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第三章

65. 探索

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翌朝、朝食は各々の部屋で食べることが多いというヘイゼル公爵家のみんなにならって部屋で食べることにした。勿論、私とルカはレイと一緒に食事をするわけにはいかず、昨日と同じように厨房の隣にある部屋で頂いた。

「レイ、食後のお茶飲む?」
「うん、飲む。というか自分で用意するから大丈夫だよ。」
「いいからいいから。座っていて。言葉遣いはアレだけど、一応レイの従者だし。」

部屋に備え付けのポットでお茶を淹れているとドアをノックする音が聞こえた。

「はい。」
ドアに向かって返事をする。

「ジンでございます。」
「どうぞ。」

返事をすると同時にレイの正面に首が現れ、突然のことに驚いたレイの顔がこわばった。

「おや、驚かせてしまいましたかな?」
首だけのジンさんはそう言って満足そうにニコリと笑い、すぅっと体を現した。

「主からの言付けを預かっております。食後にリビングにおいでくださいとのこと。お坊ちゃまを紹介するつもりらしいですぞ!」

「ありがとう。もう30分もすればルカも戻ってくるから30分後にリビングへ行きます。」
「承知した。ライファさん、次回のお茶会、楽しみにしておりますぞ。」
「はい、クッキー、用意しておきますね。」

ジンさんは満足そうに笑うと姿を消した。



「おはようございます。」
「やあ、おはよう。よく眠れたかね?」
「はい、おかげさまで。」

レイがリビングに行くとヘイゼル公爵とロッド様、そしてもう一人、ファッションショーのパーティー会場で見た白っぽい金髪の美女がいた。

「息子のロッドにはパーティー会場で会ったな。こちらの女性はロッドの幼馴染でな、近々婚約することになっているシンシアだ。」

「初めまして。シンシア・クロードと申します。お目にかかれて光栄です。」

まるでお人形さんのようなその美女は立ち上がってスカートの端を持つとゆっくりとした動作で挨拶をした。

「今日はロッドとシンシアがこの島を案内しよう。チェルシー鳥が見つかることを祈っているよ。」

ヘイゼル公爵の笑顔に見送られながらリビングを出ると、いつも旅をする服に着替えて館の前に集合した。どんよりとした曇り空が広がっている。いつ雨が降り出してもおかしくない程の曇り空だ。

「いつ雨が降ってもおかしくない天気ですね。シンシア様はお屋敷におられた方がいいのでは?」

「いいえ、ご迷惑でなければぜひご一緒させていただきたいです。チェルシー鳥を捕まえるお手伝いをさせていただきたいですわ。」

シンシア様はそう言うと細い指をギュっと握って気合を入れた。思っていたよりも好奇心旺盛のようだ。

「俺には屋敷にいてもいいって言わないのかよ。」
ロッド様が不満げにもらす。俺にも気を遣えと言わんばかりだ。

「すみません。少しでも早くチェルシー鳥の涙を手に入れたくて、ロッド様には雨が降っていても島の案内をお願いしたいのです。」

「ちっ、面倒くさいな。」
薄暗い森をロッド様を先頭に、シンシア様とレイが並んで歩き、私とルカが続いた。

「この島はあまり広くはない。歩いて一周回るだけなら一日半もあれば可能だ。魔獣はいることはいるが魔力ランク3程度の小物ばかりだ。用心するに越したことは無いけど、まぁ、そんなに恐がることは無い。」

魔力ランク3。私にとっては命がけになるのに、貴族にとっては恐がることもない生き物なのか・・・。何度も味わってきた差ではるが、味わうたびにもう少し魔力が欲しいと痛切に思ってしまう。くぅーっっ。

「そういえば島の地図があるんだ。父上から貰っておいた。」

ロッド様は紙をヒラヒラと揺らすと浮遊魔法を使って皆に見えるように宙に浮かべた。そして地図を指さしながら説明する。地図で見るパウパオ島は人の横顔のような形をしていた。

「屋敷があるのがここ。島を人の横顔に例えるなら口のあたりに屋敷がある。そしてここ、目の部分には沼、耳の部分には崖があってもう一段高いところへ行けるようになっている。で、最初はどこへ行く?」

