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第四章

14. ライファの失踪

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ライファ失踪の情報はその日の夜にもたらされた。

「えぇ!?どういうことですか?」
ルカと二人、リトルマインに詰め寄るかのように顔を近づけた。

「だから、ライファが家を出て行ったんだよ。町に買い物に出かけて帰ってきたと思ったらいなくなっていた。「私にしかできないことをやってくるから探さないでほしい」と置手紙があった。」

「では探さないと?」
「レイ、お前ジェンダーソン家に伝わるペンダントをライファに持たせていただろ?」
「え?」

「自分の魔力というのは探そうとしない分には近くにあっても気にならないからな。むしろ自分に馴染んでしまう。渡したことも忘れている今なら、ペンダントをライファが持っていることに気が付かなくても不思議ではないか。」

婚約のペンダント・・・。それを渡すほど私はライファを大切に思っていたという事か。

「ペンダントをつけているのならすぐに探し出せるはず。どこにいるか分かるだけでも・・・。」
ペンダントを思い浮かべ自分の魔力を共鳴させる。通常なら魔力が応えて居場所が分かるはずだった。

「・・・反応がない。」
「そうだろう。ライファ一人の力ではこのような真似は出来ない。他の誰かと一緒だと考えるのが自然だろう。」
「ライファは無事ですよね?」

ルカの声に願望のような熱がこもった。

「勿論。レイのお守りが発動していない以上、今のところ命の危機にも直面していないさ。調合薬を完成させないままいなくなった。つまり、それだけ重要な何かがあるのだろう。ライファの好きなようにさせるつもりだ。」

「ライファの魔力ランクは幾つですか?あまり魔力があるようには見えないのですが。」
「1だ。」

「「1!?」」
私とルカの声が被る。

「それじゃ攻撃魔法も防御魔法もほとんど使えないじゃないか!危険すぎる!」
隣でルカが頷く。

「そんなことは本人が一番よく分かっている。あいつには魔力が少ないなら少ないなりに頭を使えと教えてきた。なんとかするさ。」

「リベルダ様!!」
「レイ、ライファは自分に出来ることをしに行くと言った。お前が今やるべきことは何だ?」

リベルダ様の言葉に唇を噛んだ。

「リーヤを見つけて帰ります。」
「あぁ、なるべく早くな。」
「「わかりました。」」



 翌朝は湖という先入観を捨てて森の西の奥まで行った。適当な場所に座って魔力を広げるも午前中を無駄にしただけだった。

「ちょっと整理しよう。なんで1月なんだと思う?そもそも本当に1月だけなのかってのも疑問だけど、でも誰かが1月にリーヤに会ったことがあるから1月なんだと思うんだよね。マリア様はなんて?」

「マリア様もリーヤに会ったのは1月だって言ってた。会ったのは偶然だって。ストレス発散に魔力を空に打ったら穴が開いたらしい。」

「ストレス発散に魔力を空に放つ・・・。大胆と言うか何というか・・・。」
呆れてこめかみを抑えた時、ハッと気づいた。

「空に、だと?」

てっきり森の中だとばかりに森の中に魔力を広げていた。つまり低い位置にだ。直ぐに目を閉じて魔力を空に広げるとあっという間に空間の歪みを発見した。

「見つけた!ルカ、行くぞ。」
飛獣石を出すと後ろにルカを乗せ飛び立つ。そしてそのまま空間の歪みに突っ込んでいった。

グググググ
ガガガガガ

空間と空間のつなぎ目が不安定なのか鈍い音が雑音のように聞こえる。振り落してしまわないようにルカの手をしっかり掴んだ。抜けた先はジャングルの地面だ。幾つもの視線を感じ、このまま立ち止まるのは危険と空まで一直線に上った。私の腰に回しているルカの手に力が入る。

「右から来る!」
ルカの声から3秒後、高速で右から現れた何かを飛獣石を下に下げることで避けた。

「助かる!」
短く礼を言うと、今度は「下!」とルカが叫んだ。1つ避ければまた1つ。次々と私たちに突っ込んでくる。

「上下!!」
「埒が明かないな。」

作った魔力玉を自分がいる位置に置くと素早く移動し魔力弾を破裂させるとその場から離れて森の中に飛び込んだ。飛獣石を手早く戻すと大きな葉の陰に隠れる。

「なんださっきのは。」
「さぁ、鳥のようにも見えたけど。チョンピーのように飛んできたね。あそこまでは早くないけどさ。」
「ルカのスキルのお蔭で助かったよ。あれがなきゃ、何発かはくらってた。」

