカ様にだけ反応して脳の分泌液の過剰分泌を抑えるような薬。」

「そうだね、君が作らなくてはいけないのは逆惚れ薬なんだよ。」



食後からすぐ調合にとりかかった。ずるい考え方だとは思うが、逆惚れ薬に使う材料は全部ニコラウスさんが買ってこの薬材この中にあるだろうと思った。薬材をスキルで見ながら必要な効果を持つものを取り出していく。

サザーの実【リラックス効果 2】
ハクの大花【鎮静効果 4】

対象をレベッカ様に限定する為には集中効果のある薬材が必要なはずだ。あった、これだ。

コアの茎【集中効果 2】

他には・・・。あれ?他に逆惚れ薬に使えそうな薬材がない。もしかして逆惚れ薬って凄くシンプルな薬材でつくることが出来るんじゃないだろうか。

「これで全部?」
「はい。ニコラウスさん、もしかして逆惚れ薬って割と簡単に作ることが出来るのですか?」
「そうだよ。だから簡単には解毒できないように僕の魔力をキーに使っているんだ。」



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