「とりあえず今日は島の北の端まで行ってみたい。この森の感じを見ておきたいし。」
「分かった。」

森はリューゼンさんが教えてくれた通りに手つかずのままの森で、次第に道らしきものもなくなった。草や枝をかき分けながら進む。ベルは空中を散歩しつつも私たちの場所を確認しているようで、空へ消えては私たちの元へ戻ることを繰り返していた。

「へぇ、光源虫が生息しているのか。」
ルカの声に振り向く。

「光源虫?」
「そう、暗いところで光るんだよ。」

ルカはそう言うと虫を掴み自分のコートの中に入れた。

「ほら覗いてみて。」
人の服の中を覗くのって・・・。ちょっと照れつつも覗くと、光源虫が服の中で煌々と光っていた。

「灯りみたいでしょ。」
「本当だ。」
「あ、ライファ。急がないと置いて行かれるよ。」

ルカに急かされて走る。

「うぉっ。」
思わず毀れた声に皆が振り向いた。

「あ、すみません。枝が跳ねてきてちょっとびっくりしてしまって。大丈夫です。」
「大丈夫じゃないでしょ。ここ、少し傷が出来ている。」

レイに言われて触ってみると、確かに指で触れた部分が沁みた。血が出ている訳でもないし、ほんのささやかな傷だろう。

「ほんの少しの傷でしょうし大丈夫です。」

私の言葉も聞かずレイは私の頬に触れるとあっという間に傷を治した。そしてそのまま私に簡易結界を張る。

「また枝で怪我をすると悪いから。」

だそうだ・・・。ロッド様の目が私に「足手まとい」と言っている気がする。なんとも言えない居心地の悪さを感じているとレイが今度はシンシア様の方を向いた。

「シンシア様も怪我をしたら大変ですよ。」
そして私にしたものと同じように結界を張る。

「まぁ、レイ様はお優しいのですね。ありがとうございます。」

そんな二人の様子を見ているとロッド様が二人の間にずいっと入ってきた。そしてレイがシンシア様に張った結界を解除する。

「シンシア、あれくらいの結界なら自分で張れるだろ。」
「・・・はい。」

シンシア様が少し下を向いて気まずそうに答えた。なんて意地悪な男なのだろう。いくら自分で結界を張ることが出来るとはいえせっかくレイが張った結界をわざわざ解除しなくてもいいではないか。むっとしていると背後で、なんだかなぁ・・・とつぶやくルカの声が聞こえた。

「あれ?雨が降ってまいりましたわ。」
「もう少し先に洞窟がある。そこまで急ごう。」

洞窟は島の真ん中、鼻のあたりにあった。奥が深そうな洞窟ではあるが入口は広く、地面は土なので少しひんやりするが座りやすい。各々が衣服を払い雫を落とした。

キューン

「ベル、おいで。」
ついいつものようにベルを呼び、体を布でふく。

「レイ様のペットにも懐かれているのですね。」
「あ、はい。」

シンシア様に微笑まれてドキっとした。今までこんなにふんわりとして美しい女性を見たことが無い。思わず見惚れているとロッド様の視線を感じた。そんなロッド様をレイが呼び止める。

「ロッド様、少し森を探らせていただきますね。ルカ、私の近くにいてくれるか?」
「はい、かしこまりました。」
「レイ様、今のうちに昼食の用意をしようと思うのですが宜しいでしょうか。」

「あぁ、もうそんな時間か。ではライファは食事の用意を頼む。」
「かしこまりました。ロッド様とシンシア様の分もご用意して宜しいでしょうか?」
「お前、料理が出来るのか?」
「はい、自己流ではございますが。差し支えなければお二人の分もご用意いたしますがいかがいたしましょうか。」

ロッド様は一度シンシア様の方を見たがシンシア様の目が好奇心に満ちていることに気が付いたようだった。

「あぁ、頼む。」
「かしこまりました。」

私はルカに背負って貰っていたリュックの中から次々と食材を取り出した。実は今朝、チータにお願いして食材を分けて貰っていたのだ。本当は少しだけのつもりだったが、ロッド様とシンシア様も食べるかもしれないと考えた料理長がアレもコレもと食材をくれた為、豪華な食材が手に入った。

さて、何を作ろうか。
あったかくて美味しいものがいい。


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