「そりゃどうも。異空間には無事に来れたみたいだけど、ここってまさかリーヤだけじゃなくて他の生き物も好戦的だったりしないよね?」

「どうだろう、な!」
な、と言いながらルカの背後に伸びた手を目がけて魔力を放つ。

「ルカ、行くぞ!」

ルカと連れだって森の中を走る。次々と襲い掛かってくる魔獣を蹴散らし、魔力で飛ばしながら走った。ルカも結界で盾を使って防御したり、近づいてくる魔獣の急所を的確に突いている。

「はっ、レイ、どこかに隠れて作戦を立てないと僕が潰れる!」
「分かってる!自分たちの背丈ほどの魔獣を2匹仕留めて、一度元の空間に帰る。仕切り直しだ!」
「了解!」

息が上がる。私が魔獣を一匹仕留めると、ルカは魔獣と戦っているところだった。ルカに加勢し魔獣を絶命させると飛獣石の前面に魔力で括り付け飛獣石に飛び乗った。

「ルカ、前で運転を頼む。魔獣を避けてくれればいい。私は空間の歪みを探す!」

攻撃を受けている最中に探知魔法を使ったことなどないが無理だなんて言っていられない。こうしている今も魔獣の攻撃から逃げ続けているのだ。私の前に座りなおしたルカに体を預けながら魔力の比重に注意し意識を空へ向けた。

「やべぇ!」
ルカの声に意識を覚醒させ魔獣に魔力を放つ。

「のんびり探させてはくれなさそうだな。」
攻撃をかわしつつ、攻撃をしつつ、何度目かの挑戦でようやく空間の歪みを発見した。

「ルカ、飛獣石を右下へ。地面を抜けるぞ!!」
「オッケー!!」

地面に飛び込む瞬間、ルカの腰に回した手に力が入った。ザラリとしたノイズのような空間の歪みを抜けるとそこは雲ひとつない青空だった。

「はぁ、はぁ、戻ってきた!」
「あぁ、とりあえず地上へ降りよう。」

飛獣石から降りるとそのまま草むらに倒れるように転がった。ようやくゆっくり息が出来る。

「はぁ~、何アレ。ヤバくない?マリア様が思う存分戦ったって言っていたのってああいうことかよ!?」
「次から次へとあんなに襲ってくるとは想定外だったな。」
「ほんとだよ・・・。で、どうする?考えがあってのアレだろ?」

ルカが飛獣石に括り付けてあった魔獣を指差した。

「あぁ、あの魔獣の皮を削いで被る。嗅ぎ慣れない人間の香りに群がってくるのかもしれないと思ってね。」
「うげぇ、マジかよ・・・。」
「次々と襲われるよりマシだろ?」
「まぁね。でも・・・トホホ。」

その日は魔獣の毛皮作りで一日が終わった。




「うげぇ、まだ湿っぽい。本当にこれ着るの?」
翌朝、昨日干して寝た魔獣の毛皮を掴むなりルカがうんざりとした声を上げた。

「また怒涛の攻撃を受けたいのなら着なくてもいいけど。」
「そんなの死ぬ自信しかないわ。・・・着ますか。」

ルカはうへぇ、と声を上げながら身を縮めるようにして毛皮を被った。騎士団にいると魔獣の臭いも血の匂いもある程度は慣れてくる。ルカの反応が普通の反応なのだろう。

「ルカ、行くぞ。」
飛獣石に跨り空間の歪みを目指す。

―自分にしか出来ないことをやってくる

その言葉がライファの声で脳内再生される。私も私に出来ることをやるんだ。もうすぐ異空間へ突入するというその時、私の肩にチョンピーが止まった。チョンピーが口に咥えている手紙から微かにレベッカの香水の香りがした。思わず、手紙を取ろうと手を伸ばす。

「レイ、しっかりして。」
ルカはチョンピーにごめんねと謝ると私の肩からチョンピーを払った。そしてそのまま異空間へと突入した。


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